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アリアは知らない  作者: taru
一章
5/345

04御業の欠片

 アリアの旅の友、……元い、エミリアに似た光の影は、アリア自身の御業(みわざ)()るらしい。

 一応、アリアの意志に従って半自動で操作できるし、状況に応じて勝手に剣技も(ふる)って()れる。

 (むだ)に華麗な回転や腰の振りを見せるが、背中に飾りを背負って()いだけ増しだろう。

 取り()えず、エミリアに似た(なに)かと()う表現は如何(いかん)ともし(がた)(ところ)だが、御業(みわざ)としては新種に当たるらしく、()れを()い表す的確な名前も存在しない。

 だからかは知らないが、アリアは御業(みわざ)の名前を光幻(こうげん)と命名したのである。


 (さて)()の光幻ことエミリア似の光影は、洞窟の奥からわらわらと出て()る骨兵に対して敵無しだった。

 剣術とかは関係無く剣を振ると鎧や剣ごとすっぱり、骨兵たちを斬り落として仕舞(しま)うのだ。

 ()(ため)なのだろう、アリアは骨兵の弱点らしきものがさっぱり(わか)らなかった。

 念には念をと()う意味でも、骨兵の弱点はアリアの安全を確保する上で欠かせない情報なのだけれど、エミリアが余りにも強過ぎるのだから仕方が無い。

 次に強敵が……強過ぎても困るのだけれど、ともかく粘り強い骨兵が現れた時に検証するしか無いのだろう。


 アリアは道中、次次と斬り捨てられる骨兵たちの遺留品を、ふよふよと漂い(なが)ら確認して()く。

 ()しかしたら、御業(みわざ)の欠片とやらが見付かるかも知れないからだ。

 そして、()のくらい()ったのだろうか、倒した骨兵たちは十数体目でもう数える事すら()めて()た。

 アリアがふと漂うのを()め見詰める視線の先には、黄色い硝子(がらす)(ある)いは黄玉の(よう)にも見える。そんな一見宝石とも見て取れるものが落ちて()たのである。


()れが御業(みわざ)の欠片なのかしら?』


 ()う【念話】で(つぶや)きつつ、最初は不審げなものとして遠巻きに(のぞ)き込んで()たのだが、アリアは思い切って()の欠片と(おぼ)しき硝子(がらす)玉をゆっくり(ちゅう)へと掲げた。


『むうう』


 (なに)かへ集中する(よう)(うな)り声……を出す気分で【念話】発し(なが)ら、下から覗き込む。

 ()れは天井に光源が()る訳では無いけれど、何処(どこ)ぞで鑑定士が()仕種(しぐさ)(ごと)く振る舞って()るらしい。

 多分、形や気分が大事なのだろう。

 だが、実際の(ところ)()れが御業(みわざ)の欠片なのか、(なに)かが秘められたものなのか、現状だと使い方も実物の姿形も(なに)一つ(わか)って()ないのだ。

 アリアが(いく)ら鑑定士に()り切って()ても、そんなもの(わか)(はず)は無いのだから仕方が無い。

 (ただ)、怪しいもので()るのも確かなので、置いて()く訳にもいかず浮かした(まま)()れを維持して先へ進む事にした。



 アリアは光幻と命名したエミリアに似た光の影を、当初の目的より(はる)かに頼もしい御業(みわざ)の力として手に入れる事ができた。

 だからと()って、更なる力を模索しない訳がない。

 骨兵を倒し洞窟を進み()く間も、アリアは思考する。

 最早(もはや)、光幻は半自動すら越えて勝手に動き回って()るのだから、(ただ)の退屈(しの)ぎではなどと勘繰ってはいけないのである。


 御業(みわざ)は前提として、人の体に直接作用しない。

 【治癒】等の例外は()るものの、大抵は()れに該当(がいとう)する。

 そして、御業(みわざ)を行使しようとした場合、()の目的の場所へと気が集まり始めるのだ。

 目に見えなくても人人は日常的に気を感じる事はできる(ため)、気の動きを(もっ)て発現する事の予測をし御業(みわざ)の対処が可能と()る。


 アリアが持つ言霊属性の御業(みわざ)は、【熱】【大気】【聖】【砂】の4つ。

 ()の中で一番戦闘向きなのは【大気】で()った。

 言霊属性の御業(みわざ)は支配力が距離に比例し、遠過ぎると御業(みわざ)は発現すらしないのが一般的だ。

 気の消費は質量系の御業(みわざ)が隔絶に高い。

 逆に()えば軽い気体の操作や生ずる【大気】の御業(みわざ)は、常に支配を維持して(つな)(とど)めるくらい大した消費にも()らない。

 母タリスに教えられた【大気】の使い方は、木目(きめ)細かく万遍なく自分の周辺に()る大気の掌握を行うことで自身の気を周りへ満たし尽くし、他人の御業(みわざ)を発現する(ため)に必要な気の入り込む隙間を無くすものである。

 (あまつさ)え、()の支配域へ入り込んだ御業(みわざ)の遠隔制御をも断ち切る技で()った。

 まあ、()まり()れが原因で、側付きの護衛は【剣技】の後天御業(みわざ)を最も極めたものが優先された訳だ。

 ()れはともかく、【大気】は敵周辺の空気を希薄にして()くだけで言霊が無くても確実に勝てた。

 だが、骨には【熱】も【大気】も、(つい)でに【砂】も効き(にく)そうで()った。

 【聖】が無ければ負けない(まで)も、実に骨が折れそうである。



矢張(やは)り一番口惜しいのは、言霊の強力な補助が使えない事ですわね』


 身体(からだ)()れば、大きく息を吐く(よう)にして出た言葉だろう。


『声……音、確か歌劇団の音響を担当していらっしゃった方が、希少な【音】の御業(みわざ)持ちだという事でしたのよね。()れをアルトニアの御業(みわざ)研究所が聞き付けて実験に協力して(もら)ったとか(なん)とか。確か、()(おり)に所員の数十名が病院送りと()る事故が発生しましたのですわ。ええ』


 声からの連想で、(やや)思考が脇道へ()れ始めて()るのだけれど、今アリアの中では思い出すことに高い優先度を置いて()るらしい。


()れ以来、今(まで)攻撃には向かないとされて()た【音】が、防御し(づら)い広範囲拡散型攻撃に使えると発覚したのですけれど、お母様は【大気】で()れば薄い無の層を形成するだけで遮断できますよー、と(おっしゃ)られて()りましたわ』


 と、こんな感じで思いを巡らしては横へ()れ勝ちなアリアで()ったが、ふと(なに)かを思い付いたのか真剣で寡黙に……(いや)、表面上は口数も(なに)も無いのだが……ともかく神妙な面持ちで(なに)かへ集中する様子を見せるのだ。


「ぼぉー、びゅー、ぶぅっふ」


 (しば)し静寂に包まれた洞窟へ、突然と変梃(へんてこ)な音が()こえ出す。

 どうやら【念動】の御業(みわざ)で管の形に念壁を思い描き、()の中へ大気を吹き込めば音が出せると考え付いたらしい。

 今は()れを試すべく、色色と調整をし始めて()た。

 (つい)でに()えば、【念動】の御業(みわざ)は対象物を直接動かす訳では無くて、物理的な(なに)かを作り出し接触させるものなのだと(わか)る。

 ()れは手の延長だったり(つつ)くだけの棒だったり、将又(はたまた)皿や器の(たぐ)いという感じで、用途に合わせ無意識で形を変えて()たのだと。


 音は出せた。

 次は何度か吹き試し(なが)らの調整で管の形状を変化させ、望む音声へと形作って()く。

 そんな、アリアは【治癒】の御業(みわざ)を持つが故に、それなりの治療術を習い始めて()た。

 (なに)しろ御業(みわざ)の特性上、自ら進んで治療が必要な場へ駆け付ける事も()るだろうし、状況に()っては応急処置を御業(みわざ)以外に頼って手分けした方が良い場合も多い。

 【治癒】でも死者は生き返らせられないし、傷が汚れて()れば洗うべきだし、骨が折れて()れば伸ばすべき、時には喉へ(なに)かを詰まらせて()るかも知れない。

 呼吸というか気管の確保や心臓の発動補助等、【治癒】の御業(みわざ)では及ばない事は意外と多いのだ。

 指導を受けた時に見知った気管や口の状態図を思い浮かべ(なが)ら、【念動】や【大気】の御業(みわざ)を使い幾度となく調整する。


「あーーーーー」


 声っぽいのが出た。

 気を良くしたアリアが彼此(あれこれ)と勘に任せて人の声へ近付けるよう調整を続けて()れば、音に()かれたのか骨兵がからからと()って()る。

 (また)、光幻の御業(みわざ)を使い対処しようと意識を傾ける。

 剣を紙の(ごと)容易(たやす)く斬り同じ(よう)に鎧へと食い込んだ時、ぴたりと骨で止まった。

 ()ぐ様、左腕の骨拳が光幻へ迫るが軽やかに且つ手を無駄に恰好(かっこう)()く上げ(なが)ら、すうっと()ける。

 (いや)、当たっても幻なのでは……。


『あら、【強骨】の御業(みわざ)ですわね。骨兵に【強骨】、()れ程有意義な使い方は始めて見ましたわ』


 アリアが感嘆して()るのは、彼女の持つ御業(みわざ)の残りが【強肩】、【強骨】で()ったからだ。

 取得率2.8%程の【強骨】だが、何故(なぜ)か兄カルロスや妹テリシアも先天御業(みわざ)として持って()る。

 だからこそ馴染み深く、そして普段からの無駄さを日々身に()みて感じずには居られない。()して今は……。


--


 長き戦いだった。

 とは()っても、アリアが近付けば()ぐに終わるのだが、()れは同じ【強骨】持ちとしての矜持(きょうじ)が許さなかったのだろう……多分。

 戦いの間に数体の骨兵が()って()たが、()れはアリア自身が始末した。

 そして、骨兵の鎧は(ほとん)ど切り刻まれて仕舞(しま)い、骨が丸見えで()った。

 恐らく、倫理規制の(たぐ)いには引っかからないだろうと思いたい。

 そんなあられもない姿をした骨兵の胸、()の中心辺りに黒い石の(よう)なものが浮いて()た。

 アリアは()れを狙うよう意識を傾ければ、エミリアの姿をした光幻は肋骨の三番目に()る隙間へ剣を合わせると、水平にして右斜めから黒い石を(つらぬ)いたのだ。

 がくんと骨兵は項垂(うなだ)れる(よう)にして崩れ、(ようや)く動かなく()ったのである。


 弱点を見付けた。

 ()の戦いに意味は()ったんだ。

 そんな面持ちで、アリアはうんうん満足気に(うなず)(なが)ら、骨兵の(そば)(まで)近寄ると黄色の硝子(がらす)玉……じゃ無くて、御業(みわざ)の欠片が落ちて()た。

 注意を払いつつ【念動】でゆっくりと浮き上げ自身を覆う気の防御圏の中(まで)入れて、じっくり見ようと近付いた瞬間、(なに)かに気付いたらしく眉根を寄せた。


『うん、()れは【強骨】を有した御業(みわざ)の欠片だよね。()る程、素養が()ると中身が(わか)る訳ですわね』


 ()()えばと先程倒した3体の骨兵、()の残骸が()る場所を見遣(みや)る。

 すると、1体だけ少し上等な衣服を身に着けて()たらしく、辺りに散らばったものには貴金属の飾りも()(よう)だ。


下賤(げせん)な事だけれど、金品目的じゃないのですわよ』


 そんな事を口走り……【念話】で無意識に断りを入れ(なが)ら、ふよふよと近付き【念動】で()れらを物色してずるりと持ち上げて()ると、先程と同じ黄色の硝子(がらす)玉が(ごと)御業(みわざ)の欠片がころりと転がったのである。


『おっ』


 アリアは(やや)御機嫌な面持ちで()れを宙に浮かせ確かめて()ると、突然険しい顔付きに豹変したのだ。


(なん)でこんな所に【空間収納】の希少御業(みわざ)を持つものが居たのよ!』


 【空間収納】は()の大陸全体でも十数人程しか()らず、()()れ国を挙げて積極的に囲って()御業(みわざ)持ちなのである。

 本来こんな所で見付かるものでは無い。

 アリアは道中の地理や予想できる経路を思い浮かべてか、ぶつぶつと(つぶや)く……(よう)にして【念話】を()らすのだ。


『ロクスサス渓谷……確か、7年前にバグルス王国軍が敗れた場所だったわよね』


---

 資料では、バグルス王国に【空間収納】の御業(みわざ)持ちが5人居たと記されている。この内、ラギストア帝国との国境紛争へ3人が従軍し、戦争へと発展した事で2人が戦死したと(のち)に作られた資料を(もっ)て推量できる。

 また、普通の生活に(おい)て人が死んでも御業(みわざ)の欠片を落とすことはない。魔窟の中で魔落が(まれ)に落とすと、記録や口伝を(もっ)てその存在が確認できるだけである。

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---

修正記録 2018-01-12 00:39


()れらを()い表す → ()れを()い表す


アリア思考する。 → アリアは思考する。


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修正記録 2018-01-11 22:30


幾つかの平仮名を漢字に変更


幾つかの漢字を平仮名に変更


表外漢字や平仮名で書くべき漢字はルビを追加


全体の表現を詳しく書き足し、場合によっては補足説明を追加


なるべく句点や台詞(せりふ)の括弧で改行するように変更


長い台詞を補足で分断


なんちゃら → (なに)

(関西弁なので修正)


感だより → 勘に任せて


幾つかの外来語を日本語に置き換え若しくは削除


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修正記録 2017-02-20 22:21



一部ルビ追加


数体倒した → 十数体倒した


「骨兵を倒し洞窟を進み行く間もアリア思考する。」追加


その場に気が固まり → 目的の場に気が集まり


「声……音、」の下りの文を改稿


取得率0.28%の【強骨】 → 取得率2.8%の【強骨】



宙に浮かせてみると【空間収納】である事がわかった。

『おっ』と少しご機嫌気味で宙に浮かせてみると【空間収納】である事が判明した。



他、微妙に幾つか語尾を修正

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