44近衛騎士
其れは音もなく空を斬る事さえ無い。全ての大気を制御していれば当然の事かもしれない、だが知らないものに取っては驚きの事なのである。尤も、此処では其れに慣れ対応できるものたちが、只者ではないと感じるものは少ない。此の事が異常なのである。
ティロットを含めアリア殿下の近衛騎士たちは一斉に空を見上げた。音も気配すら感じない上空に飛翔機がスーっと降りてくるのを感じたからだ。此の騎士たちはラギストア首都リーシャンハイスに随行できなかった180名、親衛隊に選ばれた30名を含んだ精鋭たちである。
「お母様も人が悪いですわね。私の近衛騎士たちを試す様な真似を為さるなんて」
「ふふふ、制御を返します。ですが彼の子は周りの騎士たちに反応したと思いますかー?」
「いいえ、ティロット様は普段からチェロル様をある程度、認識していますから……チェロル様は飛翔機を作り上げた子、私に手紙を返してくれた子の後ろでふらふらと意識を失いかけていた子ですわ。其の子は普段から隠れるのが得意というか目立たないように過ごしている所為か、気隠の技、素質をぐんぐんと伸ばしているのですわ。近いうちに御業と為せると皆は目しています。因みに教えたのはリーファ教導官ですわ」
「ふむ、チェロルちゃんはリーファに見咎められる程の何かを持っていたのかしらー。さて、降りましょうか」
「お母様……いえ、何でもありませんわ」
アリアは気になっていた事がる。母タリスは以前からリーシャたちを知っていたのではないか。彼女達が先生と慕うマリオンというもの、以前は母タリスの近衛騎士をしていたという。
そしてマギーという貴族出身らしき護衛を兼ねた侍女の存在。
だが、今、此処で訊く事でもない。飛翔機はゆっくりとアリアの近衛騎士たちが礼を執る訓練場へと降りて行く。
タリス皇帝陛下とアリア殿下の二人が乗る飛翔機を確認してから、騎士たちの動きは早かった。直ぐに関係各所へ此の区画に飛翔機の到着したことを知らせる使いを出し、周囲に騎士を配置して安全を確保する。
何故か、いやエミリア隊長の指示書が届いているのだろう。新しく導入された飛翔機の着陸を誘導する係が定位置に立ち、前回リーシャがどうしてもと強引に提出した訂正案を盛り込んだ誘導の合図を開始する。
「先程まで感じなかった気配が判るようになった!」
騎士たちを真似て礼を執っていた筈のティロットは、思わずつぶやくように言葉を漏らしてしまう。
「ええ、タリス皇帝陛下が完全な掌握圏を解除為されたのよ。人は卓越すれば周りのものの存在を感じ取る為に、無意識で気を放ち其れを感覚器官として全方向を探っているのよ。其れを全て遮断すれば気配を感じる術が無くなり、視覚と聴覚でのみ其の存在を認識しなくては為らなくなるのよ。今回は音も絶たれていたから視覚のみね。
だけど人は意外と多くの情報を認識しているものなのよ。だから気付ける人は不自然にできた地上の影だったり、感じ取っていたはずの空間の喪失だったりと、些細な違和感に気付き存在を知るのよ」
「は、はい、有難う御座います。イザベラ様」
「いえいえ、気隠の一種だけど此の歳で気付けるのは驚愕だよ」
「ハハハ……友達の1人に厄介な子が居る所為かな」
ティロットのつぶやきに小声で答えてくれたのは、親衛隊3番手、ルトアニアでの近衛騎士団を纏めている隊長補佐のイザベラ・ダンテスタードである。
タリス皇帝陛下の近衛騎士たちが降りてくるのを確認すると、配置する場所を空けさせ其処で礼を執るようにと素早く指揮を執る。鮮やかなものである。
飛翔機が地面に降りると何処から持ってきたのか、二人の騎士が少々簡易だが階段を設置する。御業で水晶なりの階段を作れれば良いのだが、皇族の間近で御業を使えば近衛騎士に切り捨てられるだろうし、タリス皇帝陛下とアリア殿下の掌握圏内で御業を使えるとも思えない。
水晶硝子の天蓋(風防)が絡繰棒でスーと開き、用意された仮設階段を無視してふわりと降り立つのはタリス皇帝陛下である。
「皆、良き動きであったよ。少し訓練を見学したい」
……アリア殿下の近衛騎士たちは目に迫力を宿した気がする。彼女達150名と29名、順位を争うものたちである。結果次第では親衛隊入り、或いは常に同行する20名の親衛隊に選ばれる可能性が在るのだ。
アリア殿下が降りてきて口を開く。
「イザベラ、ティロット様の相手をして貰えるかしら」
「御意に」
……心なしか騎士たちの目が死んだ様な気がする。
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修正記録 2017-04-11 07:30
句点と幾つかのルビを追加
気隠一種だけど → 気隠の一種だけど
アリアの近衛騎士たちの目に迫力が増した気がする。
↓
アリア殿下の近衛騎士たちは目に迫力を宿した気がする。




