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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
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29戴冠式

 (みな)が押し黙り場を沈黙が支配する。隣の息が聞こえるほどだ。


「我らはアリア殿下の親衛隊として戴冠式に列席する。安心しろ私も含めて本者も数名参列するし、()の事はタリス大公殿下からも御許可頂いている。それか儀式用の剣を配るが()れと貴女たちが着ている礼服はタリス大公殿下から下賜(かし)頂ける」


 皆が一斉に驚き歓喜するが必死に息を吸い込むだけに留めている。皆騎士に()(ため)研鑽(けんさん)を積んできているのだ。形だけであろうが嬉しいものは嬉しいと素直に喜んで何が悪い。


「ああ、リーシャの短剣は儀礼用に装飾されていたな、其方(そちら)を使うべきだな。そんな顔をするな、()れもお前のものだ! 取り上げたりしないから長刀と一緒に仕舞っておけ。()れより一刻(約2時間)後にアリア殿下御一行が御座(おわ)せになられる。我らは()の御警護奉(けいごたてまつ)(たま)ふと(おお)()かっている」


 何だか古い儀式用語が出てきたが「御座せ」が”いらっしゃる”、「奉り」が殿下への謙譲で「給う」が警護するものへの尊敬だから”警護なされよ”だろうか。うん、わからんから止めて欲しいね。


「だが、()の前に食事だ! 特別な祭事の料理だから滅多に口にできないぞ」


---


 宮中の廊下を繁々(しげしげ)と進む。長くそして複雑な作りになっている。 

 (そもそも)宮殿が離宮と繋がっている事自体が驚きである。離宮の意味があるのか問い(ただし)たい。え、料理はどうだったかって? 古い儀式に(のっと)ったもので珍しくて手が込んでいるが特別美味しいものではない。儀式の雰囲気は味わえるかな?

 何度目かの曲がり角を過ぎると漸く目的の大広間へと出た。


 大広間の中央には真っ青な絨毯の道が敷かれており、先頭のエミリア親衛隊長が儀式用の礼を執りながらアリア殿下を示す宝剣を掲げると、()(まま)青い絨毯に添って歩み出す。

 大広間は街にある聖堂の数倍の広さはあるだろうか、こんなに広くては使い道に困りそうである。

 両面には貴族たちが立ち並び、右隅にはリーシャたちがよく知る文官派閥の面々が固まっている。

 警護に当たっての注意事項として、顔見知りが居ても決して表に出さず、整然と隊列を維持する事を言い渡されている。

 父やよく知る顔触(かおぶ)れに、自分たちの今の晴れ姿を見て貰えていると自覚すれば胸が熱くなる。()れはより一層に顔を引き締めなければ若気(にやけ)てしまうだろう。

 前にはリーファ教導官の顔も見える。朝から学園が休校に()る訳だ、()れなりの地位にあれば必然的に参列者となる。

 室内には重厚な音楽が満ち響き渡っている。一体どれだけの演奏者が居るのかと覗きたく()るのを我慢してとか(まさ)に苦行だな。ああ遂に女性たちが音楽に合わせて歌いだした。儀式ってもっと静かなものだと思っていたよ。

 奥には一段上がった祭壇というべきだろうか、最奥には勿論、神像が在るというか、宮殿内の聖堂という位置づけなのだろう。

 取り敢えず右から大地の神レクトーワ、真正面に御業を許すハルトワ、そして左に死と生を司るラクムルトの三神が祀られているが今は関係ない。

 エミリア親衛隊長は壇上へと上がり左のラクムルト神の方へ進ん行く。女性がラクムルト神側、男性がレクトーワ神側と決められているからだ。次々と終始(とどこお)りなく順序正しく皇族が親衛隊を伴って入ってくるが、全て【遠話】の御業持ちたちが距離と位置関係を無駄に調節しているのだ。

 リーシャたちは壇上に上る前に、待機組として左に()けている。流石にあのやんごとなき方々のいらっしゃる場所は、息が詰まりそうだったので安心した面持ちである。


 歌が変わり神官服を(まと)った女性だろうかスラリと背の高い方が、壇上の中央に立ち他の声に合わせて歌い始めた。

 ()の日の(ため)に相当練習を積んできたのか、元々素晴らしく上手いのかわからないが流石は専門職といった所だろうか、思わずリーシャたちは()き入ってしまう程の旋律である。

 大広間の出入り口にルドルド皇帝陛下は御座(おは)しましなむ……って舌噛むわ! ゆっくりと警護のものと真っ青な絨毯を進み来る。(つい)に壇上全員が歌いだした。リーシャはたちは更に彼処(あそこ)に居なくて良かったと心底思う。というか服長っ! 数人がかりで持ち上げて、着てる方も大変なんじゃないか?

 壇上に上がると小さな御輿(みこし)は載せられた宝冠と共に神官に預けられ、宝冠はハルトワ神の像に一旦返される。何時(いつ)の間にかタリス大公殿下が青い絨毯の上を進み来ていて、()れまた長い服だよ。陛下はどうしているのかと思えば(ひるがえ)してタリス大公殿下の方へ向いている。服持ち係頑張れ!

 壇上手前の階段に大きな座布団が置かれ其処(そこ)にタリス大公殿下が両膝を降ろし頭を少し下げた形を()る。既にハルトワ神の像から再び授与された宝冠の御輿(みこし)を1人で持ってきた神官がルドルド皇帝陛下の傍らにて片膝を着きゆっくりと御輿(みこし)を掲げ頭の位置ぐらいで止めた。そうするとまた歌い出す。壇上のものたちはあれからあれから歌い続けている。頑張れ!

 ルドルド皇帝陛下がタリス大公殿下に御輿(みこし)から頭上へと宝冠を移す。なんというか、うん、おざなりだな陛下自身も()の儀式を面打臭(めんどうくさ)いと思っているのかもしれない。

 特に戴冠の祝詞めいた言葉も無く終わった。こんなものなのだろうか。だがリーシャたちには十分だった様で目がうるうるとしている。

 4人の騎士が宝冠の御輿(みこし)を担ぎタリス皇帝陛下が、矢鱈(やたら)長い儀式服を任された数人の裾持ち係りと共に大広間を退出して戴冠の儀式は閉会となった。


 あっラクスが出てきた死んだ魚の様な目をしている。練習してない曲を歌うのって辛いよね。少し涙目に()っているのは感動したからだよね。多分。

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