79その明かり
「確かに通常の懐中気灯より明かりを集めて居るが、其の分視野が狭くなって居る感じか。まあ、其の程度であれば然程問題に成らんか。特に【水】の御業持ちは此の下に在る地底湖の環境が其れを補うからな」
「ええ、此れでしたら飛翔板で其れなりの速度を出せそうですが、彼此謂う前に取り敢えず出発しましょう。判断は実際に使った後と謂う事で」
「やけに急かすのだな。まあ良いか、ティロット先頭を」
「了解っ!」
最早通い慣れた地下階段とはいえ少し「ふんす」と鼻息は荒いが油断大敵、責任重大である。今回も其れなりの荷物を運んで行くのだから、といっても荷物は既にマギーさんの芸術的な縄括りに由って、飛翔板でも運び易い様に纏められ輪っか迄付いて居る。
皆、其れ其れに1人乃至2人で輪っかを飛翔板に下げ片膝立ちで乗って浮き上がる。おっと善く見るとチェロルとベイミィの間に在る荷物の上で、メルペイクが踏ん反り返って居るではないか。自分で飛べ!
そして、リーファ様の指導する荷卸し隊に続きハンナ様率いる近衛小隊が、飛翔板を駆り次々と地底湖に続く階段へと入って行く。
リーファ様の隊は7名、届けられた新型の懐中気灯は8個と1つ余る為、ちゃんと返してねと云いつつハンナ様に渡された訳だが、ハンナ様は思いの外嬉しかった様である。
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「此れは凄いですね……」
懐中気灯は暗闇の地底湖を一条の光と為って瞬時に遮る壁を探し出す。
先に降りたティロットが周囲を警戒して真面目に辺りを確認し明かりを照らして居るのだが、ハンナ様は其の光の矛先を無作為に選んでは関心を募らせる。
まあ、有り体にいえば遊んで居るのである。リーシャたちはうずうずと来るものが有るが、近衛騎士たちの前であるから仕方無しに我慢して居るだけである。褒めても良いくらいだ。
リーファ様たちが此処に来た目的は荷物を作業場へ運ぶことであって、懐中気灯を試すのは序でであると念押ししたのだが、矢張りハンナ様は最初から懐中気灯を確認する事にしか余念が無い様である。
壁から壁へ壁から天井へと瞬く間に移動する。照らし届く範囲は100mを越えて居り、離れた周囲の地形を朧気乍らも照らし出して居る。
「ええ、思って居たより遠くを照らし出せる様だし、遠くに為れば照らす範囲も広がるから飛翔板で翔ぶ分には【水】持ちとか関係無く殆ど問題と成らんな。リーシャ、作業場の入口を塞いで居る岩扉を開けに行って呉。マリオンは先行確認、ティロットはリーシャの警護を」
「了解!」×3
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ハンナ様は自分の部下たちが作業場へと入って行っても、未だに何やら照らして居る。付き合いが良いのか上官としての態なのかリーファ様は辛抱強く見守って居たのだが、消費も激しいからそろそろ荷物を置きに作業場へ行こうと声を掛けようとした時だった。
「リーファ様、向こうから光が近付いて来ます」
見遣れば確かに光が近付いて来る。光というものは照らす量が少なくとも遥か遠くからでも見出す事ができるのだ。
「確かに、だが随分遠くの様だな。800、900m此の暗闇では距離感が掴めないな。順当に考えればメイリア神官長殿しか居ないのだが南南西か……何かをして来た帰りか?」
「……はい、メイリア神官長殿に間違い無いですね。バルパルも前に居る様です」
「能く分かったな。ああ、然う言えば【強眼】だったな」
「ええ、【遠見】の様に馬鹿気た距離迄は見通せない代わりに、此処の様な暗闇や高速に動くものを普通の人より能く見る事ができます。まあ、半分は此の新型懐中気灯の性能ですが、御蔭で此の辺りの地形は大体把握できました」
「あっ、彼れは遊んで居たので無かったのだな」
「……」
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「ぴやぁあ」
「どうも、今日は……お二方、何だか微妙の雰囲気ですよね」
「ええ、今日は、メイリア神官長殿……」
「ああ、今日は、メイリア神官長殿。一寸機嫌を損ねて仕舞ってな。」
「バルパル? あっ、メイリア神官長殿……が浮いてる?」
「どうも、リーシャさんベイミィさん今日は。此れは【浮遊】ですよ」
「はい、今日は。あっリーファ様ハンナ様荷物を此方で受取ります」
「今日は、メイリア神官長殿」
「ああ、悪いな。其れで此方へは散歩ですか?」
「いいえ、今朝、皇太后陛下から飛翔板の伝授を許可されましたのですが、生憎と私の知る騎士隊長様がお留守でして、此方に来たら誰か居て飛翔板の彼此を教えて貰えるのではないかと遣って来た次第ですよ」
「……何故。南南西の方角から、いらっしゃったのですか?」
「来る途中に魔落の魚らしき蔭が在った様で、バルパルが追い掛けて仕舞って……結局逃げられた様ですけど」
「はあ、昨日マリオンたちがむ、あー、長物の魚を持って行った筈ですが?」
「え! 未だ半分残ってますよ」
「もう半分ですか!」
「ぴゃゃぁあ」
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修正記録 2017-05-16 09:07
踏ん反り返る返って → 踏ん反り返って
ルビを追加
迄見通せない代わりに → 迄は見通せない代わりに、
ですね → ですよね




