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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
79/345

60ふがっ!

 遠くから徐々に近付く水音がする。()れは(つい)には10、15mぐらい先を横切って行くと、「シャー」と大きく水をかき分ける巨大な背鰭(せびれ)が見える。

 全体は見えないが背鰭(せびれ)と共に此方(こちら)()って来た、大波だけでも大凡(おおよそ)の大きさは推測できる。

 先程(まで)飛翔板が立ている波紋くらいしか無かった水面は、大きく波打ちリーファ調査隊の一行を上下に激しく揺さぶった。

 リーファ様は(いま)だに腕を抑える形を保った(まま)である。()の巨大な生物を静観する構えだ。


此方(こちら)を認識していた様だが敵意は感じなかった。生物の魔落は元の状態よりも知性が発達している傾向にあるんだが、()の場合、利益に()らない事は余り()りたがらない。まあ人間と似て性格に()るかも知れながな」

「大きいー! 20mは()りそーだよ! ()の周りだけ水に気力が通らないから【水】の御業を授かってるのじゃないかな!」

「ふがっ!」

「まあ、好戦的なものなら()(かく)大人しいものを見付ける度に一々(いちいち)倒していたら、生態系が崩れて後々には(かえ)って良からぬ事態になり兼ねないからな。下手に手出しは()るなよ」


 巨大な魚の(たぐい)らしきものの魔落が去って行っても()だリーファ様は手を下げない。リーシャたちが(いぶか)しげに静観していると、何とかベイミィに塞がれた口(もと)の手を()けたティロットが声を張り上げる。


其処(そこ)にチェロルみたいな事している奴がいる!」

「ヒッ!」


 リーシャたちは()の声に従いティロットやリーファ様、マリオンが警戒して見詰(みつ)める方向を目を凝らして見てみると水面からにゅるりと顔を出して、此方(こちら)を見ている動物の顔が見える。

 其の(つぶら)な瞳に正面から見ると間抜けな顔が愛らしい。チェロルの顔がニヘラと緩む。


「……従魔を示す首輪だな。元は(いたち)……(かわうそ)(たぐい)だろう。顔の大きさからして2m、尻尾が()るなら3mぐらい。飼い主と(はぐ)れたと見るか、それとも近くに飼い主が居ると見るべきか。此奴(こやつ)からも敵意は感じないが油断は()るな」

「ぴぃやー」


 (かわうそ)? の従魔は一声発すると付いて来いと言わんばかりに首をクイッと振り動かし、反転して西に向かい進みだした。


「付いて行こう。何方(どちら)にしても放っておけないからな。マリオン先頭を頼む」

「了解」×5


 首だけ出して泳いでいるだけだが可也(かなり)速い。泳ぐことに特化した体からして(かわうそ)なのだろう。

 先程(まで)の一列並びを変え先頭マリオンの後にリーシャとティロットが横に並び続いて後ろにチェロル、ベイミィと横に並ぶ、そして殿(しんがり)をリーファ様が務めている。


()の従魔は水系御業は使っていませんね。先程の大きい(やつ)と違い水への働きかけは一切感じません」

(なん)かぷっくりしてて可愛いよ!」

「チェロル、貴女(あなた)メルペイクに過剰な餌与えてないでしょうね!」

(あれ)は太ってる訳じゃなくて羽がふっくらしているだけなんだけど……かわいいし」

「……リーシャ様も怪しいですわね」

「パシャッ」

「潜った?」

「南西より強い敵意……殺気です!」

「ふがっ!」

「マリオン私が……」

「ドッボーーーォォン」


 4m程の魔落の魚が大きく飛び跳ねた。先程潜って姿を消していた(かわうそ)が、牙を立てて胸鰭(むなびれ)に噛み付いているのだ。暴れる魚に「バギリバギリ」と噛み付き胸鰭(むなびれ)は千切れ水は赤く染まり遂には動かなくなった。

 牙を剥き赤い液体を垂らす()の顔は先程と打って変り(なん)とも恐ろしげだ。チェロルはガクガクと震えベイミィと場所を入れ替わる。いや勝手に配置変えちゃ駄目でしょ。

 (かわうそ)は何事も無かった様に魚をパクリと(くわ)え、()まし顔でついと方向を変えて先程迄向かっていた方へと進みだす。


「リーファ様、()(かわうそ)(もど)きは【強頭】持ちですね。頭突きで吹き飛ばした後に強化された牙や顎、筋力で容易く噛み千切ってましたよ」

「ああ……【強頭】の正しい使い方を初めて見た気がする」



 (かわうそ)(もど)き? と遭遇した場所から400mは西に移動しただろうか。リーファ調査隊の目前に又もや壁がそそり立つ。だが進行方向の壁は(くぼ)みとなっており(かわうそ)(もど)きも其処(そこ)へ向かっている様である。

 「ザザザ」と(くわ)えていた魚が底を()り音を立てる。窪みの先には横穴がぽっかりと口を空けており、(かわうそ)(もど)きは()の横に魚を引っ張り上げてご満悦だ。どうやら取り置いて後で食べるらしい。

 すくっと立ち上がると、いや何で立ち上がる4本足の方が行動しやすいだろ! 尻尾で魚を「パシパシ」叩き()るなよと言いたいらしい。()(まま)ちょこまかと器用に歩き横穴へと入っていく。


()の辺りは恐らく皇太后の区画を過ぎて聖堂や儀式用の大広間が()る場所付近では無いでしょうか?」

「うん、出発地と距離感、方向を(かんが)みると()の辺りが妥当だな」

「ちょこちょこ歩いて可愛いよ!」

「いや、さっき(まで)怖がって後ろに隠れてたでしょうが!」

「ふがっ!」

(いや)、ベイミィ()れよりティロットを離して上げようよ」

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