53闘技実習2
午後からの授業は闘技実習である。騎馬は? 何を仰るうさぎさん、お馬さんだって午後からの予定はびっしりなのだ。
という訳ではなく、馬たちの状態、特に怪我や体調を崩してないかを確認したり、放牧を行って精神的負担を溜め込まないよう配慮したりと、学徒たちの為に良好な馬の状態を常に保つ努力が為されているのである。
「ふふん、大分飛び板を使うものが増えたな。じゃあ今日は御業と合わせての訓練を遣って見ようか」
リーファ教導官は然う言い放ち組分けを行う。
やはり最近の流行りなのか、飛翔板を使っての戦闘を組み立てようと為るものが後を絶たない。
「[水よ其に在れ]」
リーシャが当初行っていたように、木を加工して作った板を持ち込み宙に維持した水に浮かべる事で、空を翔ける算段だろう。
池で起こした騒ぎは其れなりに噂が広がっていたし、選抜戦を見て同じように考えるものも出てくるだろう。
覚束無い足元を見れば未だ練習が足りてないのが判る。水で擬似的に波を作り滑り始める其の向かう先は、リーファ教導官がでんと構えている場所だ。
「[砂糖よ其に在れ]」
リーファ教導官の前方に砂糖の粒系因子が漂い水に飲み込まれると、ガッチリ水の制御で抑え込んでいた木板がズルリと滑る。上に乗っていた学徒はひっくり返って地面に叩きつけられた。
彼が此処に居てリーファ教導官に教わっているという事は、何れ飛翔板の機密を知れる派閥だという事なのだが、此れまたリーシャと同じく先走ってしまったのだろう。
「其のくらいで制御を失うなら大技を使うな! 次の学徒!」
チェロルである。黒光りする不思議な板を大事そうに抱えての登場だ。リーファ教導官の片眉が上がる。
「[水よ其に在れ]」
リーファ教導官と同じ様に粒系因子として使う。但し、此方は水のと付く。一気に規模が膨らみ霧と為って一面を包み込む。そっと手を離すと飛翔板はするりと浮かび上がり、チェロルはゆっくりと其処へ移動する。勿論、一切が周りから見えていない状態だ。
霧はゆっくりとリーファ教導官を包もうとするが、其の周りは完全な支配下である為に入り込めず周囲をぐるりと囲む形である。詰まり周りの人たちには見えなくなった。
水の粒系因子には確りとチェロルの気が張り巡らされているから、何の様な御業を使っても其の中を窺い知る由も無いのである。
気の線を水粒全てに数珠繋ぎで掌握する。之は適性の在る物質に気を通す事で増幅させ有効範囲を上げているのだが、一番の目的は隠れる事なので普通の霧より見え難く操作している。
といっても一所に居るわけでなく飛翔板を駆使して移動しまくっている。もし霧が掛かっていなかったとしても其の動きを捉えるのも難しい。
本来なら水流で翔ぶ為、此処迄速くは移動できなかっただろう。リーシャ様からせ……頂いた甲斐があるというものだ。速度に乗って死角を突く。
「ギンッ」
「よし! 其れまで、御業を工夫しての攻撃は見事だ!」
霧が晴れて行くがリーファ教導官しか見当たらない。リーファは徐に手を伸ばしむんずと
何かを捕まえる。
「待て、其の飛翔板誰が創った?」
「ヒッ! ……上げないよ!」
「取りはしないさ、私も創って貰いたいだけだ……リーシャだな?」
「は、はい……」
リーファ教導官はチェロルを飛翔板ごと抱えながら、リーシャの許に和やかに近付いて来る。
「リーシャ、話は訊き出した。私はチェロルと同じ言霊属性持つのだよ。是非とも同じものを創って貰いたい!」
「は、はあ……構いませんけど、後で宜しいのでしょうか?」
「ああ、勿論だ」
リーファ教導官は個人指導を再開する為、戻っていく。
成る程、確かに見る人が見れば其れの質まで判るらしい。混合物質なら判断しかねるが鉄だけで創った飛翔板ではあからさま過ぎるのか。などとリーシャは暢気に考えていた。
闘技実習が終わった後、リーファ教導官に指定された学園の講義室へ入ると数名の学徒が待ち構えていた。
「済まないが優先度の高い人物には声を掛けさせて貰った。1つ創れば此方でも手伝えるよう【岩】持ちも連れてきている」
ルグス殿下も居ることに気がついて礼を執る。
「【砂鉄】は役に立たないと卑下していたのですが、飛翔機や此の飛翔板の御蔭で、日の目を見られます。今日は2度目ですね。深謝します」
2度目と言いつつ感謝から深謝に変わっていたが、リーシャは突っ込まない大人である。一つ創れば手伝って貰えるらしいのでとっとと始める事にしたようだ。先は長いのである。




