26表情
「あ、アリア殿下、此方は大丈夫です」
座席を取り外しリーシャとチェロルは狭い空間の中でゴソゴソと作業していたのだが、突然と上から覗き込んで喋りかけてくるアリア殿下に二人は度肝を抜かれて強張った面持ちである。
「実は此の新しく取り付けた空気推進機関の飛翔確認が終えれば、チェロル様には新しい機体を制作して貰いたいのですわ。ですから此方の協力は惜しみません。何でも仰ってくださいませ」
「新しい機体ですか?」
「ええ、今の機体より一回り大きな設計に為っておりまして、座席が前後に付く二人乗りを想定したものですわ」
「前より早く作れるよー! 今なら全体の骨格を砂鉄で仮形成して、微調整の指示して貰えれば直ぐ終わるよ!」
先程迄びびっていたチェロルは元気一杯で饒舌に喋っている。リーシャは少し引き攣った顔と共に溜め息を吐きつつ作業の続きを再開した。
其後もアリア殿下はちょくちょく覗きに来ては、可動部専用の油とやらを持ってきたり、密封性が向上するからと操舵の出し口を鉄板で覆い少し残った隙間を樹脂らしきもので埋めさせたりとしていた。満足そうなので何よりである。
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「では、空気推進機関? の稼働確認を開始します。皆様、準備は宜しいでしょうか?」
手伝ってくれているのか記録と護衛に来ているのかよく判らないが、前回より多くの人数とアリア殿下が飛翔の準備を行っている。リーシャは手振りと掛け声でチェロルに飛翔の合図を送る。
「チェロル、今回もゆっくりね。離陸開始! ……メルペイク、重さは大丈夫?」
「チチチェ」
「大丈夫だって!」
「そうなの? じゃあ、そろそろ空気推進機関の稼働を開始してみて」
「[稼働]に切り替えた! おー勝手に進む」
「えーっと、次は出力変更棒の数値を発声しながら徐々に上げてみて30で様子を確認だね」
「5、10、15、20、25、30」
「今30丁度です!」
「は、はい! 想定より少し速いです。25を30とした方が良いでありまする!」
「アリア殿下、此の方に記録係を頼むのは少し無謀では? 後一刻は飛翔訓練をされてからじゃないと次の速度増加に付いてこれるかどうか……」
「致し方ありませんわね。メアリーお願いしますわ」
「た、大変助かりまする。リーシャ殿もご助言有難く存じまする」
たまにアリア殿下に付いて記帳係を遣っている学徒の方は、あんな喋り方だったかなと思いつつ腑に落ちない顔で稼働確認の続きを再開するリーシャであった。
「今60です! 此れ以上は私達が継続飛翔困難な領域へと入ります。アリア殿下」
「そうですね、後は二人乗りの制作を待ってから計測を再開しましょう」
「では皆様ー! 此れにて稼働確認の飛翔を終ー了ーしまーす!」
飛翔速度が高いから息苦しく声も通り難い。大げさな身振り手振りと目一杯の大声を張り上げて、リーシャの顔は真っ赤に為っていた。
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「チェロル様、空気推進機関を取り付けた感想と他の変更・新設した箇所についても同じく意見をお尋ねしたいですわ」
「チェロル隠れない! アリア殿下が今日付けた器具とかの意見を訊きたいと思し召しですよ」
リーシャは少し呆れ顔でこっそり背に廻ろうとしたチェロルの首を、何とか抑え前へと誘導した。
「えーっと、空気推進機関の稼働後はメルペイクの補助なしで飛翔可能を確認は……うん、できたけど少し音が煩いのと振動が気になったかな。次は操舵による機体方向の制御ねこれも御業使わず動かせたし逆もできたよ。ただ前より可動が重くなったのと構造知らない人が御業で無理に動かすと留め金がへしゃげるかも。最後の……機体補強部品の効果はね、常に機体全体に気力を循環して確認していたけど歪みとか軋みは無かったよ!」
「ちゃんと確認項目の表を作っていましたのね。大変結構ですよ。参考になりましたわ」
「えへへ」
少し自慢げに照れてはにかむチェロルに、ため息を吐きつつも釣られて顔がにやけるリーシャは仕方がないだろう。
「じゃあ次行こうか!」
「えっ!」
もう少ししたら夕餉の時刻である。何時もの自主訓練切り上げより早いが、果たしてどれ程作業ができるやら。眉根を寄せて不安げな面持ちのリーシャであるが、やる気を見せるチェロルの顔を見て気持ちを切り替えちゃっちゃと済ませましょうと許りに行動を開始した。
「此処はもう少し伸ばした方が良いですわね。リーシャ様指示の開始して貰えるかしら」
「チェロル此の部分を少し伸ばすよ! ゆっくりー「其処です」はい!止めてー」
「次は此方の変更指示を宜しいかな?」
制作を頼まれている図面を借りにアリア殿下の許へ行くと、此れまた手伝いますと言われて今の状況である。
チェロルが図面を見ながら精神を目一杯に集中して砂鉄の骨格を作り上げ、アリアが定規で確認しリーシャが離れた位置で集中するチェロルに指示を伝える。どうしても全体に影響するため数箇所で定規を持った確認係が厳しく計測している。
「此れで全部ですわね。ではメルペイクちゃんにお願いして貰えるかしら」
「はい、チェロルー! 全部の確認終わったからメルペイクに制御引き継いでー!」
「了解ー!」
「チィュチチチ」
「良いよ」
「チュバ」
「おー次は外壁行く? 操舵取り付け先にするーー? ……」
「夕餉の時刻ですね今日は此れ迄に致しましょう」
アリラに抱えられ去っていくチェロルを眺めながら少し疲れた顔を見せるリーシャは、ふぅーと息を出してから其の後を追っていった。




