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コードレス~対決除霊怪奇譚~  作者: DrawingWriting
リメイク
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リメイク - 第17話

   ●




「やれやれ、思った以上に凶暴な遺物だ。雷瑚(らいこ)晶穂(しょうほ)以外には毒にしかならないに違いない」


「何が凶暴だって?」


「わぁ」


 独り言と共にこそこそと地面を這っていた天道の首根っこ――正確には彼が来ているパーカーのフード部分を掴み、晶穂(しょうほ)は彼の体躯を思い切り踏みつけた。空いた片腕からは天狗の錫杖(しゃくじょう)を取り出し、天道の後頭部に石突を突きつける。


「よう、この度はご教授いただき誠にありがとうございました。だがやるだけやって何も言わず消えようってーのは、ちょっくら自分勝手が過ぎねえか?」


 焼け(ただ)れた両手の甲、軋む全身の骨、手酷く()った時が如く肉の内側が爆発するような痛みの走る両足。これだけの満身創痍(まんしんそうい)だ、病院送りは間違いないだろう。


「ま、あたしの怪我については授業料、或いは試験代ってことで片付けるとしてだ。必要だったんだろうとはいえ、勝手に(かさね)姉を巻き込んだのはいただけねえな? 最終試験であたしがミスってたらアレ、(かさね)姉も死んでただろ?」


「それはそうだろうね。ところでキミ、よく僕を見つけられたね」


「数少ない特技の一つでな。あたしゃ他人より鼻が利くのさ」


「そういえばそんな設定あったね」


 呑気にこぼす天道の後頭部を、晶穂(しょうほ)は遠慮なく石突で小突いた。児童虐待(ぎゃくたい)だ、などと天道が言う。だが、相手が本物の『天道法師』であれば、その正体は1400歳を超える老人である。ならばここは老人虐待とするのが正しい……いやいずれにせよ宜しくは無いのだけれど。


(かさね)姉を巻き込んだ詫び代、それと試験合格の祝い。最低でもこの二つ分の情報くらいは要求してもバチは当たらねえと思わねえか?」


「うーん強引だ。それで、何が知りたいの?」


 実に素直だ。晶穂(しょうほ)は思わず舌打ちをした。


「その余裕綽々(しゃくしゃく)な態度、滅茶苦茶ムカつくぜ。こちとら今にもぶっ倒れそうだってのによ」


泰然自若(たいぜんじじゃく)と言って欲しいな。それと、多分キミが今日ぶっ倒れることは無いと思うよ。常世遺物(とこよのいぶつ)を手に入れた者は耐久力と自己治癒力が大幅に向上する。実際、今もキミはこうして僕を捕まえたり出来てるわけだしね」


 ちなみに、と天道は試すように言った。どうしてそんな影響がもたらされるか分かるかい、と。


「……混ざるから、か? いや呑み込まれる……のか?」


「両方正解だけど、キミに限って言えば前者の表現が妥当かな。この世の理に縛られないエネルギー源を手に入れた肉体が、欠乏した生命力をそのエネルギーによって補填(ほてん)するわけだ。ただし、誤解しちゃいけない。そうやって都合良く遺物を扱えるのは、キミが過去の体験によって半ば死者となっていることに起因している。仮に普通の人間がその杖を扱ったなら、あっという間に遺物に宿る情念に呑み込まれてしまうだろう」


 すらすらと天道は説明を続ける。恐らく、こうして晶穂(しょうほ)が捕まえにくることも説明を求めることも、彼は予想していたのだろう。何もかもが掌の上という訳だ。


「いま言った通り、常世遺物(とこよのいぶつ)にはそれぞれの特性とも言うべき情念が宿っている。例えば、僕の『(さい)之石』は憐憫(れんびん)の情念の塊みたいなものでね。せめて苦しまないように――とでも考えているのか、戦いの際は相手を一撃で(ほうむ)れるようにエネルギーを解放する。要は手加減させてくれない。


 そしてキミの持つ『天狗の錫杖(しゃくじょう)』は……そうだな。厭悪(えんお)、かな。恐らくは、目の前にあるものを全て憎んでいる。僕がそれを使ったら、きっと手加減なんてさせてくれないだろうね」


「結局同じじゃねーか」


「結論はそうだ。だけどプロセスが違う。これは大事なことだよ、雷瑚(らいこ)晶穂(しょうほ)。僕が言いたいのはつまり――」


「『他人に錫杖(しゃくじょう)を触らせるな』か?」


「正解」


 そう告げられたのと同時だった。不意に、足の下の感触が消えた。


 姿勢を崩しそうになって、しかしすぐに錫杖(しゃくじょう)で体を支える。


「では、これにて『常世遺物(とこよのいぶつ)の扱い方』基礎講座は終わり。応用講座はまたいつか、機を見てね」


 粉塵が落ち着き始めた古い広場、晶穂(しょうほ)の前方数メートルのところで、天道が何食わぬ顔で立っていた。つい今の瞬間まで、晶穂(しょうほ)足蹴(あしげ)にされていた筈だというのにだ。


「試験合格祝いにはこれくらいが丁度いいだろう。キミは『卜部(うらべ)(かさね)を巻き込んだ詫び代を払え』と言ったけど、それは(おご)りだよ。彼女はキミの試験に必要不可欠なパーツだった。揃えたことに感謝こそされど、詫びろというのはお門違いさ」


「光」


「というわけで……えっ、なに?」


「特異能力だ。光を操るんだろ、あんた」



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