プリディクション - 第1話
「わたし、人を殺してしまうかも知れません」
保健室で熟睡していた雷瑚先生をあの手この手で起こし、ベッドの上に座らせて、紹介を始めようとしたあたしの言葉を遮って、彼女――大井遥は深く頭を下げた。そして、続けた。
「お願いです。どうか、わたしを助けてください!」
「……ああ、うん。オッケー、防犯? か? 誰に殺されそうだって?」
「先生、逆です逆。『殺されるかも』じゃなくて『殺してしまうかも』です」
目をしょぼしょぼさせている先生に、保健室の隅に備え付けられた冷蔵庫から未開封の水のペットボトルを手渡しながら、フォローの言葉を差し挟む。雷瑚先生は「どうもどうも」と返すが、どうにもまだ眠たげな調子だ。しかし、そんな中でも、疑問はしっかり湧くらしい。
「それで……なんだ。殺してしまう? 誰を、だ?」
「……それが」
「それが?」
「分からない、んです……分からないんですけど、誰かを殺してしまうかも知れなくて……」
大井さんが、実に済まなさそうに告げる。雷瑚先生はペットボトルの口を開き、ごくごくと中身を飲み込んでから、あたしの名を呼んだ。
「栄絵」
「はい、何ですか?」
「あたしのスマホ取ってくれねえ? 冷蔵庫の横で充電してっから。あと、話の補足も頼む。寝起きのせいか、全ッ然、話が頭に入ってこねえ」
ある日の放課後。だけど、後で振り返ると異様なほどに長かった、その日の放課後。それは、あたしの友人の奇妙な相談と、半分寝惚けた状態の雷瑚先生による、寝惚けた一言から幕を開けた。





