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アリアは知らない  作者: taru
一章
6/345

05空間収納

 此処(ここ)はロクスサス渓谷で行われた()の戦争後地、()の下に()の魔窟は()った。

 通りで死した兵の成れの果てが多い(はず)だ。

 人は()れなりに多くの気を体へと蓄えて()る。

 大量に死人が出れば魔気も(よど)む。

 希少な御業(みわざ)(いえど)も【空間収納】持ちを戦争に活用すれば、兵站(へいたん)の負担も少なくて済む。


 アリアは色色と腑に落ちた。

 そして、(いま)だにエミリアたちの(よう)な、【剣技】の後天御業(みわざ)を持つ骨兵に出会(でくわ)して無い事に気が付いた。

 不自然である。

 皆が皆、騎士級の技を持つとは()わ無いが、軍で()れば兵を指揮するものや騎馬隊、特殊部隊的なものたちも存在する(はず)だ。

 では何処(どこ)に……幾ら考えても答えは出ない。

 (ただ)、【剣技】を(もっ)て斬られては、流石(さすが)に幽体と(いえど)も無事で済むとは思えなかった。


 アリアは【空間収納】が込められる御業(みわざ)の欠片を発見した場所、貴金属の付属した上等な服を目印にして【残留思念】の御業(みわざ)を使った。

 実は今迄(いままで)も崩落現場や岐路などで【残留思念】を使って()たのだ。

 読み取る方も勿論(もちろん)だが、今回は残す方で()った。

 【残留思念】の御業(みわざ)()の場に残された思念を読み取ること以外にも、残す事で()の場に訪れたものたちへ思念を伝えられる。

 慣れれば特定の相手にのみ限定して思念を残す事もできるのだが、今はエミリアたちに伝わればそれで良い。

 残す内容は何方(どちら)へ向かうとだけ、崩落現場でも岐路でも内容は同じで()った。


 アリアは自分の現状を伝える事が怖かった。

 事実を知った時、エミリアたちの落胆を想像するのは嫌だった。

 ()う、エミリアたちに()う事が、アリアは怖かったのかも知れない。

 ()いたい、だけれど自分が既に死した事を伝えるのが怖かった。

 だからこそ薄薄、此方(こちら)の方へはエミリアたちが来て()ないと考え(なが)らも、()の進路を変える事は無かった。

 確かに通常で()れば騎士たちは、御業(みわざ)対策として移動時に思念を残さないよう心掛ける。

 ()れは作戦の漏洩対策でも()るけれど、(なに)より【残留思念】の御業(みわざ)が取得率7%と所持者が多い(ため)なのである。

 だが、アリアを探して()るので()れば、()えて思念を消す必要は無いのではなかろうか。

 実際は既に遺体を見付けたが故に、アリアを探して()る事実は無いのかも知れない。

 全ては推測の域を出ないのだけれど、アリアの気持ちとしてはエミリアたちが此方(こちら)に向かって()る可能性も否定できない事、皆に出会わないなら()の方が隠した恐怖に向き会わないで済む事、が()此方(こちら)へ進む決断を優先したのだろう。



 アリアは自分なりに、()の場所や魔落と()った骨兵たちに()いて認識し整理を付けた上で、()だ本当に危険なものたちに遭遇して()ない事も理解した。

 現状、最も手っ取り早く有効な自衛力を身に付ける手段が()る。


(さて)お待ち兼ねの()れ、御業(みわざ)の欠片ですわ』


 浮いて()た3つ()御業(みわざ)の欠片から、1つだけを選び出して目の前へと移動させるが、はてさて、如何(どう)すれば自分の力として授かるのか分からない。

 歯で(かじ)ろうにも物質的な身体(しんたい)は無いし、お腹を壊すといけない。

 気を通すにしても現状では既に自身から勝手に漏れ出し覆って()る気の内側に()るのだし、岩や石に対して親和性も少ないからか、気を通そうとしても(はじ)かれる。

 (さて)、困ったと浮かない面持ちをしつつ、御業(みわざ)の欠片に指で触れて()仕種(しぐさ)をすると、(なん)とはなしに淡い抵抗の(よう)なものを感じるのだ。

 ()れを受け入れると()うか、取り入れる心持ちで(すく)い取って()ると御業(みわざ)の欠片はすうっと消えて仕舞(しま)った。


『ふむ』


 御業(みわざ)の欠片に宿る力を取り込めたのかは(わか)らないけれど、取り()えず【空間収納】の御業(みわざ)を意識して()ることにした。

 すると頭に(なん)だか沢山の品物や荷物が、次次と思い浮かべられて()く。


『骨兵の方が所持して()りました品品ですのかしら?』


 ()ずは中のものを一つ取り出して()ようと、()う思う意志を固めて()く。

 アリアの想像では手を(かざ)すと、しゅぱっと出たり任意の場所へどかっと置かれたりする感じである。

 まあ、要するに侍女メアリーの持つ【瞬間転送】に若干尾鰭(おひれ)を付けた感じである。

 そんな期待の眼差しの中、目の前には毛色が違うと()うか、切り取られた別風景と()えば良いのか不思議な入り口らしきものが現れて、()の奥には色色なものがぷかぷかと浮いて()る。

 そして、()の中の一つアリアが無作為に選んだものが、ぬるっと目の前に出て()たのだ。

 ()れを見て最初は少し残念そうな面持ちで、しゅんとするアリアで()ったが……。


()れは()れで面白いかも知れませんわ』


 ()う思い直した理由を確かめるべく、入り口を少し大きくする意志を向ければぐぐっと(ひろ)がった。

 アリアは、ふよふよと()の入り口へ透明に輝く身体(からだ)を入れて見たのである。


『うん、入れますわ。入り口を狭めて(のぞ)き穴だけ残せば完璧では()りませんか! ()れで聖光も目立たなくて済みますわ』


 アリアは無駄に光って自身が誘蛾灯(ゆうがとう)()って()る事に対し、余り気分的に(よろ)しく思って()なかったのだ。


『後は……、動くのかしら?』


 入り口の移動を意識するとすうっと移動する。

 ()れに合わせてアリア自身も、ふよふよと移動が必要なのかと思ったが要らないらしい。

 早速、残り2つの御業(みわざ)の欠片と骨兵の残した剣を予備に3振り収納して、アリアはすっかりご満悦なのである。


 アリアは更に洞窟の先へと進み入る(つい)でに、エミリアの光幻に合わせて発声気管を構築し声の練習を始める。

 ()だ人の声としては微妙である。

 実に怪しい……と()うか、不気味な声を発し(なが)ら歩く姿は少し気に入らなかったらしく、アリアは発声練習を歌声練習に変更する事にした。

 何方(どちら)も変わらない気はする。


「ラァ”~♪」


 (また)もや骨兵である。

 一度に現れる数が大分(だいぶ)増えて()た気がする。

 決してアリアが作り出す、怪しい歌声が原因では無い……(はず)

 (あれ)ら骨兵たちも多分色色な先天御業(みわざ)を持って()るので()ろうが、骨と()った時点で【健康】【強筋】【病気耐性】など数多くの御業(みわざ)が無意味と化して()る。

 アリアですら2つの御業(みわざ)が無効化されて()るのだから、平民の兵で()れば致命的で()ろう。

 そして、骨兵たちが言霊属性の御業(みわざ)を使っても、アリアと同じく言霊の強化が使えないから然程(さほど)の脅威とは()らない(どころ)か、近付けばアリアが(もたら)す【大気】の支配は常に周囲に充満(みちみち)()(ため)、発現できても骨兵自身の周囲に()る僅かな空間のみで()ろう。

 だから特に(なに)かが起きる事も無く、骨兵たちは数()れど速やかに斬り捨てられて()く。

 ()れよりもアリアは骨兵と戦う光幻が見せる、()の華麗な足捌(あしさば)きや決め姿勢に合わせて必死に歌声を調整して()()れしか頭に無い。

 素晴らしい【剣舞】には()れに伴った歌が()ってこその歌劇です、と(ばか)りに無我夢中なのである。

 目的との乖離(かいり)(はなは)だしい限りだ。


---


()れよ()れ完璧よ。素晴らしいですわ』


 どうやら完成したらしい。

 歌に合わせて右へ左へと踊っても見せて()れる。

 (いや)勿論(もちろん)アリアが自分で操作して()るのだが、目がきらきらとして恍惚(こうこつ)の表情である。

 聖光とは別の意味で……。


『ですけれど……、()れでは言霊が使えませんわね。歌を()めさせる訳にも()きませんし』


 意味不明である。


『そうですわ。もう一人追加しても()けない訳では無いですし、()(まま)ですと下手にエミリアたちに見られたら攻撃して()る可能性も()りますわね』


 淡い光が輪郭を形成し始める。

 醸し出された姿はアリア自身で()った。

 歌い(なが)ら歩くエミリアの後をとてとてと付いて()く姿を見つつ、アリアはうんうんと満足気に(うなず)くので()った。


---

【健康】:病気に強く、怪我が治りやすい。最も所持者が多い。  取得率10.5%

【病気耐性】:ウィルス、中毒系、多少栄養不足でもへっちゃら。  取得率7%

【強肩】:肩全体の強度、筋力が高い。一部強化な(ため)に使い勝手が悪く、全力を出すと周囲の身体(しんたい)損傷に(つな)がる。 取得率2.8%

【強筋】:全身の筋繊維強化。これも無茶すると骨折に(つな)がる。  取得率0.3%

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---

修正記録 2018-01-13 10:54


随分と → 大分(だいぶ)

※次話の冒頭と被っていました。


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修正記録 2018-01-13 01:44


幾つかの平仮名を漢字に変更


ロクサス渓谷 → ロクスサス渓谷


()の」追加


幾つかの表外漢字や読み、通常平仮名とする漢字にルビを追加


「成れの果て」追加


とはいえ → と(いえど)


持ちが居れば → 持ちを戦争に活用すれば


「幾ら」追加


持って → (もっ)


言えども → (いえど)


「済む」追加


幾つかの漢字を平仮名に変更


意外 → 以外


幾つかの補足を追記


可能性もある事 → 可能性も否定できない事


此方に来て → 此方(こちら)に向かって


を優先した。 → 、が()此方(こちら)へ進む決断を優先したのだろう。


気持ち → 心持ち


試みる事にした。 → ()う思う意志を固めて()く。


色が違う → 毛色が違う


これはこれで面白いかもしれない。 → 『()れは()れで面白いかも知れませんわ』


大きくする意識を持てば変化する。

大きくする意志を向ければぐぐっと(ひろ)がった。


前進ついでに → 更に洞窟の先へと進み入る(つい)でに


だいぶ → 随分


アリアの大気の支配は常に制圧状態を保っている為

アリアが(もたら)す【大気】の支配は常に周囲に充満(みちみち)()(ため)


必死である → 無我夢中なのである。


恍惚(こうこつ)の顔 → 恍惚(こうこつ)の表情


使い勝手が悪いがアリアは【強骨】を持つ

使い勝手が悪く、全力を出すと周囲の身体(しんたい)損傷に(つな)がる


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修正記録 2017-02-21 08:30



幾つかの改行追加


ルビ追加


『後は……、動くのかしら』 → 『後は……、動くのかしら?』


予備にと骨兵の剣を → 骨兵の剣を予備に


「どちらも変わらない気はする。」追加


「ラァ”~♪」追加


「決してアリアが作り出す怪しい歌声が原因ではない……はず。」追加


彼らもたぶん → 彼ら骨兵たちもたぶん


取得率0.03% → 取得率0.3%

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