リメイク - 第12話
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このアプローチに誤りがあったとは思わない。
第一ステージとやらで有効打であった常世遺物による全力の横薙ぎ。それを眼前に叩き込む。相手の反撃も次の二の矢も考えない、捨て身や無心、一意専心の領域で。
自信はあった。
死地における全身全霊の攻撃なら、ブードゥーの魔術師との戦いで体得している。それに晶穂の考えが正しければ、この場に適用されているという『とある特殊なルール』とやらの穴を突くことも出来る。事実、名も知らぬ相手はこう言った。「解の一つではある」と。だからやはり、これは状況を打破するための――前へ進むための一撃であったのだ。
可能性を考えなかったわけではない。
相手は他者の相貌を映し取る術を持っている。故に、例えば土壇場で青樹涼や東栄絵の姿に変化し、こちらの驚愕と動揺を誘う――そんな展開もあり得なくはない。それも踏まえての決断だった。何があろうと確実に錫杖を振り抜く――そのつもりだったのだ。
だが。
眼前に居たのが卜部嵩であることを視認した瞬間、晶穂は思考を取り戻してしまった。確信してしまったのだ。
――本人だ。
あり得ないことは十分に分かっていた。卜部嵩は同じ講の先輩であると同時に、加持祈祷で右に並ぶものがいないとされる力を持つ巫女だ。その力を頼って連日ひっきりなしに依頼が舞い込んでくる程だ。そんな彼女が、こんなどこぞの山の中にひょっこりと現れる筈がない。故に晶穂は即座に理解した。相手はお得意の変化の術を使い、嵩の姿を映し取ったのだ。そうに違いない。それが最も現実的な解だ。本人であるなどあり得ない。
それでも。
晶穂の中の『何か』は叫んだ。
――絶対に本人だ。さっきまでのあいつじゃない。あたしには分かる。あたしなら分かる筈だ。
あり得ない。何よりもう無理だ。強く踏み込んだ右足は足元の橋にヒビを入れ、下半身から上半身の全ての筋肉を捻じった上で放った渾身の一撃は、既に眼前の彼女の顔面へと迫っている。錫杖も巨大化していて、止めることはおろか軌道修正すら出来ない。
振り抜く。
それ以外の選択肢は無い。
凝縮された時の中で生まれたこの動揺は、無心や一意専心という『解』と明確に矛盾する。故にこの一撃が成功する保証は、今や陽炎のように朧気なものと化した。晶穂はそれを理解し、敗北を悟った。それでも振り抜くしかない。もう残された道はそれしかないのだ。例え負けるとしても。それに、やはりあり得ない。目の前の彼女が本人である筈がない。
――いいや、本人だ。錫杖を振り抜くな。止まれ。止まれ!!
理性が声を押しのけようとする。晶穂は胸中で頭を振る。無視しろ。振り抜くのだ。前に進むために。あの日の自分はそれを望んだ。だから。
――ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ……!
止めない。止められない。どの道もう無理だ。だから。
止めない。
止め――。
「止まれ!!!!!」
――その時。
晶穂の眼前に、赤い雷が走った。





