ホロウ - 第14話
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祖母のナヲ子が彼を連れてきたのは、蒸し暑く、肌が灼かれるような青天の、とある夏の日だった。
「――というわけで、今日からこの子はウチの子になったのよ。国ちゃん、卓ちゃん、仲良くね」
タクシーから降りた祖母は、そう言ってニコニコと卓明らに微笑んだ。が、小学校に上がりたてだった卓明ですら、無邪気に微笑み返すことなど出来なかった。
というか、ドン引きしていた。
ナヲ子が腕を引っ張って車から降ろしたその少年は、頭から足元まで全身くまなく泥と血と汗に塗れ、フラフラと揺れていたのだから。
大怪我。
瀕死。
ボロ雑巾。
「母さん」
隣に立っていた父・継一が冷や汗混じりに言った。
「その前に病院だろ」
同じ気持ちらしい。だが、ナヲ子は表情を変えない。笑顔のままだ。
「大丈夫よぉ。自分でつけた傷の具合くらい分かるもの。このくらいじゃあこの子は死なないってね」
「か、母さんがやったのか」
「そんなことより! 家族が増えるんだよ、みんな。もっと嬉しそうにしなさいな!」
「やったぁ! 家族だ家族だ!」
不意に、父の逆隣にいた兄・国明が両手を上げて歓声を上げた。どうかしてるんじゃないか、と卓明は思った。兄は能天気にアホ面を晒しながら、ボロボロの少年の前に立って捲し立てる。
「俺は国明! よろしくな! お前幾つ? 俺は十三! 同い年くらい? 兄の座を賭けて勝負する!? ストⅡやろうぜストⅡ!」
「やらない」
ボロ雑巾のようなその少年は、国明のハイテンションを冷たくあしらうように、ぼそりと告げた。
「俺に家族はいない」
――これが卓明のもう一人の兄・渡辺宇苑との、初めての出会いだった。





