33大切
今日の一つ目の講義は礼儀作法である。領によって微妙に相違が在る為、覚える内容は多い。文官派閥の顔ともいうべきレイティア侯爵令嬢やエリザ伯爵令嬢は既に【礼儀】の御業を獲得しているという。
リーシャたちにはどれだけ努力すれば【礼儀】の御業の域まで達せられるのか、想像もつかない未知の領域であろうか。いやベイミィは日頃からお嬢様状態への切り替えを行っている為か、仕草に気品が出てきている気がする。
「リーシャ様、聖光を漏らすのと気品は違いますよ。チェロル様、其の足捌きは優雅というより忍び足ですよ」
礼儀作法では所作を重んじ、お茶の飲み方や落とした物を拾う作法まで言及する一方、美的感覚というか最低限の常識的美意識も必要とする。
「剣山は少ない方が宜しいですよ、一つで重心を取れる形が美しいのです。ティロット様、剣山は武器ではありませんから、逆手に持って構えないで下さいませ」
花を実際に生ける事で配分する技量と難しさを知り、部屋に飾られている生け花がどれだけの技量で以て其処に在るか知るのが礼儀なのだそうだ。面倒くさい話である。
次の講義は選択授業になる為、派閥仲間とは此処で別れる。文官派閥の家系で騎士を目指すというのはやはり珍しいようである。
リーシャとしては飛翔板を交えた武技の動きを確認したい処だが、未だ御業に至っていない武技の基礎を丹念に繰り返す。というか飛翔板の飛行技術も一応は秘匿事項に抵触しそうだから、合同訓練の場では控えたほうが良いのかもしれない。
長刀を右に構え相手を心象する。ルグス殿下だと格好を気にし過ぎて陽動に弱いから、自身が実直な剣技を振るう心象が思い浮かばない。やはり基本に立ち返った心象をするならティロットが良い。
リーシャはゆっくりティロットとの型打ち合いを思い出す。適度に張り詰めた覇気が体を満たしており、重みのある構えに御業を持つものの風格が漂う。美化し過ぎであろう……。
左肩から切り込む為の一撃を振るうと、柄を狙いすました剣閃が瞬時に通り過ぎ、長刀は撃ち落とされると同時に刃先が落ち転がる。うん、やけに細かい再現だな、というか大事な長刀が切られた心象に悲しんで涙目に為ってるし……。
頭を振って心を落ち着かせ何度も素振りを行う。足運びは問題ないか、姿勢は崩れていないか、自分に最適な重心配分は之で良いのか、気付けばベイミィに「お昼にしましょう」と呼ばれていた。
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リーシャは武技に付いてリーファ教導官やマギーに助言を求めたが、共に「教え補正する段階は終わっており、自分で答えに至るしか無い、下手に教えても妨げにしか為らない」という様な見解であった。
午後からも只管にそして注意深く長刀を振り続けている。唯振るっている訳ではない。色々な自分なりの理論を試してみる。筋を傷めないように骨には負担が掛かっても構わない。最大の効果は出しても重心は常に安定するように体を動かす。
『そろそろ終わりの時刻ですね。もう一度心象を試してみますか、今度こそたお「今ゾクっときた!」……止めておきます』
「リーシャ様、自主訓練用の演習場へ移動しましょう」
「ふう、明日も同じように続けるだけです」
リーシャは鼻息荒く自分に言い聞かせるように言い放ち、長刀を鞘にしまう。4人とマギーは一旦寮に戻り飛翔板を抱えて演習場へ向かう。勿論、リーシャの飛翔板はマギーが抱えている。
演習場には既にアリア殿下御一行様が御座しまして、何やら普段よりも些か人数が多い御様子。どうやら妹君のテリシア殿下がおいで遊ばすようだ。挨拶をして邪魔をするわけにもいかないので、礼を執るだけに留め其の場を離れた。
幾つかの板の張りぼて目標を立てて、飛翔板から斬り下ろす訓練である。皆は、ではなく3人は新品の親から貰った大事な剣を、痛める事なく御業を使って斬り下ろす。
リーシャは既に涙目だった。だが此処で止める訳にいかない。風を読み進路を考え30度の角度で降下する。張りぼての5m横斜め前から体を侵入角度に寝かし、飛翔板で曲線を描きつつ長刀を添えるように丁寧に撫で下ろす。
刃の先まで気の行き届いた太刀筋は薄らと光を纏、張りぼてを見事な真っ二つに斬り離した。
皆の所迄戻ってきたリーシャは、素早く飛翔板から降りて長刀の刃先を確認する。傷一つ無い刃先を見てホッと一息ついていると。
「おめでとう御座います、リーシャ様」
「【武技】の御業だね! やったー、おめでとう」
「リーシャ様おめでとうなの! 真っ二つだよ!」
「えっ?」
「いえ、先程の長刀の一振りは体全体が薄らと輝いていましたわよ」
「皆ありがとうね。そ、そうなの? 長刀が心配でしたし飛翔進路も確認してましたから、其処まで思慮が及びませんでした。わ、忘れないようにしないと、大事に丁寧に長刀への愛が大切!」
「何か少し違う気がするよ!」




