48操舵者の誉
天蓋の水晶硝子を「ガチャ、スー」と少し癖に為りそうな感覚を覚えつつ開けると、其処には既に簡易階段が用意されていた。
乱暴に飛び降りるのも畏れ多いので、簡易階段は大変助かる。二人を交互に見遣るとリーシャ様お先にどうぞと意思が込められている。
仕方無しに正面を確認すると案の定前方には、タリス皇帝陛下が満面の笑みで迎えている。一礼を執ってから、そろりと機体へ少しでも足蹴にしないようにと心掛け階段に足を運ぶ。
「試験飛翔の儀、承りし誉を畏まって候へば、見事滞り無く遂行せしめけり。此れ其の譜成るを奉る」
「うん、分かんないよー。唯”すんなり”とか”させる”とかは要らないかなー。古めかしい言葉は苦手だから普通の言葉にして欲しいかな。要は飛翔試験は手際よくやりとげて、其の記録を纏めたのが此れね」
「は、はい! 仰る通りで御座います」
リーシャは適当に喋ったのがバレバレだった。どうやら皇帝陛下との会話に古い言葉は使わないで良いらしい。
ベイミィがアリア殿下と古式の挨拶を交わしていたのが、頭に残っていたらしく謝罪の手紙を返上する儀式と同じに受け答えすれば良いと、勝手に思い込んでしまっていたようだ。
「うん、全て確認しているね。では、早速……ん?」
「陛下、私めは此の会場にて警備を担当しておりました。其の折、チェロル様から躯体で在りましたが、実演操舵による説明を頂きました。願わくば私めに操舵者の任を仕る事お許し頂きたい所存で候」
いや、この人も何だか古めかしい言葉使っているよね。そういえばルトアニアの方々、テリシア殿下御付のカルラ様や以前に記録係で見かけた学徒の方も微妙に違うがそんな感じだったはずだ。
ルトアニアは地域によって変わるのだろうかとリーシャが考えていると、タリス皇帝陛下が宣い給うた。
「いいえ結構です。チェロルちゃん行きますよー」
「ヒッ!」
流石に此れは不味いとリーシャも焦りを感じ奏上することにした。
「畏れ多いことでありますが、奏上の許しを願い給うと存じます」
「言って見なさい」
「はい、チェロルはとても気が弱いので私達から離れるのは心配なのです。心許ないかと思われますが、不肖ながら私めが操舵者の任を仕りたいと存じます」
勿論、先程の近衛騎士様のお言葉を真似している。但、其の儘真似たのでは明らかに馬鹿にしていると感じさせかねないので、カルラ様風に変えているのだろう。
何よりタリス皇帝陛下が望まれるのは御業を使わない操舵であろう。先程の近衛騎士が練習もせずに自信満々に出しゃばってきたのは鉄系の御業を持っていたのだろう。だからタリス皇帝陛下は断ったと予想するのは当たらずと雖も遠からずではなかろうか。
ならば、リーシャの方が増しである。何せ一度だけメルペイク安全帯……もとい服型安全装置を着込んで単独飛翔を行ったのだ。0より1である。更に先程、後ろに乗って翔んできたのだから尚更である。
「うん、其れでも良いよ。じゃあ準備して早速飛んじゃおう」
「しかし其れでは護衛のものが!」
タリス皇帝陛下はビシッとチェロルが抱えるメルペイクに指をさした。
「ヒッ!」
「護衛ならメルペイクちゃんが居ますよ。学園に居る従魔は一律に護衛登録してますよね。でしたら書類でも認められた立派な護衛ですよ! ねメルペイクちゃん?」
「チュバチュン」
リーシャたちは初めて本当の屁理屈に遭遇したのかもしれない。というか其れ「為せば成る」じゃなかったか?
飛翔機の困ったところは、飛翔板では追いつけない速度で巡航する事にある。飛翔板の限界速度すら通常の服装では厳しいだろう。
其れ故、両翼にある空気推進機関の水平転回が終わる頃には、飛翔板の護衛は置いてけぼりと為ってしまう訳である。
どうやらタリス皇帝陛下の近衛騎士は、アリア殿下の飛翔機とチェロルの飛翔機を借りて傍らを翔ぶようだ。アリア殿下の飛翔機を借りるという畏れ多いことをしてでも護衛に付きたいのだろう。
「じゃあメルペイク、今度は私と一緒に翔びましょうか」
「チィバ」
「ごめんなさいね! リーシャ様、私がこんなだから」
「大丈夫だよ。此れは迚も名誉な事なんだから逆に其れを奪ってしまって申し訳無いくらいだよ。では行ってくるね」
「行ってらっしゃいー」×3
「あら、ティロット居たのね」
「ベイミィ酷い!」




