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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
ホロウ
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ホロウ - 第79話

   ●




 手を繋いでいた。病院の入り口で、(せわ)しなく行き来する人々を見ながら。


「真由ちゃん、どう? 友達とか先生とか……近所の人とか。誰か知ってる人は見かけた?」


 次から次へと担架(たんか)に乗った人々が院内に運ばれていく。この病院に避難(ひなん)していた人達ではない。


 飾荷ヶ浜(しょくにがはま)を覆っていた真っ黒なものが消えて、大勢の救助隊がやってきた。彼らは街に残っている人々がいないかも調べに行って、そして今、続々と怪我人が運び込まれている。


 家の中に閉じこもったり、逃げまどっていたり――真由らが思う以上に生存者は多かったらしい。


《今のところは見てない。卓明さんは?》


「うーん……実はちょっと眠くなってきてさ。さっきから目ェ(つむ)っちゃってたんだよね」


 卓明が笑った。どこかわざとらしく、どこか馬鹿っぽい笑い方だった。


「もうちょっとしたら、宇苑(うえん)兄ィや婆ちゃんたちのところに戻ろうか。大丈夫、明日も明後日もある」




 ――じゃあ、その先は?




 思っても、真由は伝えなかった。既に自身の力については(おおむ)ね把握できている。どうすれば相手に言葉を伝えられるのか。どうすればモノを揺らせるのか。体を動かすのと同じ感覚で、『伝える』力を行使できる――その確信がある。


 確信は、もう一つ。きっと声は戻らない。


「そういえばごめん、言うのを忘れてたんだけど」


《なに?》


「助けてくれてありがとう。俺と宇苑兄ィが洞窟(どうくつ)に落ちた時、洞窟の底を振動で砕いて砂にしてくれたよね」


 逆に言えば、それくらいしか出来ることは無かったのだ。無脚の巨人を壊した宇苑が背から真由を降ろし、凄まじい力であの場所に跳躍(ちょうやく)していった後、真由も彼を追いかけた。追いかけて追いかけて……ようやく辿(たど)り着いたタイミングで、彼らは洞窟の底へ落ちて行った。


 あの時に見たものも、卓明には伝えていない。彼の兄・国明が……口角をあげてこちらに視線を向けたこと。


 卓明に似た、優しい目だった。


「お陰で、俺も宇苑兄ィもピンピンしてる」


 命の恩人だ、と卓明は再度笑ったが、その顔面はおろか全身のありとあらゆる場所にガーゼが貼られている。ピンピンしてる、という表現は何となく合わない気がする。


「帰る途中に宇苑兄ィも言ってたけど、本当に凄い力だ。真由ちゃんみたいな特異能力を持ってる人は、除霊師になったらコードネームを貰えるんだよ。さっき会ったウチの婆ちゃんがそうなんだ。少なくとも一生()()()()()()()しないって」


 諜報員(ちょうほういん)みたいでカッコいいよね、と卓明。真由はどう返していいものか迷った。




 ――そんなものいらない。




 率直に言うと、その一言に尽きる。


 お金を(かせ)ぐことが大変なのは知っている。母はそのために売りたくもない(こび)を売り、着たくもない派手な服を着続けた。そのお陰で自分が今ここにいることも知っている。


 それでも思ってしまう。自分が欲しいのは、そんなものではなく――。


「でも正直言うと俺、真由ちゃんには除霊師になって欲しくないなぁ」


 喧騒(けんそう)は嫌でも耳に入ってくる。時折、怒号のようなものも聞こえる。


 だが、卓明の言葉は何よりもクリアに聞こえた。


《どうして? カッコいいって言ったのに》


「そうなんだけどね。やっぱり危ない仕事だし……婆ちゃんや宇苑兄ィみたいな凄い人達だって、どこかに行ったっきり帰ってこなくなるかもしれない。それは嫌だなって」


《那奈さんは?》


「那奈? 那奈は……うーん、難しいな。『二度と会いたくない』って言われちゃったし。それになんていうか、あいつは飾荷ヶ浜(しょくにがはま)から出た方が良いような気もする」


 何となくだけど、と卓明は言った。


 何となくなんだ、と真由は伝えた。


《じゃあ》


 声は出ない。それは間違いない。


 なのに、何故か喉がカラカラだった。舌が口の底に張り付くようだ。


《もし私がどこかに行かなきゃいけないときは、一緒についてきて欲しいです》


「オッケー」


 お気楽にも程がある返答だった。およそ重みというものが感じられない。


《来週も来月も一緒に友達とか探してくれる?》


「もちろん。一緒に探そう」


 からりとしている。だから真由も、出来るだけ何でもないことのように伝えた。


《じゃあ、除霊師なんてならない》


「……そろそろ帰ろうか」


《うん。すぐそこだけど》


「うん。すぐそこだ」


 病院の入り口から、卓明の祖母と兄がいる天幕へ――距離にして、およそ百メートル。その短い帰り道を、夕暮れに照らされながら、二人で帰っていく。


 手を繋いでいた。明日もきっと繋いでいるだろう、と真由は思った。



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