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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
52/345

33大切

 今日の一つ目の講義は礼儀作法である。領によって微妙に相違が()(ため)、覚える内容は多い。文官派閥の顔ともいうべきレイティア侯爵令嬢やエリザ伯爵令嬢は既に【礼儀】の御業を獲得しているという。

 リーシャたちにはどれだけ努力すれば【礼儀】の御業の域まで達せられるのか、想像もつかない未知の領域であろうか。いやベイミィは日頃からお嬢様状態への切り替えを行っている(ため)か、仕草に気品が出てきている気がする。


「リーシャ様、聖光を漏らすのと気品は違いますよ。チェロル様、()足捌(あしさば)きは優雅(ゆうが)というより忍び足ですよ」


 礼儀作法では所作(しょさ)(おも)んじ、お茶の飲み方や落とした物を拾う作法まで言及(げんきゅう)する一方、美的感覚というか最低限の常識的美意識も必要とする。


剣山(けんざん)は少ない方が(よろ)しいですよ、一つで重心を取れる形が美しいのです。ティロット様、剣山(けんざん)は武器ではありませんから、逆手に持って構えないで下さいませ」


 花を実際に生ける事で配分する技量と難しさを知り、部屋に飾られている生け花がどれだけの技量で(もっ)其処(そこ)()るか知るのが礼儀なのだそうだ。面倒(めんどう)くさい話である。

 次の講義は選択授業になる(ため)、派閥仲間とは此処(ここ)で別れる。文官派閥の家系で騎士を目指すというのはやはり珍しいようである。


 リーシャとしては飛翔板を(まじ)えた武技の動きを確認したい(ところ)だが、(いま)だ御業に(いた)っていない武技の基礎を丹念に繰り返す。というか飛翔板の飛行技術も一応は秘匿事項に抵触しそうだから、合同訓練の場では控えたほうが良いのかもしれない。

 長刀を右に構え相手を心象(しんしょう)する。ルグス殿下だと格好を気にし過ぎて陽動に弱いから、自身が実直な剣技を振るう心象(しんしょう)が思い浮かばない。やはり基本に立ち返った心象(しんしょう)をするならティロットが良い。

 リーシャはゆっくりティロットとの型打ち合いを思い出す。適度に張り詰めた覇気(はき)が体を満たしており、重みのある構えに御業を持つものの風格が漂う。美化し過ぎであろう……。

 左肩から切り込む(ため)の一撃を振るうと、(つか)を狙いすました剣閃(けんせん)が瞬時に通り過ぎ、長刀は撃ち落とされると同時に刃先が落ち転がる。うん、やけに細かい再現だな、というか大事な長刀が切られた心象に悲しんで涙目に()ってるし……。

 頭を振って心を落ち着かせ何度も素振りを行う。足運びは問題ないか、姿勢は崩れていないか、自分に最適な重心配分は(これ)で良いのか、気付けばベイミィに「お昼にしましょう」と呼ばれていた。


---


 リーシャは武技に付いてリーファ教導官やマギーに助言を求めたが、共に「教え補正する段階は終わっており、自分で答えに至るしか無い、下手に教えても妨げにしか()らない」という様な見解であった。

 午後からも只管(ひたすら)にそして注意深く長刀を振り続けている。(ただ)振るっている(わけ)ではない。色々な自分なりの理論を試してみる。筋を傷めないように骨には負担が掛かっても構わない。最大の効果は出しても重心は常に安定するように体を動かす。


『そろそろ終わりの時刻ですね。もう一度心象を試してみますか、今度こそたお「今ゾクっときた!」……止めておきます』

「リーシャ様、自主訓練用の演習場へ移動しましょう」

「ふう、明日も同じように続けるだけです」


 リーシャは鼻息荒く自分に言い聞かせるように言い放ち、長刀を鞘にしまう。4人とマギーは一旦寮に戻り飛翔板を抱えて演習場へ向かう。勿論、リーシャの飛翔板はマギーが抱えている。

 演習場には既にアリア殿下御一行様が御座(おは)しまして、何やら普段よりも(いささ)か人数が多い御様子。どうやら妹君のテリシア殿下がおいで遊ばすようだ。挨拶をして邪魔(じゃま)をするわけにもいかないので、礼を()るだけに留め()の場を離れた。


 幾つかの板の張りぼて目標を立てて、飛翔板から()り下ろす訓練である。(みな)は、ではなく3人は新品の親から貰った大事な剣を、痛める事なく御業を使って()り下ろす。

 リーシャは既に涙目だった。だが此処(ここ)()める訳にいかない。風を読み進路を考え30度の角度で降下する。張りぼての5m横斜め前から体を侵入角度に寝かし、飛翔板で曲線を描きつつ長刀を添えるように丁寧に()で下ろす。

 刃の先まで気の行き届いた太刀筋(たちすじ)(うっす)らと光を(まとい)、張りぼてを見事な真っ二つに()り離した。

 (みな)所迄(ところまで)戻ってきたリーシャは、素早く飛翔板から降りて長刀の刃先を確認する。傷一つ無い刃先を見てホッと一息ついていると。


「おめでとう御座います、リーシャ様」

「【武技】の御業だね! やったー、おめでとう」

「リーシャ様おめでとうなの! 真っ二つだよ!」

「えっ?」

「いえ、先程の長刀の一振りは体全体が(うっす)らと輝いていましたわよ」

(みんな)ありがとうね。そ、そうなの? 長刀が心配でしたし飛翔進路も確認してましたから、其処(そこ)まで思慮(しりょ)が及びませんでした。わ、忘れないようにしないと、大事に丁寧に長刀への愛が大切!」

「何か少し違う気がするよ!」

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