リメイク - 第8話
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卜部嵩はフワフワしていた。フワフワと行く宛もなく漂う雲のように、静けさの蔓延る古い山道を歩いていた。
お嬢様、と傍から彼女を呼ぶ斧雅の姿も今は無い。嵩がハッキリと「うち一人で行く」と宣言したが故だ。彼女の世話係衆は多分に過保護ではあるが、一方で嵩の自主性を深く重んじる。再びキャンプ地に戻るまで、彼女が一人を満喫できることはほぼ間違いなかった。
と言っても。
「しょーちゃんはどこに居るんやろなぁ~」
嵩は基本的に独りが苦手だった。それは生まれた時からお付きの者が傍に控えているのが当たり前の生活だったからかも知れないし、或いは誰かと騒いでいる時間が堪らなく心地よいと感じる性分だったからかも知れない。いずれにせよ、「たまの外出に一人を満喫してみるんもオシャレかも知れん!」という思い付きは、早くも「何か退屈やわ」という身勝手な感情に塗り替えられつつあった。彼女はフワフワしていた。その歩調は勿論、意思までも。
よくよく考えれば。
本来であれば、もうこの時間には既に晶穂に出会っている筈なのだ。出逢い、ハグをして、おやつを食べてハグをして、常世遺物に関するそれなりの知識を披露してハグをして、それから斧雅の入れてくれる紅茶や斧雅の作ってくれる料理などに舌鼓を打ち、晶穂を抱きしめてやりながら昼寝をし、起きたらあらゆるサブスクリプションに加入済みのタブレットを用いて焚火の傍でアニメや映画を堪能する。普段からあちらそちらに仕事で出向いては生傷を作って帰ってくる妹分を思う存分甘やかすに、この機会は最高だった。それが出鼻から挫かれ始めているのかも知れない――そんな風に彼女は思い始めた。そして一度そう思い始めると、何だか無性にムカムカしてくる。
許されない。
一体、あの苦労人の可愛らしい妹分と自分の時間を邪魔しているものは何なのか。
「……調べよ」
独り呟き、嵩は山道の途中で立ち止まった。そして――自らが天に与えられた能力の一つを用いて、この山の全域を調べ始める。
答えは。
「あ、見っけた」
すぐに出た。
「でも何やコレ? 何かけったいな場所に居るなぁ」
口にしながら、特異能力で捕捉した晶穂の元へと歩き出す。分かればどうということは無い。晶穂は複数存在する国道沿いからの横道の一つを使って山中に入り、道なりに進んだ先の小さな広場に居るようだ。その広場から更に道なりに進めば、程なくして斧雅が用意した極楽キャンプスペースに至れる筈なのだが、どうも広場で誰かと二人で居るらしい。体格から判断するに、相手は――。
「――子供?」
誰やろう――呟きながら、嵩は深く考えることも無く、晶穂の元へと歩を進めた。





