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プロローグ

「━━━…ま、待ちやがれ…ッ!!」

 雨が降りしきる寒空の中。

「は、はっ……はぁ…━━」

 一人の少女が複数の男達に追われていた。


 街灯という街灯などない街中で、少女は何度目か分からない逃走を行っていた。

 煉瓦造りの石畳道をひたすら走る。雨により視界が悪い中を合皮で出来た(ローファー)では、滑って思うように走れない。少女と成人男性との運動力で考えれば、すぐ追い付かれ捕まってしまうのは目に見えていた。


 それでも少女は、足を止める事なくひたすら走った。

 男達から逃れる為に━━━━


「グヘヘっ…つーかまーえた♪」

「……や、離してっ…」

「それは無理な相談だ!…さぁ、ご主人様がお待ちだ!!」


 …何故━━━?

 何故自分は今、こんな目にあっているのだろう…

 どうして…


 この場所に来て、五日である。

 少女が男達に追われる様になったのが、三日前…

 その二日前は━━ 全く見知らぬ書物の中だった……


 …五日前━━━

 少女は友人と共に図書館に来ていた。

 少女と同じ目的なのか、同じ服装をした少年少女が複数人見受けられる。同じ服装とは勿論、学生服の事であり目的は皆、テスト勉強だろう。

 テスト期間というのは、どの学校も似たり寄ったりである。その為、図書館には多くの学生で溢れていた。

 少女とその友人は、いつも使っている図書館の最奥に位置する場所に席を取った。早速、鞄から参考書やノートを取り出し勉強を始める友人を尻目に、机に伏せ窓の外を眺めていた。


「テスト勉強…しなくていいの?」

「ん~なんだか…やる気が起きなくてさ」

「なら、気分転換に読書でもしたら?」


 気分転換で読書と言うのも微妙な所だが、図書館に来てやることと言えばそれくらいなので、席を立ってとりあえず見て回ることにした。


 今日は本当に、朝から何だか変な気分だった。

 ボーっとして、やる気が起きない。昨日の夜、早く寝たはずなのに眠くて仕方ない。友人から図書館に行こうと誘われた時でさえ、行くのを断ろうかと本気で思った程だ。それを断らなかったのは、図書館に行かなければ行けないと感じたからだった。


 特にこれ、と言って読みたい物がある訳じゃない。だから本棚の間をゆっくりとした足取りで、背表紙を眺めながら歩いた。

 図鑑コーナー、辞典コーナー、理数系、建築資料、小説文庫本…━━

 一通り一周し、最後に古文や歴史書が並ぶ所にやって来た。


「…はぁ」

 本当に今日はおかしい。

 何がおかしいかって? 本が光って見えるって疲れてる証拠だ。


 眉間を押さえ疲れているであろう目をほぐす。本を長時間読んだりスマホを何時間も使用したりした訳じゃない。なのに、本が光って見えるなんて…

 少女は頭を振り、まだ女子高生なのにおばさんになってたまるかと気合いを入れるべく、自分の両頬を掌で叩いた。


「いっ…たぁぁ」

 自分でやった。自分でやったけれども叩いた頬は痛かった。これで寝ぼけていた頭も冴えて、疲れていたかもしれない目も治っている筈だ。

 そう思い、恐る恐る光っていた本の方へ、右側へ顔を向ける。その光っていた本は十段程の本棚で、丁度上から四番目、下から六番目という真ん中辺りに位置する場所だ。そこへ目をやると、やっぱり光っていた。


 水色に光る本。

 ━━━タイトルは無かった。


「なんの本…なの?」

 勿論…著者の名前も……無い。

 タイトルも無ければ著者もない、光る本…━━━

 不気味に感じてもいい、不思議な本を少女は懐かしさを感じていた。無意識に表紙を捲り、一頁目(1ページ)を捲った。


「……? はく、し?」

 一頁目は何と白紙であった。たまたまかと二頁、三頁と捲るが━━━白紙だった。タイトル、著者、白紙ともなれば…


「ノート…かな」

 何故こんな場所にノートが紛れ込んだのか。そんな事考えても分かるわけもなく。どうせ、勉強で誰かが本を返す時に紛れてしまった物だ思い込んだ。そう考えれば自然である。…水色の光以外は━━━


 “…………”

「…えっ、そら…耳……?」

 何か聞こえたような気がした。


 “……けて…”

「誰!? 何処から聞こえて…」

 また、聞こえた。今度はさっきよりも大きい声で。それでも全てを聞き取ることは出来ない。静かな図書館で、自分の声がやたら大きく感じる。


 その時だ━━━


 “━━…助けてッ…!!”


 …パンッ━━━━━

 空気が弾ける音がした…女性の助けを求める声が聞こえた…

 そして、水色の光は輝きを増し、眩い光となって少女を包み込んだ。


「…━━んっ……なん、だったの」

 眩しさがおさまり少女はゆっくり瞳を開いた。

 変な声といい、ノートが光るといい…今度こそ頭がおかしくなってしまったと、少女は本気で思った。


「━━━えっ…?」

 薄暗くじめっとした部屋の中。幾つも棚が並びそこには本がぎっしり並べられていた。

 図書館の本棚とも思えなくはないが、それであれば何故こんなにも薄暗いのだろうか。図書館は少女がいた場所はもう少し日の光が射し込む場所だった筈だ。


 座り込んでいた為お尻が冷たい。それで気付いく。床が石造りになっている事に…窓も小さく、そこから見える景色は夜だった。


「ここは…どこ……」

 夢…夢を見ているのであろうか。

 一瞬の出来事だったように思えた本の光、本当はうたた寝してしまい図書館の床で寝てしまった…って程、現実が分からないほど頭はイカれてない。

 きちんと床の冷たさも手触りも感じる。


 その時だ…━━━


 …ガチャ

 鍵が開くような音が聞こえたのは……


 薄暗さの為、音に敏感になっていた少女は震え物音をたてまいと、声を殺しなるべく見付からないよう体を丸めた。


「あ~、だりぃ」

「…おい、さっさと探すぞ」

「分かってるよ……あぁ…だる」


 やれやれという風に男は肩を竦めた。

 男二人が入ってきた。それにより少女の緊張状態が急上昇し、恐怖からの震えが増していった。


 に、逃げなきゃ…っ!

 逃げるという事しか頭にはもう無い。


 頭にターバンの様に布を巻いた男達、腰には本やテレビでしか見たことがない長い剣があった。

 少女の場所は、幸いな事に男達から丁度視覚になっている辺りだった。何とか男達に気付かれず、やり過ごすことが出来れば逃げられる。…そう、思っていた。


「…ん?なんか、匂うな」

「あ"?匂うって…」


 男の一人が急に鼻をひくつかせ、匂いを辿るよう歩き始めたのだ。


「これは…女の匂いだ」


 ……ッ!

 何故、女がいると分かったのだろう。いや…そもそも今いるのは知らない場所である。規格外な事が起きてもおかしくない。


「女だぁぁぁ?」


 もう一人は女と聞き、明らかに態度が変わった。「女がいる」と言った男は、どうやら匂いには敏感な様だ。少女との距離を確実に縮めていった。


 …もう…ダメ……見つかるっ…


「ヒッヒッ……みぃーつけた!」

「おい、マジかよ!!」


 書棚と何かの箱との間に隠れていた少女は、呆気なく男達に見付かってしまう。腕を捕まれ、引き摺り出されると上から下まで舐めるように見られた。


「やっ……はな…してっ」

「ひぃ~可愛い声じゃねぇか」

「珍しい服装だな…?素材も上質だ、何処からか売られた娘が逃げてきたか?」


 ━━…ッ!

 売られた…娘…? 違うッ! 私は…わたしは……!!


 恐怖のあまり声が出ない。体が恐怖で震える。

 突然、知らないとこにいて知らない男達に連れていかれそうになる。そんな突然の出来事に、パニック寸前であった。



 そこからどうやって抜け出して、逃げたのか定かではない。

 しつこい程に追いかけてきた男達。書物庫から出た景色は、少女の知る景色ではなかった。


 走って…転んで…━━━

 また捕まって……叩かれ、来た道を戻るよう引き摺られ…

 何とか振りほどき、男達から身を隠せる場所を見付けて、やり過ごした。


 一日は隠れるのに費やし、それも空腹の為、食料を求め身を隠しながら食べ物を探していた。

 三日目ともなると男達が現れないことから、物影に隠れながら移動を始めて事は起きてしまった。


 あの男達は諦めてなどいなかったのだ。はじめは二人だった追手が今や、三人、四人…と人数が増え、見える人という人が敵に見えて仕方ない。

 子供の時にやったかくれんぼ…それを思い出す。

 そうして五日目━━━体力の限界だった…

 四日目、男達に捕まりそうになり、茂みに隠れながら逃げるうちに身体中は傷だらけだった。服もボロボロで五日目の雨で最後の体力は、ほとんど奪われてしまった。


 体力の限界だった少女は…大きな木の下で、倒れたのだ━━━


 ━━━…神さま

 神さまが居るのなら……

 私が何をしたと言うの…━━

 ……わたしが…何を━━━



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