61語りすぎ
横穴に入って直ぐには階段が在る。其れをどう上がるのかと見守っていると、獺擬きは四つ這いに為って階段を登り始めた。
否、2本足と尻尾で歩いていたの意味ないよね? 少しがっかり感は否めないが、リーファ調査隊の一行は魚の横たわる岸と、横穴を挟んで反対側に飛翔板を置き一列並びに戻ってから、獺擬きに付いて階段を上って行く。
階段を少し上ると廊下の様に真っすぐ伸びた通路が見える。
獺擬きは再び立ち上がると、ちょこまかと其の廊下の半ば迄歩み寄り、徐に右側の壁をトントンと叩くのである。
其の行動に意味はないと思っていた一行は、其れに応える人の声に再び警戒を固め息を呑む。否くぐもって居るが聞き覚えの有る女性の声だったからだ。
「はいはい、ちょっと待ってね。バルパルちゃんと食事してきたの? 又懲りずにでかい奴追っかけていたんじゃないでしょうね?」
「[岩よ其から去ね]」
壁と思っていた場所の一部が消え去り、現れたのはスラリと背が高く中性的な面立ちの神官服を着た灰色髪の人物。
「あら、此れは珍しいお客様ね。お久しぶりですリーファ・アルドラデ侯爵。確か今は教導官を為されていると伺っておりましたが?」
「ええ、お久しぶりですね。メイリア・ティオテライトス神官長殿、教導官は一時的に皇族の御方を指導させて頂く為、拝命していただけですよ。さて、色々お尋ねをしたいのですが宜しいでしょうか?」
「はい、構いませんよ此処では何ですから、どうぞ中にお入り下さいませ。バルパルは……食事の途中、未だって事かしら? 良いわ、案内してくれたのね行ってらっしゃい」
岩の扉を開けた儘、といっても閉められても困るが、メイリア神官長はすたすたと部屋の奥へと歩いていく。リーファ様は一行の皆に振り向くとこくりと頷き其の後を付いて中へ入って行く、皆も頷き後を追って部屋の中へ入って行った。
部屋の中は書棚や文字の書かれた木板、石板の類が所狭しと置かれている。中には歴史的価値の有りそうな儀式用の様々な道具まで積み上げられている。
「どうぞ皆様、其方へお掛け下さいませ。遠慮なさらずに」
「座りなさい、じっくり訊かせて貰う積りだ」
皆直ぐには座らずに、リーファ様の指示を待っていたのだ。騎士として来ているのだから相手に促されたからと言って、易々と戦闘態勢を解除するわけには行かないのである。
「さてさて何が訊きたいのかしら?」
「先ず、此の部屋は皇帝陛下の許可を取って拵えたものなのですか?」
「はい、と言っても大昔と付け加えないといけませんがね。見て頂いて分かる通り、おいそれと口外できぬ事柄です。本来なら皇帝陛下の側でも代々継承が為されている筈ですが、之に於ては此方の与り知らぬことです」
リーファ様が渋い面持ちになるの仕方無かろう。相手は正論であり、事、皇帝陛下の継承で何代まで遡って正しく継承されてきたかなど調べようが無い。
況してや此度のタリス皇帝陛下の御即位は、遷都が前提で行われている。言わば他国である。敢えて継承されていない可能性もあるのだ。そして此の地下調査の件を伺い御許可を頂いたのは皇太后陛下なのである。
「分かりました。次に此の地底湖は何処までの人物が知り得ているのですか?」
「私と先代の宮殿付き神官長は全容を知っています。神官長補佐は地下通路の存在迄は知っていても入ることは許されていません。聖堂の神官長を務めるものは唯、石祠の一部が地底湖に繋がっている事だけを知識として知り、之は秘匿事項であり関連する事を訊くものが在れば禁令に触れる事のみを伝え秘匿とし、後に宮殿付き神官を通して宮殿へ其の秘匿を知りしもの、調べしものを連絡する任を命じられています。武官、文官に就いては私どもの与り知る事では無いのでご容赦をお願いしますね」
リーシャたちは息を呑む。下手に聖堂の神官へ石祠の事を尋ねていれば、最悪の場合は秘匿物件を調べしものとして通報され拘束されていたかも知れないのだ。
そして今話されている内容は明らかに自分たちが訊いてはならない秘匿事項なのである。
「……石祠の一部ですか?」
「はい、此の地底湖がリーシャンハイス全てに広がっている訳ではありませんからね。多くは唯、大地の神レクトーワ様を祀り、其の地を守って頂く為のみに建てられています。我々は之を目的に各区画へ建てたのですが、昔の皇帝陛下は此れを利用したのでしょうね」
「成る程、ああ、此の地底湖の地図と繋がった石祠が判る資料は在りますか?」
「石祠は確か……」
「ああ、探さないで良いです。此方で保管されているか確認したかっただけなので」
「全ての石祠の位置と地下への繋がりを示す資料は保管してありますが、地底湖の地図は在りません。多分、其れは抜け道として使う為に知らされなかったのでしょう。但、どうやら此の地底湖は魔窟と為った様なので、管理する必要性ができてしまいまして、【聖歌】の練習がてら個人的に作ったものなら有りますよ」
「魔窟ですか……」
事態の不穏さに頭を抱えるリーファ様の傍らで、ある程度予想はしていても完全に訊いてはならない話しの連発にアワアワと狼狽え取り乱すリーシャたち。
「ちょっと、チェロル! 痛いから余りしがみつかないで下さいませ」
「リーシャ様!、先程から立場上訊いてはいけない話しが続いているようですけど私達大丈夫なのですか?」
「うん、余り良くないかも……」
「皆さん静かにして下さいね。今リーファ様が大事なお話し中ですよ」
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修正記録 2017-04-28 06:28
「くぐもって居るが」追加
「灰色髪の」追加
色々お尋ねしても宜しいでしょうか? → 色々お尋ねをしたいのですが宜しいでしょうか?
ルビの追加と修正
指示を待つ → 指示を待っていたのだ
行かないのだ。 → 行かないのである。




