彼の記憶3
彼の記憶はこれにて終わります。
━━━━…死ぬなっ
……死ぬな、死ぬな…死ぬなぁぁ!!
魔術を絶えず胸に当て続け、呼吸も送り込む。
どのくらいだろう。
何度目かとなる呼吸の促しで、微量ではあるが唇に振動が伝わった。
「戻ってこい…ッ!!!」
願い━━━━
最愛の…生涯の妻に逢わせて欲しいという、私の願いをどうか叶えてくれ…━━━━━
この国の守護神でもあられるライマ神よッ、我、生涯の妻を連れて逝くのだけは………
神頼みだと言われてしまってはそれまでだが、その時の私に出来る事など神に頼る他なかったのだ。
僅かな唇の動きが次第に大きくなり、息を吸い込もうと「━━━~ぅす…」と言うような空気音の後、「……ゴ、ゴホッ…ゲホゲホ…」と体内に入った水を押し出し少女は呼吸を始めたのだ。
あぁ…━━━━
ライマ神よ。
これ程までに貴方へ感謝したことはないだろう。
「大丈夫か…?」
背中を擦りながら声を掛けた。溺れる前まで、私を警戒していた彼女だ。きっと状況を把握したらまた距離を取ってしまう。
彼女の身体を労りながら、少しでも身体を回復させようと、自信の魔力を送り込む魔術を発動させた。
この術は親兄弟、親族間で行われる。何故なら魔力は、親族間であれば似た型の魔力を保有しているからだ。
なら何故少女に…
それは彼女が、私の生涯の妻であると確信しているからで、親族でなくとも例外がそれは妻となる女性。
だが、慎重に行わなければ術は弾かれ拒絶されかねない。
ゆっくりとだが確実に魔力を送り込んだ━━━━━
「……気分は…どうだ?」
「………」
開かれた瞳を覗くとまだ焦点があっていないようだ。
整ってきた呼吸、もう大丈夫だ。そう思った時だった。
「…****………」
「……ッ!!!」
「**……****…?」
どういう事だ…━━━━
彼女へ魔力を流しそれは成功した。故に、瀕死だった状態を脱したというのに……
何故、彼女の言葉がわからないのだ!!?
彼女も少しずつ自分の言葉が通じていないと感じたのだろう。
焦り始めているのが分かった。
ある程度の言語なら王子の教育に含まれ、話すことも聞くことも出来るというのに、彼女の言葉は全く聞きなれない言葉だ。
「***?」
「ん…? どうかしたか?」
「……***…?」
少女は一生懸命何かを伝えようとしている。指で自分を指してその後、私を指した。その時、言葉を言いながらだ。
耳を澄ませ彼女の聞き慣れない言葉を私なりに解釈しようと努めた。
「…り…? りり…リリア?」
「………」
コクリと頷く彼女。何度も自分を指してそれを繰返す。それが彼女の名前だと気付いたのは、すぐの事だった。
自分を指した後の私への指差し。その意味が分からない私ではない。彼女が聞き取れるようゆっくりそれでいて、はっきりと私の名前を彼女に覚えてもらえるよう伝えるのだ。
「ルーク…私の名は、ルークベル」
「……**…***?」
「…リリア…ルーク、ルークだ……ルーク」
彼女に何度も何度も自分の名前を繰り返した。
発音なのか、ルークと言うだけでも彼女には難しい様だ。
「ウードゥ」とか「ウート」とか彼女が私の名を言おうと懸命になっている。時折、眉間にシワを寄せながら紡ぐ我の名をこれ程までに愛しいと思った事があっただろうか。
生涯の妻だと認識してしまっては、彼女が愛しくて愛しくて堪らない。
その後、苦戦しながらも何とか名を言えるまでになった彼女リリア。
「る、ルーク?」
「…あぁ、我が名はルーク。そなたを愛する夫の名だ」
「………?」
彼女が分からない事をいいことに、夫だなんて言ってみた。案の定、首をかしげるリリアに先程までの警戒心はすっかり無くなっている。
助けたときに彼女の身体へ巻き付けた、身体を拭く布を手繰り寄せる。クシュンとくしゃみを一つすると身体を震わせた。
未だに濡れている髪。布一枚で身体を温めていた状況にやっと頭が覚醒し、生涯の妻に出逢えた歓びと名の交換で我を失うとは…王子失格…いや、夫失格ではないか!
「リリアっ…すまぬ! 早く身体を温めよう」
そう言うが早いか、私は直ぐに神殿へ戻る準備を始めた時だった。
━━━━━…ぽわーん
急にリリアの身体が光だした。
彼女も何が始まったのか分からない状態に、巻き付けた布を手繰り寄せ身体を縮こまらせる。
足元から彼女の姿が消え始め、驚き声が詰まった。
「…る…ルーク」
不安そうな声をあげるリリア。
クソッ…これはどういう事なのだ!?
新たな魔術の類いか、ならば魔術をもって断つのみ。魔術を発動させ何としてでもリリアを守らねば━━━━…そう思っていた。
しかし、何をもってしてもリリアが消えることを防ぐことは叶わなかった…
その結果━━━━
…リリアは私の前から光の中へと消えていった。
小さな光の粒が私の掌に降り注ぐ。リリアがここに居たのだと…示すように………
━━━…夢を…見ていたのだそう思いたいのに、やけに耳に残る彼女の声と手元に残った彼女に掛けていた布が…彼女の存在を私に教えてくれていた。
もう少しシャーナとルークの絡みをご覧下さい




