42息抜き
「ではアリア、後ろの子が限界の様ですから早く済ませ上げましょう」
「ええ、ではベイミィ様、チェロル様、二方からの伝へ知りたる返上の儀、此れを受けること憚らず相成り候う」
「御返りに、か、畏まりて、痛っ、舌噛んだ! ……候う」
ベイミィはアリア殿下の申し出を受ける意を示し、手に持っていた手紙を舌を噛みつつ差し出した。アリア殿下は和やかに会心の微笑みを浮かべながら頷き、手紙を受け取った。言葉を変えたのは、此れは古い儀式ですよという合図であり、ベイミィも此れを察して舌を噛みつつも儀式に則って応えたのである。面倒だね。
「良く出来ました。中々見処が有る子じゃない。此の文を渡して返して貰う迄が帝国の古い慣例なのよ! 面倒な事よね。まあ詳しくはメアリーにでも訊いてね。アリア行きますよ! 件の謎の現象とやらを飛翔機に乗って調べに行きます」
礼を執っていたメアリーの顔は見る見るうちに血の気が引いていく。勿論、タリス皇帝陛下の近衛騎士団たちもだ。リーシャたちは何が起こっているのか余り理解できずにいる為か、ぽかんと眺める許りである。
「タリス皇帝陛下、お待ち下さいませ。飛翔機には安全の為に【鉄】系統の御業持ちをお供に同乗させるべきですし、皇族の御方が二人固まって搭乗するなどとんでもない事で御座います」
「飛翔機で発生するという謎で危険な音って云うのは、先頭を飛ぶ機体では聞こえもせず届きもしなかったらしいじゃない。付いて来られると巻き込んでしまうから、護衛は要らないはですよ。其れから私達二人の御業であれば、鉄とはいえ大気に乗る為の形状を持ち大気を内包した構造を持つ機体を操るのは造作も無いこと然りですよ」
何とか反応できたメアリーが心変わりをして頂こうと具申するも、けんもほろろに断られた。然し、近衛騎士団はそうも行かない。
「へ、陛下、お待ちを……」
「仕方ありませんね。此れは勅令です。首都トルレイス上空1500m迄は飛翔板での警護を認めます。其れ以上は許しません……というか病人が出ますよ。宜しいですね」
「御意に」
「タリス皇帝陛下、上着を」
「大丈夫ですよ。高高度には上りません。其れに温度調整も得意ですよ」
其の日、首都トルレイス東に在る漁村にて、海側から聴こえてくる謎の爆音と体を揺さぶる振動に龍の咆哮だと大騒ぎに為ったとか何とか。
まあ、詰まりタリス皇帝陛下とアリア殿下が乗る飛翔機は、トルレイスの東へと向かい海上に出てから高速飛翔の実験を行ったのだ。
二人は共に【大気】の御業を持つ。空の風を読み其れに乗って限界速度を越えることは楽に行えるし、空気循環機を使わずとも大気の成分を直接感じ変更が可能であった。
「お母様、今日は随分と強引な手段を使われたのですね。宮殿も宮城も多分、大騒ぎですわ」
「たまには此れくらいしてでも外に出ていかないと息が詰まるのよー。其れに此間は此の飛翔機とやらを見る機会がなかったからねー。チェロルちゃんは素晴らしいもの作ってくれたよね。こんな凄いもの作って貰ったんだから、其れに影を射す事柄が在れば直ぐに調べてあげたいんだよー。建前としてはね」
「本音は?」
「其処に未知の領域が在るんだよー。現象が存在するんだよー。此の目で確かめてみたいじゃない!」
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「メアリーさん御業のことを訊くのは不謹慎ですが、タリス皇帝陛下は【瞬間転移】を御使いに為られてルトアニア迄来られたのですよね。子供の頃に散々瞬間転移は長距離転移をしてはいけない身体の御業より危険だと教え込まれたのですが……」
「ええ、其れで正しいですよ。リーシャ様。【瞬間転移】の御業を授かる確率は非常に低く此の大陸に十数名しかいらっしゃらないと云われています。大昔に遠くに転移しようとして上空や地下に移動して多くの方が亡くなったと伝えられています。リーシャンハイスでも有名かと思いますがタリス皇帝陛下は【飛翔】の後天御業を御持ちでいらっしゃいます」
「確か幼少の頃はリーシャンハイスの空を飛び回っていたとか聞き及んでおります」
「【飛翔】を獲得するまで【瞬間転移】で空に上がり他の御業で飛び続けたらしいのです」
「はあ」
「【瞬間転移】で見えない所に移るのは危険ですが、翔べるタリス皇帝陛下なら遠くに見える空へ移るので安全です。後は其れを繰り返せば直ぐルトアニアに着きます」
「【瞬間転送】とは仕様が違うんですね」
「ええ、【瞬間転送】は送り先の人物やものを想像して深く心に刻んでから送りますが【瞬間転移】は方角を指定して転移すると云われております」
此の会話に何故ティロットやベイミィ、チェロルが居ないのかって? ティロットはアリア殿下の近衛騎士団が行っている訓練を満面の笑みで見学させて貰っているし、チェロルはベイミィを盾にしながら飛翔機に関わる技術者たちに囲まれて説明を行っている。
「と、という訳で、此の飛翔機は離陸時に先ず両翼の推進機関を垂直に展開してから稼働する事で、機体前方を浮揚させ……」
「彼の、実際に離陸して貰っても宜しいでしょうか」
「ヒッ!」
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修正記録 2017-04-09 06:57
チェロル様の二方 → チェロル様、二方
理解できずいる為か、 → 理解できずにいる為か、
幾つかのルビ追加とルビ範囲の調整
息が詰まるよー。 → 息が詰まるのよー。
所に飛ぶのは危険ですが、遠くに見える空に飛べ安全 → 所に移るのは危険ですが、翔べるタリス皇帝陛下なら遠くに見える空へ移るので安全




