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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
68/345

49昔語り

「機体を何度か傾けますので座席の横にある安全(おび)を装着して頂けますか」

「ええ、アリアは教えてくれなかったんだよー。できる子は違うなー」

「お褒めに(あずか)り光栄です。彼方(あちら)の飛翔機は御業だけで()び立ちますから全体的に(なめ)らかに動きます。安全な飛翔航行に自信が御有(おあ)りだったのでしょう。僭越(せんえつ)ながら此度(こたび)(けん)、御業ではなく推進機関や手動操舵に()って飛翔する事を御望みかと拝察致(はいさついた)しております。()すれば()の機体の動作も荒く()ります故の対処で御座(ござ)います」

「分かりました。ですが言葉が硬い! もっと何時(いつ)もの言葉を使って良いんだよー」

「は、はい。上昇許可を確認、機体先頭部から上昇します。斜めに()りますが少し背凭(せもた)れに沈み込むくらいで止めます。其処(そこ)から機体全体の上昇を開始します」

「はい、分かりましたよー」


 緊張はするものの一度は操舵した経験が()るし、先程迄(さきほどまで)は後ろで細かく全ての作業を確認して記帳していたのだから手順は完璧である。リーシャは円滑(えんかつ)に離陸飛翔を進めていった。勿論、傍らには護衛のメルペイクが装備されている。



「そうね、(ついで)だから少し昔話をしましょう。流し聞いて(もら)って構わないですよー。まあ、ルトアニアに伝わる話なんだよねー」

「はあ、拝聴致(はいちょういた)します」

「うんうん、【時】の御業についての話なのよね。【時】を持つものは非常に少なく史実にも滅多に登場しないぐらいなのよー。だから()の力も公には(ほとん)ど知られていないの。でもね、ルトアニアには史実に無い秘匿された話が伝わっているのよ。

 ()の力は隔てを()えて世界を見れたと()う。世界とは此処(ここ)(ほとん)ど同じもの水面(みなも)に写った景色の(ごと)きもの、そう波打つ波紋しか差がない程に。

 ()の世界は幾つも隔てて()ったと()う。殆ど同じに少し(ばか)り進んでいたり遅れていたりと(わず)かばかりの波紋は()れど此処(ここ)とは変わらない。

 ()る時、(こと)なる歴史を辿(たど)る世界が()ったと()う。()れは人の()したる業、進みし所から遅れし所へ燈火(ともしび)と引き換えに渡りしものが変えた歴史。

 ()の世界は揺れて波紋を()したと()う。波紋は隔てを()えて周りの世界に伝播(でんぱ)する。形は変われど、もの壊れれば(ひび)が入り、もの作られれば発明が()される。

 世界は揺れて変わりしけれど波静まれば、全ては()(よう)を変えどもしゅうそくする。全ては水面(みなも)(ごと)しありけり。って感じの理解し難いもの何だよねー」

「はあ、(とて)も難しいです。世界とか宗教系の経典とかに出て来る概念ですかね。世は前世、現世、来世とか界は区切り、(さかい)、仕切りですか」

「さあ、どうでしょうねー。()の話はリーシャちゃんの心にだけ(とど)めておいてくれたら嬉しいなー。そうね何時(いつ)かリーシャちゃんの子供にだけは伝えても良いかなー」


 飛翔機を操舵するリーシャの顔は見る見る青くなって行く。先程(さきほど)は流し()いて良いと(のたま)いし(はず)が、秘匿の上に(しっか)りと心に刻んで記憶し子孫に伝承しろとの勅命に()こえる。(さぞ)かし幻聴であればと願ったであろう。


「はい、(かしこ)まりました」

「飛翔板の六角多孔(ろっかくたこう)も驚いたけど、()の飛翔機の技術も全部が凄いねー。飛翔艇の開発には結構苦労したんだけど、何というか目の付け所が違うよねー。原理を間近で見たら理解できるけど、()れ口頭で説明されても理解できるか怪しいよー」

「はい、私も作成を手伝いながらも実際に離陸するのを見て初めて理解できた口です。指示(いただ)いた岬を旋回します。現在の航行速度600です」

「もう着いたかー、飛翔機の他では【瞬間転移】ぐらいしか追いつけない速さだよねー。私も()れに乗ってリーシャンハイスに帰りたい(ところ)だけど、兄にややこしい仕事全部押し付けてきたからゆっくりもしてられないのだよねー。()の飛翔機の移送はリーシャちゃんとメルペイクちゃんに任せたよー」

「謹んで拝命(はいめい)(いた)します。旋回終了、トルレイスへ向かいます」

「チィバ」


 リーシャは方向決定を行うため【遠見】を使い宮城を見遣(みや)るとベイミィが水晶の飛翔板を作り上げていた。実に暇そうである。だがリーシャは()のような事などはどうでもよかった。

 意味不明の昔話とやらを記憶しなくては()らない。時間が経って忘れてしまわないように必死なのである。



 操舵中に流し聞いてと言いながら秘匿と脅しをかけ暗号めいた話を覚えさせる。そして、深く考えさせないように心にだけ留めておくようにと。



 タリス皇帝陛下をトルレイスへ送り届けると、早々にアリア殿下を連れてラギストアへ帰っていった。勿論、遥か遠く(かす)かに見える上空へ向けての【瞬間転移】である。

 リーシャは()の全容を【遠見】で見ていた。そして、()れは常人の真似できるものでは無いと悟った。遥か上空の空気が薄く途轍(とてつ)もなく寒いと知っている理由が分かったが、嬉しくないのは何故だろう。ただ、微妙な顔で眺めているだけだった。


 飛翔機3機での帰還である。チェロルは1人で乗ってもらいリーシャとベイミィは……()れにメルペイク付き服型安全装置は皇帝陛下専用機と()った飛翔機に乗る。残りの1機はメアリーさんと新鋭の飛翔機に乗りたそうにしているティロットだ。

 宮城へ挨拶をしている間に座席が上等なものに交換されていたが、内装は流石に時間が無かったらしい。他の2機はもう記録を付ける必要が無いのだが、ベイミィは間違いが()っては洒落になりませんですわと言わんばかりに筆を振るっている。上等な新品の座席に墨を(こぼ)さなければ良いのだが。



---

修正記録 2017-04-16 07:51


先程(さきほど)は流しい聞いて → 先程(さきほど)は流し()いて


一部ルビと句点を追加

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