43自由奔放その2
「成る程ー。幾つかの区画に空気袋を入れて機体全体を、【大気】で制御できるようにしている訳ねー。翼に与える揚力はアリアが助言したのかなー?」
「いえ、恐らくは今年の開園初日にお母様が、学園に乗り付けた飛翔艇や選抜戦で解禁になった飛翔板を参考にしたのでしょう。突然作り始めたのを見た時は驚かされましたわ。そうですね、本の少し強度とか重量配分に口を挟ませて貰ったぐらいでしょうか」
「1人は今迄【木】の御業持ちしか扱えなかった多孔質の木材を使った飛翔を、より洗練された六角多孔の組成技術を思いつき、多くの個体・気体・液体に類する御業持ちに飛翔の可能性を示した。簡単に公にできるものでは無いから、顕彰できただけでも胸のつかえ下りたけど、孰れまた何かの形で報いたいねー。
そして、もう1人は此の飛翔機を作ったのよね。之もまた凄いよね、適性が無くても長い間空を翔べる。しかも御業では辿り着けない速度を出し、私しか行けなかった高高度に辿り着いたの! 更に未知の領域、謎の現象へ誘ってくれるのだから。
しっかし凄い速度になるものだねー。そろそろかな、前方の大気を薄くして推進機関に大気を流し込むよ、序でに機体内部の大気を前方に押し進めるよー!」
メアリーが操舵を握って飛翔していた時は、高高度で吹き荒れる高速の風に押され推進機関の出力は全開で固定しており、遣っている事は高度を少しずつ下げているだけだった。だから其れをすんなり超えて其れに気づかず、唯、大き音がしたねといった感想に逗まったのである。
速度を大気の御業と推進機関で制御しているのだから、流されて一瞬で超えてしまったメアリーたちや、前を追い駆ける必要が在った為に其れを超え維持したチェロルたちとは事情が違うのだ。
其の速度に近付くと音が重なり増して行く、其れは音の速度に重なり音と共に移動すること。爆音の正体は気体に打つかる大気の音や空気推進機関の音、其れら全てが重なって蓄積されて行くことで起きていたのである。
誰しも慎重に物事を進めるのは仕方が無い。況してや未知の現象を確認しようとしているのだから尚更だ。だからゆっくりと速度を上げ音を蓄積する事になる。
飛翔機の内部には轟音が鳴り響き振動が起こる。其れが徐々に大きくなるものだから、慌ててタリスは飛翔機の速度を緩めてしまう。
「お母様……先程のが例の謎の現象ですか?」
「多分、間違いないでしょうねー。報告から推測した環境を作ってみたのよ! だけど起こった現象は2つの報告とも違うのよね。一つ目は音が一瞬だけ響いたのと二つ目は同じく一瞬の自機の音に続いて、前方の飛翔機からの爆音・振動の継続を観測。そして今のが徐々に増大する音と振動かー。違いが在るとすれば私の制御でゆっくりと速度を上げたぐらいかな? 之は行くしか無いよねー」
「お、お母様……「ドッオォォーン」えーって音が無くなりましたわ!」
「判りますか? 前方の大気の音は聴こえるのに後方の音は聴こえませんよ! 之は音が追いつけなくなる速度になったんじゃないかなー?」
「そうですね。飛翔機の機体先端部から此の位置迄に当たる大気の音は聴こえますが、操舵席から後ろは聴こえません、いえ総量が小さく為っている」
「何となく判った気がするけど言葉に直して説明するには頭の中で整理する必要があるよなー。取り敢えず戻ろっか」
「はい、旋回します」
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「……お母様、何だか飛翔機がもう一機増えていますわ」
「んー話に聞く正確な心象を其の場の空間に投影できるものが居て、其れを集まった技術者たちが即座に補正していくのだから、あり得なくもないのかなー……って彼の子達が部品取り付けも遣っているの?」
「もう3機目だから流石に熟れたものですわね。あらメアリーも手伝ってますわ。数刻は機体に気力を通してますから全体形状も鉄と空間両方で把握しているのかも、何となく理解できました。ところで、此の機体はお母様の区画に降ろして宜しいのですわね」
「そうね、私が現れたら混乱するよね! 其れで良いよー。ん、1人足りなくない?」
「ティロット様ですね。私の近衛たちが行う訓練を見学しているはずですわ」
「じゃあ覗きに行こうか!」
「先程の混乱に対する気遣いは……」
「気遣うとしたらあの子1人だけにだし私とアリアが現れた時の騎士の動きを見せた方が良いでしょ」
「確かにそうですわね。では私の区画に降ろしますわ。お母様の近衛は……飛び立って来ましたわね」
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「メアリーさーん、タリス皇帝陛下とアリア殿下が戻ったみたいだよ。彼処はティロットが向かった所かな」
「姫様の区画ですね。タリス皇帝陛下の区画へ降りると思っていましたが何でしょう」
「メアリーさんは行ったほうが良くない? 此方はもう部品組み込むだけだし、特に案内を受ける事もないから大丈夫だよ」
「ではリーシャ様、お言葉に甘えて姫様を見てまいります。また後程」
「はい後程ー。ベイミィ此方の伸縮棒取り付けは終わったから水晶硝子の強度確認してー。然し1機分の部品が丁度あるとは……」
「用心の為に用意しておりました」
「うわっと、そうなんですか。まあ設計図で彼是説明するより一通りの作業を見て貰った方が早いですからね。チェロルも作業の割に楽だったと思います」
「はい、此方も大変参考になりました。申し遅れました私魔気動機関開発主任兼飛翔機開発部部長リザエル・パッカード、ルトアニアの平民階級です。以後宜しくお願いします」
「あ、はい。此方こそ宜しくです。リーシャ・グラダード、ラギストアの男爵家です。そして此の飛翔機を立案し制作に迄至った立役者、えいっ」
「ヒッ! 何故居場所を……」
「チェロル・バーカイマー、ラギストアの男爵家です。ベイミィを呼んだのにメルペイク抱えながら覗きに来たら分かります」
「ん? ごめんごめん水晶硝子管の形成に集中しすぎてリーシャ様呼んだ?」
「序でにベイミィ・ハイストス、ラギストアの子爵家です」
「ちょっ! 序でって酷くない? 宜しくですわ」




