エンディング - 第3話
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「売れねえ作家かなにか……ってところか」
長椅子に座り、彼女は独り呟いた。屋台は消え去り、眼前には長椅子が幾つか置かれた休憩所が広がっている。祭りの喧噪は背後から絶え間なく続いており、蒸し暑さに彼女は白衣の袖で額を拭った。
ぽつんと、正面の長椅子に、古ぼけた一冊の本が置かれている。
「豪華プレゼント、ねぇ」
彼女は本を手に取り、無造作に頁を捲った。『エンディング』と背表紙に書かれたその本には、先程の男から聞いた、幾つかの物語が記されている。それを目で追って、やがて彼女は本を閉じた。そして、立ち上がる。本を片手に、夜空を見上げながら。
後に花火が上がる予定の空には、ちらほらと小さな星が瞬いている。風が吹けば涼しいが、吹かないとじんわり肌に汗が滲む、そんな夜だ。
「ま、貰っといてやるか」
呟いた直後、仄かに蚊取り線香の香りがした――ような気がした。
【エンディング 完】
後書きと言う名の備考:
本作は「第6回Text-Revolutions」という文芸系イベント開催に当たって企画されたテーマアンソロ(※定まったお題を元に大体4000字くらいで参加者が短編を作成し、カタログに掲載するアンソロジー)で執筆したものです。
前書きにもあるように既に別サイトで公開済み作品ですが、世界観およびキャラクターが共通しているため、改めて投稿させていただきました。
「Text-Revolutions」というイベントについては下記公式HPをご参照ください。
宜しければ足を運んでみてください。色んな作品と出逢える、素敵なイベントですので。
<https://text-revolutions.com/event/>





