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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
フラワー
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フラワー - 第5話


 結論から言うと、雷瑚の三階トイレ訪問はあっという間に終わった。彼女は道すがら私たちの事情を聞き、現地に着くと実にザックリ小汚いトイレの内装を眺め、各個室を一つずつ開いては鼻を鳴らし、「くせえくせえ」と一人ごちていた。三番目の個室――例の『花子さん』が出るというところ――も彼女は臆することなく開き、中に誰も居ないことを確認すると、すぐに扉を閉めた。


 ノック三回と、「遊びましょう」の合言葉を口にすることは無かった。


「で」


 腰に手を当てて、私の隣で涼ちゃんはイライラした様子で尋ねる。


「ここでナニする気なの? さっきから自分一人だけ納得した感じで何も言わないけど! 何なのかしら!? ねぇマリー、あんたもそう思うでしょ!?」


「えっ、あっ、うん。私の名前、メアリー……」


「か弱い女の子二人連れ回して、いいごみぶんじゃない!」


「あーハイハイ、キーキーうるせーなー、ったく。今から説明するっつうの」


 ボリボリと頭を掻いて、先導していた雷瑚はこちらを振り向いた。その背後――彼女が足を運ぼうとしていた先には、ピンと貼られた黄色いビニールテープが見える。


 古い校舎の、裏。すぐ傍には鎮護の森のように樹々の生い茂る鬱蒼とした森が広がっていて、ビニールテープはそれら太い樹木の幹と校舎の壁を器用に繋いでおり、とある校舎裏のとある一角を、数メートル四方に区切っている。


 私は傍の校舎を、壁に沿うように見上げた。……所々に奇異な蔦が伸びていて、まるで木造の古い校舎を『何者か』から護ろうとしているかのようだ。お世辞にも綺麗とはとても言えないけれど、歴史を感じる壁面……というと、褒め過ぎだろうか。


「……ここ」


 見上げながら、呟く。そう、位置的に、この場所は。


「さっきのトイレのすぐ下――数日前、女子生徒の遺体が発見された場所だ」


 私の言葉の先を読んだかのように、雷瑚はそう言って天を仰いだ。それから、先ほどまで髪を掻いていた右手で、地上から十メートルほどの高さにある、一辺三十センチほどの小さな窓を指さす。


「あそこがさっき御宅訪問した花子さんとやらの住処。で、女子生徒の遺体は、あの窓ガラスから直線距離にして約二メートル離れた地点に落ちてた」


 次に、雷瑚は再び私たちに背を向けて、前方、黄色い『KEEP OUT』と書かれたテープの奥、四角く区切られた大地の一角へと人差し指を向ける。……血の跡などは見当たらない。乾いた、むき出しの大地があるだけだ。


「あの小さな窓だ、子供なら無理して通れんことも無いだろうが、仮にそうしたところで校舎の壁から二メートルも離れた場所に落ちるのはまず無理だ。ロックマンみてーに壁蹴りでもすりゃ別だろうがな」


「ロックマンってなに?」


「知らない、漫画か何かじゃないの」


「女子め」


 溜息をつきながら、雷瑚はビニールテープを手で乱暴に剥がし、立ち入り禁止となっていた大地の一角へと突入した。足音が、誰も居ない校舎裏で、妙に強く響く。


「ま、検死の結果、女子生徒は角度をつけて大地に落下したんじゃなく、この『直上』から落下した、って結論付けられてるんだけどな。しかしご覧の通り、直上には空が広がるばかり、だ」


「……飛行機から落とされた……とか?」


「成る程、確かにそれも有り得ん話じゃねーな。航空記録までは調べて無かった。……っつっても、飛行中の飛行機のドアが開いたら大事件だ、それも可能性は極めて低いだろう。ま、五年前に失踪した女子生徒が、五年前と全く同じ姿で、前日に死亡したてホヤホヤの状態で見つかってんだ、もう何でもアリかも知れねーけどな」


「で、だから? 何が言いたいわけ?」


 両手を白衣のポケットに突っ込み、数メートル四方の大地の中央に陣取ってこちらに背を向けたままの雷瑚へ、涼ちゃんが刺々しい言葉を放つ。……どうも、涼ちゃんは話をじっと聞くのが苦手なタイプらしい。


「すぴりちゅあるな何かが関わってることなんて、もうとっくの昔に分かってるじゃない! だからこそわたしやあんたにお声が掛かってるわけだし? 問題は」


「そう、問題はここからだ。『如何にして現在行方不明中の女子生徒を取り返し、ガキの命を奪う邪悪をブチのめすか』? あのトイレに何かあるだろうことは、お前がアホ丸出しで放火しようとして失敗したことでハッキリしてるが――」


「誰がアホ丸出しよ!」


「同時に、まともな手出しが一切無効化されるであろうこともハッキリしちまった。世の中にゃあ嘘みてえな特異能力を持つ除霊師が幾らでも居るが、その中でも例外なく、パイロキネシスは特段に攻撃的・破壊的な能力だと言っていい。何せ、悪霊だろうと人間だろうと、関係なく炭屑に変えちまうんだからな。あたしからすりゃ反則もいいとこだ」


「よく分かってるじゃない」


 ふふん、と、涼ちゃんは鼻を高くした。純粋だなぁ、と思う。


「力任せは通じない。かと言って、持ってる情報も極僅かだ。だが……ああ、涼、よく覚えとけ。こういう場合、まずあたしらは何をすべきか?」


「全部燃やしちゃえばいいじゃん」


「力任せは通じない、っつっただろうがアホ。分析、推論、仮説検証だ。


 幾つかの事象から、あたしは今回の事件をこう推論する。『あのトイレは、一定の手順によって対象者を亜空間に引きずり込み、何者かにエネルギーを送信する魔術装置である』」

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