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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
ホロウ
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ホロウ - 第32話

「何だ坊ちゃん、除霊師のこと知らねえのか? ま、俺も今日まで眉唾(まゆつば)だと思ってたんだけどよ、こうやってまだ生きてられてるってことは、世の中にゃ『本物』がいるってことなんだろ」


 見ろよ、とチンピラ男は自らの首に提げていたネックレス――ではなく、円状の糸を掴み、服の内側にあった『それ』をこちらに見せびらかした。


 御守……どこの神社でも購入できそうな、凡庸(ぼんよう)そのものの御守だ。装丁は青く、中央にミミズが()うような文字が書かれている。生憎(あいにく)、真由にはそこに何が書かれているのかは読めなかった。


「こいつはウチの親父がどこぞで貰ってきたもんでな。始終着けてろ絶対外すな、なんて()ん殴ってきそうな勢いでいつも言ってくるからよ、仕方ナシにこうして持ってんだが……コイツはすげえぞ。周りの奴らがあの真っ黒な化け物たちに食われていく中でもよ、俺の近くにだけは全然近寄ってこねえ! 効き目バツグンってやつさ」


「……意外だなぁ」


「あ?」


「あんた、『生き残れてるのが御守のお陰』だなんて言うようなヤツには見えないからさ。どっちかっていうと馬鹿にしてそうだけど」


「あぁ……ま、テストが出来たもんでね。御守は二つあってな。今は那奈が持ってるが……化け物共に投げつけてみると、みんなビビッて引っ込んでいくんだ、笑っちまったぜ」


 そう言ってチンピラ男は笑ってみせたが、その顔は若干引きつっているように見えた。よく見ると額には汗もダラダラ流れている。正気……を辛うじて保っている。そんな印象を受ける。


「で、だ、それはそれとしてサッサと話せよ坊ちゃん。どうやってここまで来た? チラチラ外見てたからな、俺にゃァ分かってんだ。外には化け物がうじゃうじゃいる。隙あらば俺らも喰う気マンマンだ」


「でもあんたにはその御守があったんだろ? 襲われる心配が無いのに、何でここから動かなかったんだ?」


 卓明にとって、それは純粋な疑問だったのだろう。だが相手にはそう受け取られなかったらしい。というのも、尋ね返した途端、チンピラ男の――恐らくは上辺を(つくろ)っただけの――笑顔がスッと消え失せたからだ。


「何だ? 悪いか? 何が悪い? 何が起きるか分からねえんだ、何でわざわざ外に出る必要がある?」


「だからってここでずっと座ってても何も……まぁそれはいいや」


「何がいい? 何が言いたいんだおいガキ」


「俺が言いたいことは三つだ。一つ、俺には除霊師の兄貴が居て、いま無事なのもその兄貴のお陰。二つ、俺たちはこれからその兄貴と落ち合うために飾小……ええと、飾荷ヶ浜小学校まで行く。三つ、俺は那奈……と生き残りのあんたも連れて行きたい。ここで閉じこもってるよりも、他の生存者を探しながらここから脱出できる道を探した方がいいと思うから。どうだろ? 一緒に行かないか?」


 卓明はチンピラ男に迫られても、一切(ひる)むことなくそう言い切った。真由は拍手を送りたかった。この二人と共に、というのは率直に言ってあまり嬉しくは無いが、生存者が多いに越したことはない――と思う。瓦礫を押しのけるにせよ、生存者を探すにせよ、だ。


 チンピラ男は不快そうに卓明を(にら)んでいたが、その内にフンと鼻を鳴らした。どうやら卓明の提案に応じるつもり――だったようだ。


 だが。結果としてそれは為されなかった。何故か。理由は単純だ。


 男が気づいたからである。


「……おい待て。ガキ、お前のほっぺたの黒いの、もしかして」


「ほっぺた?」


 卓明が不思議そうに右手で頬を触る。その間に、チンピラ男は真由へ視線を移した。そして目を見開いた。男は見たのだ。真由の腕を――(すす)(ほこり)では説明がつかない程の漆黒が、真由の腕を覆いつつあるのを。


「お前……お前ら、外を出歩いてたっつってたよな? だからじゃねえのかよそれ。だからそうなったんじゃねえのか!?」


「はぁ? あのさ、ちょっと落ち着け――」


「その顔面! その腕!! お前ら、あの化け物になりかかってるんじゃねえのかよ!!」


 チンピラ男はそう神経質そうにがなると、那奈の腕を強引に引っ張り、玄関の奥へと退いた。鬼気迫る様相で距離を取られた卓明は(しばら)く呆気に取られて男を見つめていたが、やがてこちらを見て――真由の腕を見て、男の言葉の意味を認識したらしい。


「真由ちゃん、その腕……えっ、何で? 俺たち――」


「出てけ! 分かったかよ、やっぱり俺が正解だった! 俺の方が正しかったんだ! 外に出ちゃいけねえんだよ! 絶対そうだ、そうに決まってらぁ! お前ら二人とも、その内あの化け物に――!!」


 男のヒステリックな声は途中で途切れた。正確には声を上塗りするに余りある莫大(ばくだい)なボリュームで地響きが轟いたのだ。


 一瞬、だった。少なくとも真由にとっては。


 彼女と卓明の足元は突然に陥没(かんぼつ)し、二人を支えていた筈の地面も崩壊した。真由は咄嗟(とっさ)に卓明に抱き着いた。放さないように、離れないように。


「――奈!」


 卓明の叫びが地響きの隙間へ(かす)かに割り込んだ。だがそれも呑み込まれた。何かおおいなるものに。


 突然の地震、破壊的な地響き、崩れ去る大地。それらに抵抗も出来ず、真由と卓明は共に暗黒へ呑み込まれた。






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