31まだ終わりじゃない
朝の散歩をしてきたベイミィ曰く、寮棟の多目的大広間は集いた女学徒たちで騒然と為っているらしい。というか何処から情報が持ち込まれたか気になる処だが、派閥内で耳にしないということは御業なのだろう。
「彼女たちの見解では、バルクス方面に出没するようになった死兵の対処に、まだ当面は第三騎士団の派遣を続ける必要があるとか謂う話だわ。物騒な話だけど之に乗じてハルス領に不穏な動きが在るんだって、タリス皇帝陛下の即位は、此処数年で台頭してきたルトアニア領の経済・技術力で、更に活性化をって期待する事よりも、個人の武力を当てにしてるって意見が多いみたいだわ。あの御方なら近衛騎士団だけで領一つ潰しても不思議でないとか何とか」
「ベイミィ話に夢中で食事が疎かに為っているよ! うぷ」
「アイラさんに口を拭かれているチェロルには言われたくなかったわね。あら! 此れ美味しいわ」
「昨日、離宮でメルペイクを預かって貰っていた侍女様方から頂きました焼き菓子ですね。満面の笑みでお礼を言われましたですが、よく解りませんけど役に立てたのなら何よりですね」
「ああ、其れと今日も学園の方は休みだそうですわ」
「取り敢えずは編隊飛行の訓練だけは済ましておきたいよ!」
「昨日の事でしたら即興にしては良くできた方じゃないかしら?」
「【遠話】の御業で支援頂いた事が大きいね。まあ朝はティロットの言う通り飛翔訓練からかな」
朝食を済ましたリーシャたちは講義も無いと云う事なので演習場に来ていた。先ずは準備運動と許りに皆で体を動かしていると、アリア殿下と何時ものルトアニア令嬢たち、そしてリーファ教導官と数名の騎士らしき方々を伴ってやってきた。
「ごきげんよう皆様」
「お早う御座います。アリア殿下」×4
「やはり此方にいらっしゃったのですわね。丁度良かったですわ。実は宮殿の近衛騎士たちから順に新式飛翔板の技術と飛翔術を習得しなさい、と謂う指示があった様で、此れから講習会を行おうとしていましたの。宜しければ手伝って貰えますか?」
「喜んで、お任せあれ!」
「はい! 承ります」×3
4人は何となく勅令だと察したのだろう。空気の読める子たちだ。
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「では3人は【岩】の御業をお持ちで?」
「ええ、訊く処に依ると粒系因子に由る飛翔がどの御業まで可能か確認するらしく精密磁器型六角多孔の飛翔板が大量に要るらしいのですわ」
「其のような名称が付いたんですね……リーファ教導官は?」
「件の指示が在った場にいらっしてたようで参加したいと付いてきたみたいですわ」
「私は【水】を使う。リーシャが飛翔板を作ってくれたら後はチェロルに習うさ」
「ひっ!」
「……ティロット悪いけど一緒に行ってあげて」
「了解!」
何はともあれ少し予定外の講習会を行ったものの最終的には、ある程度飛べるようになったリーファ教導官の許、エミリア様まで加えられ編隊飛行の訓練が行われた。
『リーシャ様、1mほど北西に……そこです』
『チェロル様、少し遅れています。はい、その速度を維持して下さい』
『ラクス様、次はエミリア様の編隊に合流だそうです。二十数えたら開始して下さい』
『リーファ教導官、連絡指示終わりました。』
マギーも訓練に駆り出されていた。鉄の飛翔機に乗りメルペイク型安全装置を着用して【念話】【遠見】を駆使して編成を手伝っている。
メルペイクが居れば飛翔の素質が無くても、容易に飛ぶ事ができる。飛び立ちの手順さえ確立できれば、メルペイク無しでも飛べるだろう。
マギーを飛ばし手伝わせたのは、其の確認の為だったのかもしれない。資質が丁度良く揃っている人材など運でしか無い。単独飛翔の資質が無い人材でも飛翔部隊の編成に加える事ができる意味はとても大きいのである。
『了解した、マギー殿。うん美しいな此程のものであれば見世物と称して威容を示せる。皆に伝えてくれ、明日はタリス皇帝陛下の即位を祝って帝都上空で此の編隊飛行を行う。では早速アリス殿下に進言してこよう』
本来は騎士団の精鋭が行う催しだろうが、残念ながら此の飛翔板で此処まで熟練して飛べるのは一部のみ、況してや編成飛行などは訓練していない。自ずと今訓練に加わっている一部の騎士とリーシャたち学徒だけが可能な話となってしまう。
『ん? 1人足りない……チェロルにまだ終わってないから【水】の粒系因子で光の屈折率を変えて消えちゃダメだと伝えてくれ。と言うかあれは良いな私も教えてもらうか……無駄に、いや、多才なやつだな』
マギーがそれ言い直せてないと思ったかは定かでない。




