捨てたもの、奪われたもの
――煙草が無性に吸いたい
眩い光の中に放り出されたまま身動きもできずに高い天井を見つめた。
身体が鉛のように重い、だか妙な浮遊感も感じる
頭がぼーっとする。思考がまともに働かない、熱でもあるのかもしれない。
熱が出たことなんて、いつぶりだろうか?と考えはじめたころ、自分が地面から数メートル浮いていることに気づいた。
それから、ようやく自分の周りに人がいることに気がついた。
かなり遠くにいるようだが、明らかにこちらを見ているのが分かる。
こちらを見ながら何かをぶつぶつ必死に呟いている様子だが、何を言っているのか全く分からない。
現状を把握しようとするが、思考が纏まらない。
何か大きな建物の屋内に居て光の中に自分が浮かんでいて、その回りを見知らないかなりの人数の男女と区別がつかない異国の呪文のような言葉を話す人達にぐるっと円を描くように囲まれていること、自分が服を何も身に付けていないこと、妙に身体がだるいこと、自分がおかれている建物がやけに広く天井が高いこと、
ただただ理解不能である。
黒ミサ?悪魔召還?または、悪魔への捧げ物にされるのかなど頭に浮かびは消え、自分は夢を見ているのかもしれないと結論づけた。
異国の言葉を話す人達に囲まれていることは、どんな経緯があっての事かはわからないが五十歩百歩で常識の範囲内で片付けられるのだが、自分がその者たちの大きな円の真ん中で浮いていることは常識範囲外である。
そこまで高くはないが自分は宙を浮いている。
――これは夢なんだ。人が死ぬときに見る走馬灯と言うやつだな、失敗せずにすんだと言うことか……。これでやっと終われる。
そう思うと何もかも納得できてしまうようだった。
――変な終わり方だけど、やっと終われるのか。
そっと、重たくなってきていた瞼を閉じた。
変な走馬灯だったが何故か胸中はとてもおだやかだった。