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男達の会話



 庭園でブルースと見知らぬ女を見掛け、思わず声を掛けた。

 いつもの俺なら気にも掛けず、ただ通り過ぎるのを見ていたと思う。

 …そうしなかったのは、きっと彼女の持つオーラがそうさせていたのだと…思うようにした。


 俺が彼女に声を掛けていた時、今隣で読書をしている“コイツ”は、高みの見物をしていたのだろう。

 そしてまた…俺は“コイツ”に弱味を握られるのだろうか。

 弱味と言うよりただ単に、話の種になって弄られるだけなのだが。


 声を掛けた彼女は、とても貴族には見えなかった。

 王宮へ出入りする者は、長官や騎士、侍女といった王宮で働く者達が殆どだ。後は、王宮に呼ばれた貴族や品を納める商人達が多くを占めている。


 彼女の様に、ただの一般人が来るような場所ではない。

 それが、異母とは言え妹のエザベラが招いた客だと言うではないか。

 あの超が付く程、ハルウェルにぞっこんなエザベラが、だ。ハルウェルにしか興味がないと思っていただけに、あれは流石に驚いた。まぁハルウェルを付け狙う女は全て敵と思ってる妹だ。何か善からぬ事を企んでいるに違いない。


 更に俺が驚いたのはその後だ。


「なぁ、セルエル」

「どうした?」

「彼女…名前何て言ったっけ?」

「…は? 彼女?」


 友人のジェイドは、読んでいた本の(ページ)を捲りながら聞いてきた。一瞬、彼女と言われて誰の事だ? と思ったが、城に来てジェイドが会った女性は、シャーナ(彼女)の他にいない事を思いだした。


「ほら、この国じゃ珍しい黒髪に黒目だったろ?」


 彼女はジェイドの言うとおり、この国じゃ珍しい“黒”を持つ女性だった。


「…あぁ、そうだな。でも艶があって綺麗な髪だった」

「ふん、お前はいつもそうやって女をたぶらかす」

「人聞き悪いぞ。女性から来るんだから仕方ないだろ」


 いつもの調子でジェイドと話していたが、よくよく考えたらやはりこの国じゃ珍しい“黒”が頭から離れないでいた。


 それにしてもジェイドが女性に興味を持つなど、珍しい事もあるものだ。

 はじめはそう…思っていた。


「あの子…」

「…ん? どうかしたのか?」


 急に考え込む我友人。


「え? いや…何でもない」


 彼はこの国の者ではない。

 隣国の“ガリュシュ帝国”から来た王子である。

 ガリュシュ帝国は所謂、【魔術】というものが扱える国だ。

 その為、俺には到底知る事が出来ない【魔術】の使い手だからか、何かを感じたのだろう。


 我が国、アルクスト王国へ来たのは他でもない、今起きている“北”による侵略を食い止めるべく、ガリュシュ帝国の手を借りているのだ。

 二つの国は、友好関係を数百年に渡り築いてきた。謂わば、同盟国である。


 “北”へ侵略を許せば、ブリュッセ王国のみならずガリュシュ帝国いや、近隣諸国までも影響が出てしまう。そうならない為に今回ガリュシュ帝国より、【魔術】を扱える【魔術師】が派遣された。ジェイドは王子としてまた【魔術師】として、この国に来たのだ。


 帝国の国民なら誰でも魔術が使えるかと言うわけではなく、元々の産まれた時から備わる【魔力】が関係しているらしい。


 一度、ジェイドに【魔術】のいろはを教えてもらったが、所詮【魔力】を持たない俺が教えてもらったところで、何も出来ない。

 だが、全く知らないのと知っているでは、この“北”との戦い方が違ってくる。そう言う意味では知っていて損はない。


 ジェイドはあまり人に関心を寄越さない。幼少期の頃から互いの国を行き来してきたが、俺と妹以外の友人と言える存在を俺は知らない。

 そんな人に無関心なジェイドが、彼女に少しでも意識を向けたのだ。驚かずにいられなかった。


「それよりもそろそろだろ?」


 話題を切り替えて言ってきたのは、“北”との交戦に備えての会議時間が近づいてきたからだ。


「…あぁ。もうそんな時間か」


 胸ポケットに仕舞っていた時計を確認すると、丁度始める時間であった。


「居たぁーーッ!! 王子こんな所に居たのですかッ! 」


 回廊を慌ただしく走り近づく人影。

 幼さの残る彼は、見習い政務官として王宮に勤めているニコライだ。おそらく、会議時間になっても現れない俺達を良く思っていない上の奴等にせっつかれでもしたのだろう。


「…ハァ……ハァ…った、もう!…捜しましたよッ!」

「悪いなニコライ。今行くところだった」

「ジェイド殿下もっ! 一緒に居たならうちの王子連れてきてくださいよ!!」


 首の向きをくるっと変えると、ジェイドにも下手したら暴言とも取れる言葉をニコライは平気で言ってしまうのだ。


「…あ、あぁ…すまない」

「どうして貴方達は時間にだらしないのですか!王子であろうお二方であるのに、もっと自覚してもらいたい」

「わ、悪かったニコライ。それよりも急がないといけないだろ?」

「わっ、わっ! そうでした…ッ! お二方皆様お揃いです、急いで下さい!!」


 良くも悪くもニコライは誰にでもあぁだ。俺達二人が王子と分かっていながらも物怖じせず、思ったことは口にするいい性格をしている。

 そうでなければ、政務官という仕事など出来はしないだろう。


 ニコライに急かされるまま、俺達は中庭を後にするのだった。


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