52騎馬
休み空け、騎馬の授業は朝から始まる。学徒たちは乗馬用の衣服に身を整え、普通に麓へと降りるのだろうと思っていた。
だが実際には、学徒たちが其々に創意工夫した飛翔板に乗り、麓の牧場へと翔け降りて行くのだ。勿論、今でも飛翔板は秘匿事項の枠であり限られたものたちにしか、製法や飛翔理論は伝えられていない。
然う、限られたものたちには教えているのである。更には選抜戦以降から破竹の勢いで勝ち進む、クラウト・デンバンサーに由って喧伝されてしまったのである。
他領の子息令嬢たちは見様見真似では在るが、其れを何とか作り上げ乗り熟そうとしている。
だが、やはり重量は数倍で普通の岩や水晶ですら65kg前後は在りそうだ。人は其れを見ただけでは理解できぬものである。
木が水に浮く事は経験則から水より軽いからと理解できても、船が浮く構造理論までは考え至らない。彼らには木が水に浮く事実で十分なのだ。
況してや、古い書物を収めた図書館は一般には開放されていない。彼は特別な資格を持つものだけが入れるのだから。
ただ、薄く平たく伸ばして幾分軽量化に成功した岩板や鉄板で翔ぶ行為は、直ぐにでも危険行為として禁止されるだろう。うん、刃物で翔んじゃ駄目だよ。
「私達も飛翔板で降りましょうか」
ベイミィの言葉を皮切りに其々部屋へ戻り飛翔板を用意する。昨日はどうしたかって? 普通にエミリア様が到着するのを待つ間に創ったようだね。
ただ、リーシャはルトアニアで手に入れた磁器標本を参考に、鉄を含む精密磁器型六角多孔で創って見たのだが、部屋へ戻りしな目を爛々と輝かせるチェロルにせしめられてしまった。
此間メルペイクに軽量化と強度を兼ね揃えたものを創って貰った上に、アリア殿下に塗装までして頂いた一品が在るんじゃないのかと訊いてみる。すると、彼は流石に見るものに依っては風切り音などから構造を悟られてしまうので、おいそれと使えないし大切な収蔵品の一つだと宣う。然う言えば部屋に飾ってあるなとリーシャは思い至ったようだ。
馬たちは学園の麓にある牧場で飼われている。普段から乗馬は定期的に行っていたが、刃引きといえど刃物を馬上で振り回すことは今迄禁止されていた。刃物の扱いが拙い学徒が自分で怪我する分には良いが、馬たちが怪我をする前提での訓練は以ての外と謂うことらしい。
「ティロット様、待っていましたわ。ささ、私と打ち合い稽古を致しましょう」
「あっ、……『ぐぬぬ何たることかティロットがアリア殿下に差し押さえられてしまった』」
チェロルはベイミィと既に稽古を始めてしまっている。否、先に動かれたのだ。リーシャはティロットと訓練をする心積もりだっただけに、反応が稍遅れてしまったのである。
最近迄は御業を得た許りという事でティロットの調整の為に遠慮していたのだろうが、リーシャの調整は御座なりである。
不本意では在るが御業を抑える制御を鍛えるのも吝かで無い。其の様な意気込みを醸し出すリーシャと目が合い、嫌な予感を察してか顔を引き攣らせるルグス殿下を確保して、馬上での打ち合い稽古を申し出るのであった。
馬上のリーシャは長刀を斜め前に下ろし右手で挟み込む様に持つ、馬が駆け出しルグス殿下に近付くとスーと水平位置に迄持ち上げて固定する。
然う、此れはルグス殿下が剣技を以て、迫りくる長刀の刃を逸らす訓練が主目的なのである。リーシャとしては長刀を固定する事で、其処へどれだけ全ての力を伝えられるかが訓練の要点なのだ。
まあ、慣れる迄ルグス殿下は吹っ飛ぶ訳で、無残である。
昼前に為って漸く、リーシャから繰り出される長刀に合わせて綺麗に逸らす折を得たようで、長刀の刃を跳ね上げた瞬間に決まった感を醸し出されるがリーシャは大人である。
「おめでとう御座います。ルグス殿下」
「いえ、此れは偏にリーシャ殿が投げ出さずに根気よく尽力して貰えたからこそです。感謝致します」
爽やかな笑顔で然う仰るが、ずたぼろである。リーシャはまたアリア殿下経由で侍従の方から苦言を聴くのだろうかと思わず苦笑いしてしまう。致し方あるまい。
昼に向かう前にチェロルたちに合流しようと当たりを見回すと、丁度ルグス殿下が飛翔板で飛び立とうとしていた。精密磁器型六角多孔の飛翔板である。【岩】か【土】系統の御業だろうかと見ていると、水を顕現させて浮かし昇っていくようだ。チェロルが此の前まで多用していた様式である。
「然う、チェロルが見あ……何だか前にも在ったよね。ベイミィを探せば……居ない?」
否、馬が2頭向かい合っている。2頭? リーシャが目を凝らすと2騎に為った。人馬一体? の完成形だろうか。
「リーファ教導官、彼が所謂人馬一体と云うものなのですか?」
「ん? 彼? 馬隠れの術じゃないの?」
---設定を入れ忘れてました。
修正記録 2017-04-19 13:06
「 況してや、古い書物を収めた図書館は一般には開放されていない。彼は特別な資格を持つものだけが入れるのだから。」追加




