マリオネット - 第3話
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――くそ。なんなんだ、この女。
私はニヤニヤと――勝手にスツールを出して足を組んで座りながら――馬鹿にしたような笑みを浮かべている除霊師に対し、胸中で独りごちた。
ヤツの告げた私の出自は、驚くほどぴたりと私の一側面を言い当てている。『正体を当てろ』と言われた場合、大概のヤツは『そもそも正体って何? どういうこと?』とその定義から考え始めるのが常なのだが、目の前のこいつはそうではなかった。スラスラと、一切言い淀むことの無い様は、私の考えなど全てお見通しとでも言わんばかりだ。いけ好かない。全くもっていけ好かない。
除霊師。
どんな人間にもピンからキリまでいる。除霊師だってそうだ。愚か者も居れば手練れも居る。どうやら私が招いてしまったのは、後者だったらしい。胆力、観察眼、そして『契約』を持ち出してくる手際の良さ――何もかもが有象無象の除霊師とは違う。かなりの場数と死線を踏んできた猛者と見てかからねばなるまい。大抵の場合、実力のある除霊師は、それに見合った年月を重ねているものだが――稀にこういうヤツが居るから厄介だ。
だが――契約。そう、契約だ。
《いいだろう。認めるよ、確かに私の製造年月日は、キミの言い当てた通りだ》
ヤツが持ち出してきた『契約』――それは確かに、原則的に何でもアリである生死をかけた戦いに、一定のルールをもたらすものである。
だが、だからこそ、今の私には必要なものだった。
『契約』の力は強大だ。これを敷いた以上、ヤツは何としても私の正体を三つ言い当てねばならない。彼我にどれだけの実力差があろうと、私がヤツの力任せの攻撃で消滅させられることは無くなったワケだ。実力のある除霊師に、一方的に蹂躙されることがなくなったのは、僥倖と呼ばざるを得まい。
そして、何より。
《では、二つ目……二つ目に行こうじゃあないか? なぁ、性格の悪いキミ?》
私は再び笑い出していた。なに、確かに一つ目の指摘には驚かされたが、よくてそこまで。不可能……そう、不可能なのだ。
私の正体を言い当てるなど。





