30褒章
「リーシャ・グラダード前へ」
緊張で目が眩む、足はしっかりと動くだろうか。リーシャは何時になく緊張していた。
発端は戴冠式が終わり皇族たちや神官、宮廷音楽家たちが次々と後にする中、リーシャたちはアリア殿下と暫く待機してから別の大広間へと移動してきた。
其処には宮廷貴族や他領の主だった面々が居り、最奥に在る玉座の間ではタリス皇帝陛下が鎮座され威厳を放っていた。
タリス新皇帝陛下の許、最初の勅は帝都の遷都であった。と言っても皇帝が拠点として住まう地がラギストアからルトアニアに変わってしまった為に、其れに繕う形での変更である。特に大きく変わるものは無い。
続いて呼ばれたのはトロスト・ラギストア殿下、ルドルド陛下の第一皇男子でありルグス殿下の父でもある。タリス皇帝陛下の勅令によりグランストア大公家を拝命してラギストア領の執政を任される事となった。
次々と勅が発令され新たな就任、法令が定められていく。之は全て前もって文官達に決められた事を述べているに過ぎないが、タリス皇帝陛下の宣いで初めて機能する威令である。
そして件の褒章の授与が始まったのである。リーシャは突然に名前を呼ばれ左右を見回すとアリア殿下が前へと促す。だが広間の注目が全てリーシャに注がれているから、愚かな振る舞いを見せてはアリア殿下に恥をかかすと、要らぬことを次々と考えてしまい固くなる。
勇気を振り絞って何とか一歩を踏み出しみれば後は体が勝手に動いてくれるから不思議なものだ。気付けばタリス皇帝陛下の御前に辿り着いていた。
「リーシャ・グラダード、此度は飛翔板の新たな技術を開発し帝国の発展に大きく寄与した事、紫綬褒章をもって此処に顕彰する」
「身に余る光栄、深く感謝を以て謹んでお受け致します」
大きく発展ってまだ公には何もしてない筈だよね。之は他領への牽制的な誇張公告ではないだろうか。一杯一杯の面持ちでリーシャは後ろに下がり礼を執ってからその場を離れた。
其後、幾つかの褒章が為され、此の催しも終わりかと思えば、何故かベイミィ、チェロルの演舞が執り行われることに成っていた。二人共呆然とアリア殿下を見つめているが、アリア殿下は微笑みながら、ウンウンと頷く許りであった。
残念ながらアリア殿下が仕込んだ【剣舞】の演舞が終わっても開放されなかった。其後、会場を移ししっかりと用意されていた飛翔板を駆り、編隊飛行の実演が催され場を大いに賑わせた。
彼女達は遣るならもう少し練習したかったと思っていた事は云うまでも無いだろう。
「ご苦労だったな、此れが飛翔板か……持たせて貰ってもよいかな」
「あ、リーファ教導官、ご挨拶が遅れてしまい……どうぞ」
「アリア殿下の護衛として来ているのだから挨拶は要らないよ。おおっ! 軽いな空気の抵抗を感じるとは持ってこそ伝わる驚きだな。ああ組成とか名に秘匿辞令が掛かっているから言わないでね」
「え、ええ先程、アリア殿下からも御達しが在りました。心して気をつけます」
「フフフッ時代が変わるな兵術も編成も作り直さねばならん。だが楽しそうだ、先ずはチェロルに水乗りを習うかな。そうそう昼前に飛翔機とやらを見に行ったのだが、あれは発展の余地が無数にあるぞ、アリア殿下が興じて各方面に手を回すのも無理はないて」
「各方面に……ああ、あの材料……」
「うん、言わないでね。まあ此方に伝わるぐらいの事は遣ったようだね。ああ集合が掛かっているね。お行きなさい」
「はい、では失礼します」
其の場を辞したリーシャは集合を掛けるエミリア親衛隊長のもとへ集まった。
「今日はご苦労様でした。後は帰るだけだが其の前に離宮へ寄って預けている荷物を回収する。宮殿上空を飛ぶ許可が下りているので此の儘飛翔して編隊飛行で向かう。ではリーシャ飛翔指示を」
「はい!」
其の場を飛び立ったリーシャたちはエミリア隊長の先導で再び編隊飛行を以て空から離宮へ戻り、預けていた長刀や儀礼剣、闘技服、其れからやけに綺麗になったメルペイクを回収し学園への帰路に就いた。
「チェロル、メルペイクはどうしたの?」
「侍女さんたちが責任持って預かりますってお風呂場で別れたの! 宮殿でも鳥さん飼ってるから慣れてるんだってさ」
「チュチュッチュバ」
「ん、囲まれてご飯貰ってたんだって」
「じゃあご飯は無しで良いね」
「チュバチュバ」
「其れと此れは別だって」
「いや意味分かんないよ!」




