58地底湖
石祠の下、少し弧を描きつつ地下へと続く階段を、急流滑りの小舟の如くティロットは邁進する。
壁や天井が近いと速度感が増すものだが、騎士たちにとっては大したことでは無いらしい。天井が少しでも隆起していたら、当たらないと判っていても思わず身を屈めたくなる様な速度だ。
「ティロットそろそろ階段の終わりだよ!」
「了解! ゆっくり制動を掛けていきます!」
リーシャは後方からでも問題なく【遠目】を使えるし、飛翔機の密閉空間なら兎も角声が届くのだから配置には影響しない。
石祠の入り口は狭いが中の階段は少し広く、3m近くある飛翔板を横に向けても壁には接触しない。抑其れ以下であれば流石に飛翔板は使わないのだが。
飛翔板の下面を進行方向に向けることで抵抗を大きくして制動を掛ける。ティロットとチェロル、リーファ様は水の粒系因子を補助に使っている。正確にはティロットは海水、チェロルとリーファ様は水と板に含まれる鉄成分をである。
残りのものたちは水晶と岩を直接制御しているのだから、敢えて飛翔板を傾けて他と同じく制動の体勢を執らなくても良いのだが、様式美というか多少は空気抵抗も拾っているのだろう。
「此の先に地下水の溜まり場が在るのだな」
「はい、リーファ様。降りる階段は無く唯、其の天井に繋げただけという感じでした」
「では、今度はマリオンが先行して偵察。皆は安全が確保されるまで待機」
「了解」×5
ふわりと精密磁器六角多孔で創られた飛翔板を浮かし、階段の切れ目まで進むとマリオンはゆっくりと降りていく。
中は広く水面と天井には4~6m程の間があり、飛翔板でも十分行動が可能だろう。懐中気灯で水下を照らすが奥底は真っ暗で底までは見通せない。
確かに魔気は濃い。之では引き返したのも止む終えないだろう。再びふわりと浮かび上がり階段の穴へと戻っていく。
「此処からだと6m程降りたら水面です。下に降りるほど魔気が濃く為ってますね。有毒な大気は存在しませんし、現在の処危険は無いものと判断します。其れから周りは懐中気灯の限界も在りますが、見通せない広さでした。恐らく宮殿区画に達しているでしょう」
「判りました、では降りてみましょう。マリオン先導をお願い」
「了解」
全員が水面に降り立つ。飛翔版は人を載せても十分浮力が在るのだ。リーシャが水に気力を通し探りを入れる。
「純粋な水に近いですね。水深は結構深い……20~30m程でしょうか?」
「ああ、私も其のくらいだな」
「同じくだよ!」
「済まない……私は【海水】だから其れ程深く探れない」
「否々ティロットは落ち込まないでよ。其れを言ったら私なんて水に一切適性が無いのよ。こんなものは持ちつ持たれつ何だからね!」
ベイミィの叱咤でティロットは少し持ち直したようだ。
「さて、行きしなの階段で回りすぎて方向が判らなく為ってしまったが、宮殿区画は何方だろうね」
「リーファ様、私に任せて欲しいんだよ!」
「おー、チェロルが何時になく積極的だ! 宜しい、遣ってみなさい」
「おー! 了解!」
水をぽたぽたと垂らしながら「パシャリ」とチェロルの乗る飛翔機が浮き上がる。1mぐらい浮き上がっただろうか、其処でぴたりと静止した。
「[砂鉄よ其に在れ]」
言霊に依る補助を受けチェロルに創り出された砂鉄は、鉄混じりの飛翔板を中心にくるくると輪を描いて回り始めた。時折ぴしりぱしりと光が迸る。
そして満足したのかうんと頷き再び言霊を紡ぐ。
「[砂鉄よ其から去ね]」
砂鉄は気力と交換されチェロルへ戻っていく。
砂鉄が消え去ると、チェロルは再び鉄混じりの飛翔板を水面へ「ピシャリ」と波紋を立てながらゆっくりと浮かべた。チェロルが乗った儘、飛翔板はゆっくりと回り何処ぞを指してぴたりと止まった。
「多分、彼方が宮殿だよ!」
チェロルが指したのは飛翔板が示した方向とは違い、其れの直角方向だった。
「何だか凄かったわね。彼ピシッパシッって光ってたわ」
「うん、必殺技を創ろうと色々研究してたんだよ!」
「お願いだから私の邸宅に在る花壇や岩で、其の必殺技を又試そうとしないでね」
「うん、宜しい、では宮殿の区画と思われる範囲に天井の穴、若しくは階段が無いか点検して行きましょう。マリオン、又先頭をお願いね」
「了解」
シュババババと波を立ててマリオンの飛翔板が水面を切って走り出した。皆同じように……では無くリーファ様、チェロル、ティロットは波を操作して進んでいく。否チェロルだけは周りの波を利用して器用に進んでいく省力的だ。




