56岩を斬る
ラギストア帝国旧帝都リーシャンハイス、人口80万人程と云われている。
東には直ぐ近くにスイタル湖はあるが、内陸の都市である為、他領の様な港を持たない。
戦と為れば海から渡りて直接都を襲われる憂き目には遭わないが、帝国と成って領同士の交易が盛んに為った今、リーシャンハイスは海からの大量輸送を使えない事が仇と為り、他領の発展から一歩遅れる形と為った。
しかし、タリス皇帝陛下が御即位為されてからは飛翔艇に由る交易も増えだし、物流の活性化に伴い街は嘗ての栄華を取り戻しつつあった。
彼の2年前の武闘大会を飛翔板の利を以て優勝した、クラウト・デンバンサーはラギストア領に残り、彼も又第二騎士団の門戸を叩き入団していた。
そして、此れ又リーシャたちと同じように文官派閥の集まる区画へと赴任し、現在5区画の派出所を纏める中隊長である。まあ其れはどうでも良い話である。
さて、此処でリーシャンハイスの区画に就いて説明しておこう。東から西に18、南から北に13と中央以外は区画に沿って格子状に道が延びており、中央の東西4つ、南北5つの区画が宮殿の敷地として壁に囲まれ、其の周りの1区画分、詰まり中央の東西6つ南北7つから宮殿を区画を引いた分が貴族街と成っている。
リーシャたちが住まう文官派閥の貴族街は東から西に数えて7~9、南から北に数えて4~6の宮殿区画4つを引いた5区画のことを指す。
因みにリーシャたちが担当する区画は東から西に7つ南から北に6つ目に在る1区画で、派出所は1区画を更に細かく東から西に4つ南から北に4つと分割して、東西7の4つ目、南北6の4つ目の位置に在る。
うがー、詰まり宮殿の区画に面した東門近くの土地に建っているのだ! もしかして此の1行で良かったのでは……。
今日もティロットは暇に飽かして【剣技】の訓練に余念がない。すっと振るった縦の剣戟は正面の岩を見事に切り裂いた。あ、以前グラダード邸の庭でメルペイクがチェロルと共謀して破壊したリーシャ5歳作の庭石は母様ことサリア・グラダードが寂しいからと思し召しなので慌てて作り直しリーシャ8歳作に置き換わっている。
「ちょっと! 何切っているのよ、ティロット! 此の石って何かを祀っているみたいじゃないの? 何でどや顔なの! リーシャ様、小隊長」
「え? 何ー、うわっ……やっちゃったかー」
「御業で直して貰えますか? お祓いとかしないでも平気ですかねぇ?」
「取り敢えず直しちゃうよ。一旦横に避けるね」
「あら? 何かしら……地下に続く階段ですわよね」
「わ、私は此れを見出す為に切った……」
「ティロット煩いわよ! 黙って反省してなさいませ」
「一応、決まりでは担当区画内で危険と見定めた事象や発見は、最寄りの派出所に連絡した後に経路を封鎖して待機。其れから、不明であっても最寄りの派出所に連絡した後に小隊長判断の許確認と調査を実行するだったかな」
「最寄りの派出所に連絡と言いましても此処は派出所ですわよ? 派出所が連絡を受けた後は中隊長に連絡を入れるのですか?」
「一旦、此処で止めるよ。貴族街だからね世に出したら不味いものも在るから、区画街の派閥に相談する事は在っても即騎士団に連絡する事は無いかな」
「では先ず地下通路の探索を行いますか?」
「然うだね。……チェロルには悪いけど留守番をして貰って4人で中を探索しようか」
「おー! 騎士たるもの冒険が無いとね!」
「マギーさんのリーシャ小隊長への物言わぬ圧力が半端無いですわよ」
「では私はチェロル様へ言伝と懐中気灯を人数分用意してまいります」
「じゃあ汚れても良い服に着替えてこようか」
「だよね! 汚れでもしたら1周間は立ち直れないよね!」
少々チェロルが眉をハの字にして愚図っていたが、何とかメルペイクに世話を頼んで残って貰う。チェロルは「に」ではなく「の」と思っているようだ。
地下への階段を降りていく。階段は奥深くに続き長らく経ち過ぎて警戒心が緩み始めた頃、水の音がする。地下水だろうか。
「リーシャ小隊長、地下水が在るのですか?」
「然うだね。水が在るのは間違いなよ……大量にね」
下のぽっかり空いた先は真っ暗だがちらちらと光を反射するものがある。漣だろうか。階段は其処で途切れており、此れ以降下には進めないようだ。
「此れ以上は無理そうだね。魔気も大分濃くなっているから用心為るべきだし引き返そうか。此の事は騎士団(中隊長)は通さず父様たちに相談した方が良さそうだね」
「御意に御座います」
「うん、じゃあ今から急いで戻らないと巡回の時刻に間に合わないよ! チェロルが又拗ねちゃう」
「よし! 走ろう」
「いや、無理でしょ。飛翔板で2つ創って二人乗りで翔ぶのはどう?」
「其れだ!」×2
「良きお考えです」
「遅いーよ! さっ! 行くよ!」
「ちょっ! チェロル! 待ってー! 引っ張らないで、騎士服に着替えさせて、後生だからー!」
「リーシャ小隊長、今の内に着替えに行きますわよ!」
「そ、そうだね」
「良きお考えです」
「あっ、祠の石祠直しておかないと」




