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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
リメイク
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リメイク - 第19話

   ●




 坂田雨月からの猛烈な抗議の電話を切って、碓井磐鷲(ばんしゅう)は小さく息を吐いた。スマホスタンドに伸ばした右手をそのままスーツの首元に向け、ネクタイを少し緩める。


 雨月の言い分はこうだ。


 今日から自分と晶穂(しょうほ)は公立高校に職場復帰するはずだった筈だ。それが(ふた)を開けてみれば自分だけしか来ておらず、結局、夜になっても晶穂(しょうほ)が来ることは無かった。どういうことか? (だま)したのか? 上司だからと言ってやっていいことと悪いことが有る筈だ。そして晶穂(しょうほ)からの詫びの連絡も無い。一体、磐鷲(ばんしゅう)晶穂(しょうほ)に何を命じたのか?


 高速道路を降りて、既に十数分が過ぎていた。山間の静かな道路を、夕暮れの紅い陽が射す国道を、遠出用の古いマニュアル車で法定速度を律義に守りながら磐鷲(ばんしゅう)は進んでいく。機嫌が悪い時の雨月は、突き刺すように冷たい口調でイチイチこちらの言い分を(さえぎ)るようにしながら主張を続けるため、非常に神経を使う。率直に言えば苦手だ。普段が理知的で優秀な除霊師である分、晶穂(しょうほ)が絡む話での暴走具合は、相手をしていて胃が痛くなる。


 今回も、素直に晶穂(しょうほ)の現状を伝えるなどすれば――常世遺物(とこよのいぶつ)を扱うための修練を卜部(うらべ)(かさね)と共に一週間ほど山籠りしながら行うことになった、などと伝えてしまえば――雨月は「何故そこで私を除け者にするのか」と静かに怒った挙句、磐鷲(ばんしゅう)の指示などまるで無視して公立高校の職務を放り出し、自力で晶穂(しょうほ)の居場所を探り、向かってしまうことだろう。虫も殺さないような顔をしておきながらその実、雨月の本性は狂犬に近しいのだ。故に、雨月には「晶穂(しょうほ)は修業の都合で一週間は職場復帰できない」「師事する相手のスケジュール上、かなり急な都合となった」と詳細な事情をほぼほぼ伏せて伝えることにしたのだが、あの分では全く納得していないだろう。明日辺り、またクレームとも怨讐(おんしゅう)ともつかぬ言葉で(なじ)りの電話を入れてくるに違いない。磐鷲(ばんしゅう)憂鬱(ゆううつ)だった。昔はまだもう少し可愛げがあった――。


「――いやそうでもないか」


 車内で独り、呟く。晶穂(しょうほ)と雨月は二人揃って磐鷲(ばんしゅう)の講に入った。入りたての頃、晶穂(しょうほ)は素直で口も悪くなかった。一方、雨月は最初から磐鷲(ばんしゅう)をどこか敵視していたきらいがある。とはいえ、ぶつくさ言いながらも『一旦退く』という選択肢を取れるようになっただけ、雨月も大人になったのかも知れない……。


「……いやそうでもないか?」


 日本でも三本の指に入る治病祈祷の力を持ち、更に特異能力まで有する巫女・卜部(うらべ)(かさね)


 過去の体験から、生者ながら死者の特性をも併せ持つコードレス・雷瑚(らいこ)晶穂(しょうほ)


 その晶穂(しょうほ)と共に磐鷲(ばんしゅう)の講に入り、攻撃的な特異能力と理知的な判断力を持つコーダー・坂田雨月。


 そして――彼女らと同様、幼少期から磐鷲(ばんしゅう)の講に入り、今は常世遺物(とこよのいぶつ)を片手に年がら年中『探し物』をしているコーダー・渡辺宇苑(うえん)


 磐鷲(ばんしゅう)が作った講に所属しているのは、現状、磐鷲(ばんしゅう)以外にこの四名のみ。この講において、雨月の精神的成熟度は上から四番目くらいだろう――磐鷲(ばんしゅう)はそう考える。勿論、一番は自分だ。そして、五番目――最も精神的に危うい者のフォローのため、いま彼は車を走らせている。


 ……と言っても、正確には支援を要請されて向かっているわけではない。この行動は磐鷲(ばんしゅう)自身が決断した故のものであり、向かったとて何の意味も無い可能性は十二分にあり得る。その場合、雨月は更に怒るだろう。「自分への説明責任を果たしたくなくて逃亡したのだ」などと言って。


 そうであれば良い、と磐鷲(ばんしゅう)は思った。そうであれば。この行動が杞憂(きゆう)に終われば。それが一番だ、と思う。小娘の小言を聞くくらいで事態が終わるのならば、どれだけ良いだろう。そう思う。


 つまり。


 磐鷲(ばんしゅう)は半ば確信していた。


 自分の向かう先で、何か――破滅的な何かが待ち受けているであろうことを。


「無事に終わればい」


 そこまで言葉が出たところだった。不意に。


 夕の陽が消えた。


 夕陽が水平線に沈んだのではない。突然、まるでスイッチを切った電球のように突然に、闇の(とばり)が降りたのだ――それを知覚した瞬間だった。








 磐鷲(ばんしゅう)の車は『何か』にぶち当たり、その衝撃で豪炎に包まれた。









【リメイク 完】


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