80地下室の管理人は望む
バルパル食べ過ぎだろうという2人の非難めいた目が刺さるが当の獺はきょとんとする許であった。
「もう其れ【胃強】辺りの後天御業を得て居ませんか?」
「然うなのですかねえ。だけど食べ過ぎたらちゃんと苦しそうにして居ますよ」
「うーん、まあ此処で話して居ても何ですので、彼方の水路を潜った奥に部屋を拵えて居ます。其処へ行きましょう。先程のリーシャが新式飛翔板の開発者ですから、彼女に飛翔板の事を習えば良いですね。此の分野では最上位の技術と知識を兼ね備えて居ます」
「分かりました。では然うさせて貰いますね。バルパル、彼の水路へ行くよ」
「ぴゃあ」
リーファ様はゆっくりと飛翔板を進め始め、其れに続きふわふわと浮くメイリア神官長とぴちゃぴちゃと泳ぐバルパルが付いて行き殿をハンナ様が務める。
【浮遊】だと翔べはするけれども余り速度が出ない。此れもメイリア神官長が単独で翔べるのに飛翔板を望んだ理由の一つだが、何より飛翔板であれば何もしなくても水に浮けるのだ。
此の広大な地底湖と繋がる聖堂地下を管理する立場に有るものとしては、消費も少なく速度が出せて休憩もできる飛翔板というより水浮板だが、必要と望むのも無理からぬ事なのである。
キュッと抉られた水路の口を潜り入り飛翔板を船の様にして「シャー」と微かな音を立て乍ら水を掻き分けて水路の奥へと進み行く。
作業場の中ではチェロルが蓄魔器から伸ばした魔気道管を、マリオン先生とリーシャたちや近衛騎士様たち総出で手伝って貰い乍ら天井へと這わせて行き、何やら取付けて居る様である。
皆、メイリア神官長に気付くと作業を止めて礼を執り、過ぎ去ると作業を再開して行く。
リーファ様は水路の終端で地に降りて飛翔板を壁に立て掛けてから振り向いた。見遣るのはバルパルである。
「ぴぁ」
「バルパルも御出で」
バルパルが水路から出て来ると水が滴り落ちて行く。リーファ様は徐に近付いて行き断りを入れる。
「バルパル、少し御業を使うぞ」
手を近付け器用に毛に纏わる気を相殺し乍ら水を消して行く。
「あっ、リーファ様、有難う御座います」
「否、此方の都合だから。では行きましょう」
少しどたばたとして居た為、取り敢えずマリオン作の休憩室に行こうという寸法である。
「――よし! ティロット点けて良いよー!――」
突然に作業場は昼間の様な明かりに灯された。今日運び込んだ許りの大型気灯が、作業場の天井中央で光を放っているのだ。
唯でさえ強い光を放つ大型気灯の周りには、鏡の様な銀色の囲いがくるりと覆って居り、光は其れ等に乱反射して数倍大きく為って見える。
「――おー! 皆様の御協力に! 感謝しまーす!――」
「ぴゃぁ……」
「先程使っていらっしゃった懐中気灯も、遠くに居た私たちに迄届き照らすぐらい凄いものでしたが、此れも亦宮殿に無いくらい凄いものですね」
ハンナ様の片眉が僅かに上る。
「余り他で喋らないで下さいね。取上げられると此方の作業が滞りますからね。此れ等はタリス皇帝陛下やアリア殿下から支援頂いて居るものです」
然う云い乍ら休憩室に入るとリーシャが配管の作業を行って居た。
「ああ、リーシャ其処に居たのか丁度良かった。作業が終わってからで良いのでメイリア神官長殿に飛翔板の創り方と飛び方を教えて貰いたいのだよ。では作業に戻って呉れ」
「はい、分かりました。あっ! 座られる前に天井の作業を遣らせて下さい」
「ああ、構わないよ。邪魔して居るのは此方だからね」
飛翔板に片膝立ちで乗ったリーシャは「上を失礼致します」と言いつつ魔気道管に繋がった中型気灯を持ち抱え、すうっと天井迄浮上がる。
「[岩よ其から去ね]」
天井にぽっかり空いた穴へ中型気灯を差入れて残った隙間に岩を詰めて行き、瞬く間に違和感なく仕上げらる光景は見て居て楽しく為るくらいだ。
続けて天井には溝が掘られ其処に魔気道管を収めて同時に岩で塞いで行き、飛翔板がすうっと水平移動した後には少し前と変わらない天井に戻って居た。そしてリーシャは「失礼致しました」と言いつつ其の儘階段へと降りて行く。
「此れも亦凄いですね。職人さんですか?」
「否、色々熟すことが多いけれども、歴とした騎士ですよ……」
「失礼致します。お茶を淹れさせて貰います」
「ええ、マギーさん気遣いさせて悪いね」
「――マギー此処の配管終わったよー!――」
「明かりが灯る様です」
旧型の懐中気灯で仄かな明かりを灯していた部屋は慣れるまで少し眩しいぐらいの明かりと為り書類仕事が捗りそうである。
「ぴゃぁ……」
「……聖堂の地下室にも付けて欲しいです」
「……私に云われても」
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修正記録 2017-05-17 09:23
びゃあ → ぴゃあ
広げられた → 抉られた
バルパル水路 → バルパルが水路
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付けて → 点けて
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居りて → 降りて
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