67経緯(いきさつ)
階段の方から飛翔板で風を切って降りてくる音がする。一瞬リーシャたちは臨戦態勢を執るが、直ぐにリーファ様が腕で抑える合図を執り示す。
階段の出口からゆっくりと、そして次々と現れたのは5名の小隊、皇太后陛下の近衛騎士たちである。リーファ様がもうそんな時刻かと若干苦い顔いに為るのは仕方が無い。
「上の派出所や石祠を囲う建物にも誰も居ませんでしたから、勝手乍ら上がらせて貰いました」
「おっと、悪いな。予想より大分時を費やしてしまった様だな。ん? 雛が一匹混じってるじゃないの」
「ええ、訊けば此方の派出所担当の子たちと選択授業が幾つか同じだったそうですし、リーファ様も存じ上げている様でしたので。まあ放って置いても勝手に彷徨きそうですし、使い走りには丁度よいかと選抜致しました。何だか忙しそうね、リルミール、貴女は此処までで良いから上の派出所で留守番をしておきなさい」
「了解!」
「あー、分かった分かった。取り敢えず聖堂管理の通路迄案内するから付いて来てくれ。飛翔板に乗っているのは……ティロット、ベイミィは一緒に、後のものは引き続きチェロルの作業を手伝って遣ってくれ」
「了解!」×6
「ぴやぁ」
「チュバ!?」
見遣れば獺擬きのバルパルが水面からちょっこりと顔を出している。若干メルペイクを物欲しげに眺めているが、此間の魔落魚は消化しきったのだろうか。
「丁度よい。彼処にやけに大きい獺が居るだろう。彼が神官長に飼われているというか此処で放し飼いにされている従魔のバルパルだ。バルパル、済まないがメイリア神官長殿の所迄案内して呉れないか?」
「びゃあ」
「否、其れは遣らないぞ。我らが一緒であれば此間みたいに魔落の類いが襲ってくるやも知れんぞ」
「ぴゃっ」
「案内して呉れるみたいだな」
「克く彼の獺……あー、バルパルの言葉が分かりましたね?」
「何となく物欲しげだったからな?」
「克くと言えば彼の大きな固まり……造形物? は克く此処迄運び込めましたね」
「まあ、バルパルを追い乍ら話そうか」
「然うですね。皆、出発します」
「了解!」×3
「了解!」×2
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「否、私達も最初は無理だと高を括って居たんだよな。それでも必ず通れるからと断固として居るから、それなら実際に試して無理だと納得させた方が早いと成ってな」
「隊長っ、水深12m下に60cm程の生物反応が!」
「其れは小魚だ! それから、近衛騎士の皆さんが来る前に、さっさと終わらせようと行動を開始してしまったのだが失敗だったな。一切閊えずと限り限りではあったが、とんとん拍子に進んでしまった。と言っても彼はマギーさんの指示が的確だったって事が大きい要因だけどな」
「全員! 敵……「ドッボーーーォォン」ええっ!」
「隊長! 巨大魚が飛び上がりました!」
「前回と同じ繰り返しだが2.5m、まだ小さい方だな。それで、まあ、始めたら終われなく為ってしまって、視察が来る予定なのに栓をした儘では不味いからな」
「……成る程、それで留守番も置けずに栓を退かす作業を急ぎ終わらせて下さった訳ですね。御蔭で此方は滞りなく降りられました。御疲れ様でした。って? バルパルさん動きませんね」
「ふがっ!」
「貴女方動いてくれるなよ」
「シャーァァァアアア」
遠くから徐々に近付く水の音。前方右半分が岩の壁で見えないが、何ものかが迫り来る事は判る。
そして其れが巨大な圧迫感を伴って壁の切れ目から、突然に現れるのである。前回に比べ30、40m程先と大分離れた距離を横切って行くのだが、知らぬものには十分迫力が有った様だ。
近衛騎士たちは息を呑んで固まっているが、水面を揺らす大きな波に飛翔板を上下に振られ我に返る。
「お、大きいですね」
「ああ、此の地底湖、否、魔窟の主らしい。普段なら此方に敵意も見向きもしないのだが、今回はバルパルが咥えている魔落魚を狙ってくる恐れが在るからな」
「ぶふぅ」
悪かったなと言わんばかりにバルパルはぷいと顔を背け、でかい奴が居なく為ったのを確認すると再び進みだした。
「此処迄が宮殿の森区画だと思われる。後は略真っ直ぐ行けば聖堂に繋がる道が見える、というか暗くて判り難いが奥に見える壁の窪みが其れだ」
階段の前、岸にメイリア神官長が仁王立ちしている。何やら厳しい雰囲気である。
「バルパル、其の魚を岸に置いて離れなさい」
「ぴやぁあ」
「[氷よ其に在れ]」
氷が魚? を瞬時に包み込む。バルパルが「ぴぃ」と小声を出すが神官長は気にしない。
「リーファ様、済みませんが其の魚を此の辺りで切って貰えますか?」
「ええ、構わない。よっと!」
リーファ様が「ジャッ」と切り離すと胴体部分をぷかぷかと宙に浮かせてから言い放つ。
「バルパル、其方の尻尾は食べて良いですよ」
「ぴゃあぁ」
「皆様、お騒がせ致しました。どうぞ此方へ」
「凍った儘で宜しいのですか?」
「彼は彼で嬉しいみたいですよ」
確かに嬉しそうにペロペロと舐めている。魚? を半分取り上げられた事も忘れて。




