50通話機
帰還の途に就く寸前に呼び止められた。何事かとメアリーさんも若干険しい面持ちであった。運び込まれたのは2台、15kgはありそうな遠隔気力通話器なるものだそうで、通称を遠気話器だとか実に呼びにくい遠話器とか通話器とかで良いだろと。
何でも飛翔機は蓄魔器を積んでいて2機の其々がルトアニアを治める皇族専用機と為れば、開発された許りの軍事規制が付いた超小型遠隔気力通話器を、其れに載せるのも吝かではないそうだ。
今回は色々と積んで帰る荷物は在ったが、3機と増えた為に多少は余裕があるし、チェロルは兎も角メアリーさんと別れて乗り込み、帰路を進むのだから有難い。
先頭はメアリーさんだが【遠見】が使えるリーシャが航路を指示すれば、効率の良い巡航ができるので大変都合が良いのだ。
少しチェロルが寂しそうな目をしていた。ああ、帰りは1人な上にメルペイクとも引き離されているんだね。だが之許りは仕方ない、リーシャもベイミィも鉄や空気系統の御業を持っていないのだから。
そんなチェロルを見かねたメアリーさんが、遠隔気力通話器を運んできた技師とごにょごにょと話しをすると、書類を受け取りさらさらと記載して何処ぞに転送する。そしてメアリーさんの頷きに、予備で在ったのか運んできた工具箱からもう1台取り出した。
「此れをチェロル様の飛翔機に取り付けて下さいませ」
「良いのですか!」
「此度の遠征は姫様の我儘とはいえ、チェロル様の為した功績は計り知れません。ルトアニアが其れに報いず苦痛を強いるのは以ての外です」
「ですが、アリア殿下には既に数々の部品を提供して貰ってます!」
「其れは姫さまの依頼を遂行する為の道具であって報酬ではありませんよ。受け取って貰わないと、私が姫さまやタリス皇帝陛下に叱られてしまいます」
「こ、心より感謝します!」
軍事規制対象じゃなかったのかと、皇族専用機とならば特別に卸した最新鋭のものじゃなかったのかと、こっそり我儘って言っちゃたよね。まあ、チェロルの作り出す数々のものが今や規制対象なのだから、其処に今回の遠隔気力通話器が加わった処で見るものに依っては何も変わらないのかもしれない。
因みに、リーシャの【遠見】が頼られる一番の理由は帰りがリーシャンハイスへ向けてと、航路が若干変わっている為だ。帰りもやはりオーエンス大森林を避け一旦北上し、旋回後はリーシャンハイスへ真っ直ぐ向かう進路を取る。
本来ならば行きと同じように街道を目印に沿って進んでも良いのだが、リーシャの【遠見】を使えばというか【遠見】で来しなに周辺の殆どの地理を覚えた為に、最適な進路を熟知できていた。
ならばリーシャが先頭にと為るのだろうが、タリス皇帝陛下に専用機の移送を指名されている上に、御璽を掲げる機体を先頭にして進むのも周りの目が憚れるのだ。
然う然う、謎の現象を調査してきたというタリス皇帝陛下とアリア殿下は速度計700の制限規制を解かなかった。だが実際に其の現象を確認できたという。或る程度は現象の予測も立てているらしいが、後は技術者や研究者に纏めさせるとのことだ。
但、止むを得ない時は其れを超えても構わないが、其の時は一気に超える事と注意があった。リーシャたちはよく解らない迄も、其れを超える瞬間の領域に留まれば振動が蓄積されていき、最後には機体が崩壊する虞があるという警告は判った。
「此方皇帝専用飛翔機の移送の任を拝命したリーシャ・グラダードです。間も無くリーシャンハイス西門に着きます」
『此方第二騎士団西門警邏隊です。報告は受けております。其の儘お通り下さい』
「了解しました」
『おおー此れ凄い便利だね! 門で止まらないなんて本当に凄いよ!』
「帰りのチェロルは何時もの3倍喋ってますわね」
『此の儘宮殿の一角、皇太后の住まう区画にある離宮の1つに降ります。前に来た時と同じ場所です』
『日が暮れる前に帰って来られたのは良いけど、暗くなると地上は兎も角飛翔機同士の位置確認が難しく為るよね! 何か明かりが灯せればお互いの場所が確認しやすいかも!』
『姫さまと相談して部品の手配を検討致します』
『おおー部品が在るんだね! うん! 宜しくね! じゃあ、後ね、必ずしも皆が此の通話器を使えるわけじゃないと思うんだ! だから光の点滅を使った廃れた伝達手段を復活させてはと思うんだよ!』
『良い提案と思います。エミリア様にも相談してみます』
「遠気話器じゃなかった?」
「通話器で良いと思いますわ。此方の方が覚えやすいと思いますわよ」




