一
真白な旗が五本、南風に靡いた。
行司が相手チームの勝利を告げている中、私は膨らみ続ける入道雲を眺めていた。先輩たちがどんな顔をしているのか、見てはいけない気がした、見たくなかった。
「小原、気持ちは分かるが……」
隣に座っていた西村先生が苦々しく言う。
先輩たち五人の夏は始まる前に終わった。呆気なかった。一年間の努力は予選敗退という空しい結末を迎えた。
「先生、見ても……良いんですか」
肩が震えていた。いつの間にか下がった視線には、固く握られた自分の拳が映っていた。
「見届けてやれ。ほら、手振られてるぞ」
恐る恐る顔を上げると、にこやかな顔を見せられた。私は驚いた、先輩たちがどうして笑っているのか分からなかった。
「続いて、赤の句に九点を入れました、村井先生にご感想を頂きたいと思います」
猫背のおじいさんにマイクが渡され、弱々しい咳払いをしてから言葉が始められた。
「ええ……まず初めに、見ていて胸躍る、楽しい試合であったと、いうことです。私はかれこれ四十余年を……」
何が楽しいものか、と私は思った。それは審査員に対してだけでなく、舞台の先輩たちに対しての感情でもあった。
「先生、どうして先輩たちは笑っていられるのですか」
私は堪らず先生に尋ねた。
「分からないのか。そうか」
先生は一旦口を休めて「小原が大人になれば分かるさ」と続けた。ずるい言い方だ。私が未熟だと暗に言うところも、自覚していることを言うところも腹立たしかった。
「俳句を続けたら……大人になれるんですか」
そんなはずはない、自分でも分かっている。
「小原は続けるのか、俳句」
「……はい」
「三年はいなくなるが、それでもか」
「はい」
「小原一人しかいなくなるが、それでもか」
「部員なら集めます」
そうか、と言われた気がした。
「小原は好きなのか、俳句」
「好きです」
すっと口から出た言葉に驚きはしなかった。だってそれは、先輩たちとの思い出そのものだったから。俳句は私にとっての架け橋だったから。
だから、俳句を続けるんだ。願わくは、来年のこの舞台、俳句甲子園の舞台に立てることを。