エンディング - 第1話
本作は下記「第6回Test-Revolustions」のテーマアンソロとして、
既に下記URLでも公開済みの作品となります。
<https://text-revolutions.com/event/archives/6731>
「ハッピーエンドとバッドエンド、どっちが多いと思う?」
尋ねると、屋台の前に居たその女は、怪訝そうに俺を見た。
この蒸し暑い中、女は掌が隠れる程に袖の長い白衣を着ていた。一方、その下は素足にサンダル、ホットパンツにノースリーブのシャツと、涼しいのか暑苦しいのか、実に曖昧な恰好をしている。腰まで届く長い髪は、金色。だが酷くボサボサで、美しさにそぐわぬ野暮ったさがある。
「何だって?」
音頭調のアニメソングが遠く響く中、女は低い声で尋ね返した。その後方では大勢の近隣住民が行き交っているが、こちらに注意を向ける者は居ない。境内から離れた隅にひっそりと建つ、この怪しい屋台へ近寄る人間は、そう現れないのだ。
類は友を呼ぶ、という諺は、将に金言だ。
女の纏う空気は、ラフな格好とは裏腹に、陰鬱そのものだ。
「何、射的やくじ引きと似たようなもんさ。暖簾に書いてあるだろ?」
「『噺屋』」
「そうそう。ここではね、おじさんが幾つか噺をする。で、ハッピーエンドとバッドエンド、どっちが多かったかを当てられたら豪華プレゼント。どうだい、面白そうだろ?」
ふうん、と女は言って、暖簾を潜った。中は薄暗い。俺と客がそれぞれ座る長椅子、その間に長机があって、俺はその上に小道具を諸々載せている。ランタン、蚊取り線香、昔懐かし紙芝居の額縁等々。
「ようこそ、お嬢さん。久々のお客さんだ、ちょいとサービスして進ぜよう」
「サービスねぇ」
興味の薄そうな声色だが、長椅子には随分どっかと座っている。乗り気なのかそうでないのか……まぁいずれにせよ、座った時点で、結果は決まったようなものだ。
「ほれ、水飴だ」
棒の先端に真っ赤な球体――手渡す際に改めて女を見ると、化粧っ気の無い端正な顔立ちに輝く二つの瞳は、海のように青かった。どうやらハーフのようだ。だが、女は渡されたそれを横目で見るだけで、口を付ける様子は無い。俺は胸中で舌打ちした。
「それで」
青い瞳で――しかし実に気怠そうに――女は言った。
「噺ってのは幾つだ? あんまり長居は出来ねーんだが」
「そうかい。なら超短編コースで行こう」
俺は小さく笑って、短い――実に短い幾つかの物語を、紙芝居形式で語った。それは例えば、
一度入ったら出られない森の物語であったり、
生涯を呪われた霊能力者の物語であったり、
嵩を増す赤い湖の物語であったりした。
「――さて、噺は以上だ。な、短かっただろ?」
ああ、と言って、女は大きな欠伸をした。が、ムッとした俺に気付いたのか、次に女は笑った。
「怖い顔するなって。こちとら寝起きでな。噺がつまらなかったわけじゃねえよ」
他者を安堵させるような、屈託の無い笑いだった。俺は違和感を覚えた。女の周囲には相変わらず、陰鬱な空気が渦巻いている。にもかかわらず、何故こんな笑顔が出来る?
ちらりと、女に手渡した水飴へ目を遣る。
口を付けた形跡は、無い。
「それで、ハッピーとバッド、どっちが多いか、だったか? 答える前に、幾つか聞きたいんだが」
「何だい?」
女はぼりぼりと頭を掻いて、また一つ欠伸をした。
「正解したら豪華プレゼント。なら、外れたら?」
俺は声無く笑った。祭りの喧噪が遠い。人々の足音も、古臭いアニメソングも。
湿気た大気に、蚊取り線香の煙が、蛇のように蜷局を巻いている。
「碌なことにならない、ってか」
「賢いねえ」
「答えない、と言ったら?」
「答えるしかないのさ、お嬢さんは」
なぁみんな、と言うと、大地が一斉にざわめいた。正確には、足元の大勢の仲間が、賛同するように蠢いた。
地を這う無数の蟲、蟲、蟲。それらは俺が物語る間に、女の足元にも蔓延り、その足に張り付いている。
「趣味悪ぃなぁ」
女は呆れたように言って、右手の水飴を見つめた。いや、水飴だったものを、だ。それは今や、球状にひしめく無数の蛆へと変化していた。
「じゃ、最後の質問だ。
人を呪わば――覚悟は出来てるな?」
女が告げた、直後。
どん、と、低い炸裂音が響いた。





