59騎士としての姿
リーシャたちがのさばる派出所の土地は、大きさ約100m四方と結構広い。本来は4等分した土地で貴族中位の屋敷を構えるのだから、其の無駄な広さも分かって貰えるだろう。
勿論、唯広い訳ではなく緊急時には、100名からの部隊を集め編成していく場所となるのだ。
さて、ティロットが切って捨てたといえば語弊があるが、其の場所は派出所の裏手から北西に少し進んだ所、表通りから20m程の距離にある。
リーシャたちは其処から階段を緩やかに弧を描きながら降りて行ったのだが、一回り130mぐらいを3周程回って地底湖へと辿り着いた訳だ。距離感も方向感覚も狂ってしまって当然といえるだろう。
「リーファ様」
「うん、マリオン止まって頂戴」
リーファ様はすうーと飛翔板を前へ進めながら、右腕を軽く斜めに上げ手の平で抑える形の合図を執り、マリオンに停止を促す声を掛ける。自ずと皆待機の態を執る。
指示を受けたマリオンは警戒しつつ波音を立てずに飛翔板へ制動を掛け、其の儘の姿勢で警戒体勢を解かず静かに応える。
「如何為さいましたか?」
「危険は無いと思うけど気になってね。少し行った先の水中に生物が居るようだな」
「生物ですか、でしたら外と繋がっている……魔落ですか?」
「否、其れにしては小さい。魔落ならもっと大きく為る筈だ。然う彼の鳥の様に丸々……、否、立派に成長している筈だからな」
リーファは空気くらい読めるのだ。伊達に侯爵貴族様では無いのだから。
「元から小さな生物だったという可能性は無いでしょうか? 其れに此の魔気の濃さです。数年経たなくてもメルペイクの例で言えば、有り得る事とも視野に入れてはと」
「ふむ、確かに其れは有り得ると認めよう。だが私は別のことが気になっていてな。此れ等に捕食者が存在するのでは、詰まり魔落と為る前に若しくは為った後に食して数を減らしているものが居るのでは無いかと考えている」
「おおー!」
何故かティロットの鼻息が荒くなり、目がきらきらと光っている様にさえ感じる。
「……まあ、何方にしても注意が必要と云う事だ!」
「了解!」×5
「リーシャは前方の水中を、チェロルは左右を、私は後方の水中に注意を払う。ベイミィは……では前進を再開しよう」
ベイミィはリーファ様の目で訴える意を酌みこくりと頷き、其れに納得したリーファ様も頷き返した。
階段の穴から200mは進んだくらいだろうか、前方に壁らしきものが見える。右手を軽く上げ手の平を見せる。先頭のマリオンから停止の合図だ。
「前方に壁らしきものを確認しました。進んだ距離から考えて此処は既に宮殿の区画を囲む城壁か……其れを越えて森に入った付近だと予測します」
「私も同じ意見だ、此処で地底湖が終わりであってくれれば有難いのだがな」
「森ですか……訊いても宜しいでしょうか?」
「ん、構わんぞ。宮殿区画を囲む城壁の向こうには森が広がっているのだ。皇族の方々は一部を除いて気軽に外出などできないからな、庭園や森を散策して運動がてら御心を御鎮めに為られるのだよ」
「皇族様方も色々と大変なんだね!」
「チェロル其れは不敬ですわよ」
「ははは、まあ面と向かっては言わない方が得策かな」
「城壁の向こうは森だったのですか、上空から緑が多いとは感じていたのですが。お答え頂き感謝します」
「如何致しまして。では皆、此処で待機してマリオン先行偵察」
「了解」×5
リーファ様は又もや軽く手を上げ手の平で抑える仕草をした後、独特の返しで人差し指を立て直ぐにくるりと前を指す。
全て指示の声に合わせて為されるのが、否応無しに理解させられる。此れは手本であり合図の意味を理解しやすい様に振る舞っており、自分たちが揃った行動が執れる様に【統率】されている此の感覚が御業だと。
環境が変わる時に全員で向かう事はしない。こういっては何だが1人を犠牲にして確認を取る。此れは生死の場に身を置くものたちの常識といえる。
実際は、唯単に全員で行っても引き返すなら無駄なだけで意味がないからというだけかも知れないが。
マリオンが右手を上げ全ての指を伸ばした状態で、斜め右前に倒し水平位置でぴたりと止める。
「マリオンに従って斜め前進」
リーファ様の指示が掛けられ全員が動き出す。壁は斜めに進めた様で其の儘進むと再び開けた場所に出た。再び西への指示に従って進めば、今度は右から左前へと抜ける壁が現れる。
「予想だとそろそろ宮殿の本区画に入ります」
「其れも又同意見だ。此処迄繋がっていると為ると、余り宜しく無いな……ん?」
リーファ様は無言の儘、唯、手で待機の指示をだしマリオンと前に進み出す。
「ふがっ!」
勿論、ベイミィが素早くティロットを抑え込んだのだ。
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修正記録 2017-04-26 08:28
腕を軽く斜めに → 右腕を軽く斜めに
「自ずと皆待機の態を執る。」追加
ルビを追加
統率 → 【統率】




