51夕餉
リーシャンハイスへ向かう帰路の飛翔機は、終始暴走気味のチェロルの話し声で埋め尽くされ、時折出てくる技術的提案や着想を、見掛けによらずといえば失礼だが何かと気の利くティロットが、小忠実に帳面へ纏めて整理した後に、メアリーさんへ渡すと大変感謝されたそうだ。道理でやけにおとなしい筈である。
リーシャは序だからとタリス皇帝陛下に頼まれて載せた荷物を下ろし、ベイミィ作の航行記録って奴を、飛翔機の荷物下ろしの時に手伝って呉れた騎士様へ渡して一息ついた。えっ、どんなもの書いたかって? 場所や高度に依って変わる蓄魔器の蓄積率の変化とか、写してはいけない詳細地図を元にした航路や地形の間違いを綴ったりとか、脈略もなくただ色々と書き散らしたものなのだが、騎士様は読みものとして琴線に触れたのか真剣に読み耽っていた。
離宮に皇帝専用と為った飛翔機を届け、其の儘ミルストイ学園へ蜻蛉返りすると思っていた一行は、食事をして行きなさいと夕餉に呼ばれた。寮の方は心配在りませんと、アリア殿下の侍女ラエルさんを経由して、リーシャたちの侍女には既に連絡済みだと云う話だ。何とも抜かりがない。
振る舞われた料理は只々丁寧に調理したものだった。職人が趣味でやっているのかと思わせる様に一つ一つが小さな世界を作っている。小さめの皿に様々な料理が盛りつけられていた。
汁が半ば迄満たされた器に団子がでんと構えていて、上に乗った飾りらしき添え物と合わせて崩さぬように齧り付くと、中には肉と野菜と弾力質の何か(春雨)が口に広がる。
小さな籠の様に竹で編まれた器に紙が敷かれ、魚……ああ、今日運んだ奴だね……と葉と海苔を合わせて巻き込んで、衣で包から油で揚たものが輪切りになって鎮座している。勿論、横には野菜や茸の揚げ物も添えてあり、別の器に注がれた汁に漬けて食べるらしい。
流石に生魚が出た時は皆が驚いた、ルトアニアの様な海に近い土地では新鮮なうちに食べられていると云う。恐る恐る齧り付いてみると、少し弾力が在るものの直ぐ歯切れて口に薄らとした甘みが溶け込み濃い漬け汁と絡み合って初めての感覚が広がる様だ。
まあ詰まり其の様な3口で食べられそうな料理が順を追って並べられていく。
ティロットは生魚の料理が気に入ったようで、目が爛々と輝いていて垂れ下がる。柔やかに味わいを噛み締めていたが、盛ってある器自体小さいのだから直ぐ無くなってしまう。
「ティロットちゃん刺し身を気に入って呉れたのかなー。貴女たちに運んでもらった食材はまだ在るかな……うん、此の子に追加してあげてねー」
「感謝致します!」
「此の食材は新鮮だと斯うして生で食べられるのだよー。内陸では海の幸を新鮮な儘手に入れるのは難しいからねー。全ては貴女たちの御蔭だよー」
少し物足りなさそうな顔つきだったのがバレバレのようだ。タリス皇帝陛下はうんうんと頷き此方も満足そうである。
ティロットは、其の後も野菜を牛肉で包巻いた料理を御代りさせて頂いていた。ああ、1人近衛騎士団訓練所の見学に行っていて、体を動かしていたからお腹が空いていたんだね。
食後はタリス皇帝陛下から改めてお褒めの言葉を賜り4人は感謝を述べて其の場を辞した。メアリーさんは別席で食事を取っていたと云う。アリア殿下の前では、食事を取るよりも御世話をしたく為るから落ち着かないというのもあるけれど、此れが仕えるものの在り方なのだろう。
「え!」×4
「? 私も一緒に帰りますわよ?」
「いいえ、アリア殿下、護衛が少なすぎるのでは?」
「大丈夫ですわ! そろそろエミリアが到着しますし、既にルトアニア自治邸区に使いを出していますから間も無く親衛隊も駆け付けますわ。後はティロット様とリーシャ様、ベイミィ様が周りを固めれば完璧ですわね。然う然う、チェロル様からの数々の提案は大変素晴らしいものでしたわ。ティロット様が綴ったものを触りだけ見せて貰いましたが、確かに暗がりでは色々と問題も起きましょう。簡易ですが先程離宮にあった懐中気灯をせ……貰ってきましたの。後日、蓄魔器に接続できる気灯を運ばせますわね」
そしてリーシャは懐中気灯を照らして、飛翔板を駆り先導を行っている。勿論、空中だから前を照らしている訳じゃなく、後続が進むべき道を自ら示しているのである。
エミリア様が誘導指示はリーシャが一番上手だと、意味の分からない褒め方をされて此の任を仕ったのだ。まあ、半分【遠見】の御業も当てにしているのだろう。リーシャは遥か遠くミルストイ山の麓に見える寮の窓明かりを頼りに真っ直ぐ帰路を進んだ。
---
修正記録 2017-04-18 08:30
「といえば失礼だが何かと」追加
幾つかの句点追加
頼まれていた荷物を下ろし → 頼まれて載せた荷物を下ろし
航行記録を飛翔機の荷物下ろしを手伝って呉れた騎士様に渡して
↓
航行記録って奴を、飛翔機の荷物下ろしの時に手伝って呉れた騎士様へ渡して
食事を取っていた。 → 食事を取っていたと云う。
---保存を忘れてアップしてました。
修正記録 2017-04-18 00:17
リーシャンハイスへ向かう帰路の飛翔機は終始チェロルの話し声で埋め尽くされ、時折出てくる技術的提案や着想を見掛けによらず気の利くティロットが、小忠実に帳面へ纏めて整理した後にメアリーさんへ渡すと大変感謝されたそうだ。道理でやけにおとなしい筈である。
↓
リーシャンハイスへ向かう帰路の飛翔機は、終始暴走気味のチェロルの話し声で埋め尽くされ、時折出てくる技術的提案や着想を、見掛けによらず気の利くティロットが小忠実に帳面へ纏めて整理した後に、メアリーさんへ渡すと大変感謝されたそうだ。道理でやけにおとなしい筈である。




