47試験飛翔
周りに居た近衛騎士たちは少し残念そうな面持ちだ。いや技術者たちとしても試験飛翔や参考品としての価値は計り知れない。例え此れから先、同型機を幾らでも作るのだとしてもである。
此の儘置いて帰れば、後の所有権争いは目に見えていた。そういった意味では、タリス皇帝陛下が行った飛翔機への印し付けは英断だったのかも知れない。
だがしかしである。さあ、此れから試験飛翔に行きましょと為った矢先に両翼へ皇帝陛下の御璽が付けられたのである。
其処らの石ころだって其れが付けば畏れ多いものへと早変わりである。まあ例えが悪いがリーシャたちが緊張するのも無理からぬ事なのである。
アリア殿下の近衛騎士4名が飛翔板を駆りて上空へと舞い上がる。上空への安全確保だが以前ルトアニア令嬢たちが見せた動きとは洗練さが違う。エミリア様が学徒を指示し鋭意模索し努力した結晶が此処に実っているのだろう。
「上昇許可の合図を確認しましたわ。チェロル落ち着いて聴いてね。例え何処かに打つけても鉄ですから頑丈ですし、元々チェロルとメルペイクが作り上げた機体ですから、直すのも造作も無いことですわ」
「べ、ベイミィ壊す前提良くないよ! あれ……こ、此の機体の表面に塗装してあるのは判るけど表面の鉄に別の物質が混ぜられてるよ! 上昇許可了解! 両翼推進機関の転回可動開始!」
「うーん、【遠見】で見ている分にはアリア殿下とお変わりなく……そう言えば途中から参加為されたアリア殿下に吹付け塗装を任せて、タリス皇帝陛下はテカテカとギラつく鉄の表面を……そう、曇らせておりました」
「推進機関が垂直位置に達したわ。確か、純鉄に炭素とか他の金属とかを混ぜると、強度が変わったり錆びにくく為ったりするのよねえ」
「両翼推進機関の稼働を開始! 表面だけだから良いけど余り不純物を混ぜられると制御の邪魔に為るんだよね!」
「機体先頭部の上昇を確認しましたわ。”何とかチェロルの気が逸れましたわね”10°、15°」
「ああ、そういえば、此の機体の重さで20°上昇は初めてだったね?」
「20°、チェロル! 30°まで傾けるわよ!」
「りょ、了解したよ!」
「ねえ、私必要無くない?」
「25°、リーシャ様! ちゃんと20°上昇は未確認の為、安全を期して30°上昇に変更って書いておいて下さいませ! 30°、維持、転回をお願いしますわ」
「30°姿勢維持の儘、両翼推進機関の転回可動開始したよ! ベイミィ似たような数値の会話は混ぜないでよ! 何だか周りから凄い視線を感じるよ!」
「両翼推進機関の転回を確認したわ。100°、其れは失礼しましたわ。チェロル周りは男爵芋と思って下さいませ。120°、転回固定の後、中央推進機関の稼働開始をお願いしますわ」
「中央推進機関2基の同時稼働を開始したよ! ベイミィ言動がおかしいよ! というか不遜だよ!」
「えーと、人は片方が突拍子もないことを言い出すともう片方が冷静に為ると」
「高度122、リーシャ様! 其の様な事は書かないでいいですわ! 高度123、上昇を確認しましたわ」
「ベイミィ指示事項とかは丁寧に言わないでも良いのでは?」
「此れが私の矜持ですわ!」
傍から見れば3人とも言動がおかしいのだが、此れまた重圧が掛かる緊張を孕んだ中での作業であるから致し方あるまい。
「141、142、前進許可の合図を確認しましたわ。垂直上昇の停止及び中央推進機関の出力を上げて下さいませ」
「結構、細かく指示してるのだねー。ティロットだと読み上げているだけだよ」
「速度計150、160、両翼維持解除、水平転回をお願いしますわ。此方の飛翔機やチェロルの飛翔機は垂直飛翔の機構が備わっていますから煩雑……いいえ、私が操作している感があるからですわ」
「ベイミィ喋ってないで両翼推進機関の転回可動を開始してるよ!」
「ふー、何だか緊張したね。此の内装も上等なものに交換するのかな」
「速度計280、両翼推進機関の水平位置へ転回固定を確認しましたわ。リーシャ様はちゃんと確認項目を書いて可否を付けてくだいませ! 見落としが在りましたでは済みませんわよ!」
「は、はいー!」
ベイミィの鬼気迫る迫力にリーシャもたじたじである、。やはり此の様な時は例え混乱気味でも一番の文官家系然としたベイミィは頼りになる。
「高度1200、旋回も上昇下降も問題無く操舵できている様ですね。大きいとやはり楽ですわ」
「私のは1人乗り様だもん! 操舵の可動域も問題ないよ! 確りと御業で細部まで確認して作ってるのだから当然の結果だよ!」
「そんなに狭かったの? 長椅子に変えたんだよね。私は普通の座席にしか乗ったことが無いから……と言うか、其れが原因で急遽長椅子に変えて貰ったんだよね。彼は暫く足が痺れて動けなかったからね!」
「はいはい、そうでしたわね。操舵を握っている分には問題ないみたいだけど、後ろだと長く乗るなら背もたれが欲しいわね。其れでは、確認項目に見落としも無さそうですし、そろそろ戻りましょうか。着陸も確りと手順を踏んで確認して行かないと後で問題が在っては洒落に為りませんわ」
本来ならばチェロルとメルペイクが居るのだから御業を使えば楽に降りられる。だが残念ながら目的が御業を使わないで飛翔や離着陸する為の機構が、問題無く動作するか確かめる事にある。
皇帝陛下に差し押さえ……もとい基献上する飛翔機である。早々に終わらせて引き渡したい処だが、そういう訳にも行かずベイミィ監視の許、着陸も一つ一つ丁寧に確認して記録していった。
「高度122、「ゴッ」着陸を確認しましたわ」
「無事着陸できたね。チェロルが緊張で震えるものだから最初はどうなるかと思ったよ」
「チュバチュン」
「ほらメルペイクも心配したってさ」
「為せば成るだって!」
「……」
「……」
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修正記録 2017-04-14 07:24
「ベイミィ似たような数値の会話は混ぜないでよ! 」追加
「両翼推進機関100°、チェロル周りは
↓
「両翼推進機関の転回を確認したわ。100°、其れは失礼しましたわ。チェロル周りは
リーシャのもたじたじである → リーシャもたじたじである
「高度122、「ゴッ」着陸を確認しましたわ」追加
「無事着陸迄できたね。 → 「無事着陸できたね。




