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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
フラワー
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フラワー - 第9話

 えっ、と、私は声を漏らした。呆れたような雷瑚の言葉に、ではない。


 体の内側を焦がすような灼熱が、全身を走り抜けたからだ。


「なに、これ――」


 呟きと共に、私は口内から熱いものを吐いた。血――ではない。


 炎だ。


「――ぁぁぁああああっ!!!」


 目の前が真っ赤に染まる。体の節々が溶けるような熱を放ち、燃え始める。私は大声を上げた。背を反って、空を見上げながら、目から、口から、体の奥から漏れ出す炎に全身を焼かれた。


 その中で。


「――わたしに」


 私は、空に一筋の亀裂が走るのを見た。


「燃やせないものは無し、よ!!」


 空が、割れた。鏡のように、ガラスのように。空に走った亀裂からは炎が迸る。そして、その炎を逆光のように浴びながら。


 彼女は、私の傍に着地した。


「なによ、あくうかんだか何だか知らないけど、やっぱり燃やせば良かっただけの話じゃない」


 涼ちゃん、と、私は燃える舌で呟いた。そして、ああそうか、と納得した。


 魔術装置を二度目に起動させたのは、雷瑚の用意したドローンではなく。


「お前……マジに無茶が過ぎるぞ。よりによって、あたしのドローンの代わりに魔術装置を動かすとか……」


「だって、もったいないじゃない! あんな高そうな機械、二台もオシャカにするなんて!」


 焦げた匂いがした。鼻も口もドロドロに爛れていく中で、私は私が――いいえ。


 私の『核』であった亜空間そのものが、グズグズに焼き砕かれたことを悟っていた。ああ、何てことだろう。こんなの、想定されていなかった。


 自分から亜空間に入り込んで、内側から無理やり空間をこじ開けて戻ってくる人間がいるなんて!


「ま、でも、分かったでしょ? 結果で応えるのがプロのしごと! 中から全部燃やし尽くして灰にしてやったから、もう『花子さん装置』だって動かなくなったわ! まさに完焼! ……って、あれ?」


 そこで初めて、涼ちゃんは私を見た。私も彼女の眼を見た。そして、その眼に微かな動揺が走ったところも。


 だけど、それも一瞬。


「何だ……やっぱりあんたが、『花子さん』だったんだ」


 ぼろぼろと、私の体が崩れていく。右ひじが崩れ、右足が崩れ、灰と化していく。声は……もう出せない。




『パイロキネシスは特段に攻撃的・破壊的な能力だと言っていい』




 雷瑚の言葉は、真実そのものだった。想定外の出力だった。あまりにも圧倒的な――何も残らないほどの炎だった。


「おかしいとは思ってた。あんたってば、友達の名前、全然言ってくれないんだもん」


 涼ちゃんはそう残念そうに言って――それから、ずんずんと私に近づいてきた。涼、と鋭い声で雷瑚が彼女を呼び止めようとするが、幼い霊能力者の歩みは止まらない。彼女は私の、燃え滓と化した首元を掴み、引き寄せて、強い光を宿した瞳で尋ねた。


「ねえ、教えて。わたしがあのトイレで初めて会った時、あんた、扉をノックしようとしてたわよね。それって、あのトイレに来た子供を罠にかけるため? 子供なんて、一人じゃ噂を試すなんて出来ないもの。他に仲間が――同じようなことを試そうとしてる子でも居ないと、ね。


 それとも」


 彼女はそこで、少し間を置いた。しかし、それも少しの――ほんの少しの間だけ。


「それとも、もしかして、自分で装置を動かすつもりだった? 色んな子を取り込んで、殺して――それが嫌になった、ってことは無い?


 だって、魔術装置自身であるあんたがアレを動かせば、あの装置、エラーで壊れたんじゃ、って思うの。もし、あんたがそう考えて動かそうとしてたんだったら――」


 言葉に被せるように、私は左手を持ち上げた。私はそれを彼女へ向けた。彼女へ――涼ちゃんの華奢な首へ。


 どうせ壊れるなら――。


「――わたしたち、友達になれたかもしれないのにね、メアリー」


 ――ぼん、と、火薬が破裂するような音が響いた。激しい炎が、蛇のように、持ち上げた左手ごと、私の全身を締め付けていく。その中で。


 私は、私をどこか寂しそうに見つめる、涼ちゃんの姿を見ていた。


「ばいばい」


 ――ばいばい、と応える前に、私の全身は灰と化した。

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