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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
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23空への一歩

 ティロットが感覚を掴み出したら起こす波も激しくなり、回転技とかも見せ始めた。チェロル? 彼女は別次元を歩み出してるから……。

 リーシャはそろそろ慣れた頃だろうと、次の段階への移行を(うなが)す。


「ではティロット、池から上がって来て。あー、ここでティロットの御業は塩害起こすかな?」

「皆も作った飛翔板(ひしょうばん)を使って飛行を試したいかと思いますし、一度演習場に戻っては如何(いかが)でしょう?」


 ティロットが練習している間に、リーシャとベイミィは六角多孔(たこう)の岩板や水晶板の作成を指導していた。深く心象(しんしょう)して作り上げるにはとても時間が掛かるが、ティロットが水上波走を縦横無尽にこなせる頃には皆の分が出来上がったようだ。


「そうですね、流石にこの人数で飛び回るのも体裁(ていさい)が悪いですものね」

「ラクス様……普通に飛んでますね木の板に比べてどうでしょうか?」

()れは良いわね! 木の板より軽いし衝撃耐性も十分考慮されているわ。

 ん? 中に空気も入ってないわね。気力の通りもだいぶ上じゃないかな?」

「問題無さそうですね。じゃあ、皆様が飛び出す前に移動しましょうか」



 謎の板を抱えた集団はアリア殿下の提案を了承し何時(いつ)もの演習場へとやってきた。ベイミィとラクス様が飛び方の講習を肩代わりしてくれているので、リーシャは思いの(ほか)楽に進めることができる。


「ティロット次は海水を浮かしてその上に乗ってみましょう」

「よーし、行きまーす」

「[海水よ()()れ]」


 ティロットは海水を顕現してその上に岩板を乗せると、今度は勢い良く飛び乗った。

 最初は顕現や空中の維持に多くの気力を使うが、一度波で持ち上げて前に進みだすと揚力(ようりょく)で空中の維持に掛かる気力は激減していく。

 速度が増せばほんの少しの海水で抵抗を作ってやると楽に方向を変えられる。波の密度は段々と薄くなり広がって粒系因子となるが、飛翔の維持には十分な浮力として足りるようだ。


「当初は水の道を常に作る事を予想していたのですが、速度が増せば粒系因子でも飛翔の制御に事足りますね。()れにて実験は成功としまいましょう」

()れは凄い事だな、今まで御業で飛翔するのは【飛翔】【浮遊】と個体系統に適性があるものぐらいだったのだよ。と言っても、【木】の御業持ちが揚力(ようりょく)を利用して飛ぶ変わり者が出るまでは、危険行為でしかなかったからな」


 アリア殿下と話していたリーシャのもとへ、水晶で(つく)った飛翔板で飛翔に参加していた(はず)のエミリア様が、ティロットの飛翔を見ていたらしく、降りてきて話しかけてきた。

 確かに大岩や氷に乗りたいと思う人は少ないだろう。足を滑らせて怪我をしても仕方がない。


「丁度よい所へ来ましたわね。エミリア、私も()の飛翔を試してみたく()りました。水晶の六角多孔板(ろっかくたこうばん)を私の分も作って(もら)いますわ」

「姫様の御業であれば岩の方が制御しやすいのでは?」

「岩は砕いたら砂と()りますがそれは岩ではありません。水晶は粒でも水晶ですし砂でもありえます。概念が岩とは異なるのですよ。まあどちらも作用はしないと思いますが」

(わか)りました。暫くお待ち下さい」



 リーシャはアリア殿下がどうやって御業を使うか気になった。砂であれば水のように板で乗ることもできるだろ。だが、アリア殿下には自身を包む掌握圏がある。

 アリア殿下は地面に置かれた水晶板を”ふわりと浮かし”、そのまま乗り立ち構えを取るとスーッと舞い上がった。

 少し風が水晶板に当っているのがわかるが、アリア殿下の周りは静かなものだ。板の角度によて速度や方向が変わるのを確かめると自由に飛び始めた。

 リーシャは背筋に冷たいものが走る。アリア殿下はごく自然に落ち着いて飛び立ち姿勢を維持しているのだ。木板を使って飛んだことがあるのか? いや最初は動きを確認する様子だった。浮かせた方法もわからない。

 何か直感みたいなものがあった。微笑むタリス大公と引きつった顔のアリア殿下が、単身で空に舞い上がっている想像を脳裏に浮かべた時点で考えるのを止めた。


「ねぇねぇ、岩板の形を修正できる?」


 チェロルである。見かけなかったがやはり居るようである。


「消して作り直せば問題ないけどどんな形にするの?」

「前の部分をこうやって尖らす感じで後ろは丸みは要らないから直角に切っちゃう感じでお願いします」


 チェロルは新しく出来上がった岩板で早速試乗を始める。以前より動きにキレが増した感じだろうか、(なめ)らかに縦回転や螺旋(らせん)飛行、横回転……丁字、いやいや何を目指してるんだ? アリア殿下が拍手してうんうん頷いている。剣舞を習っていたルトアニア令嬢たちやベイミィが降りてきた。


「リーシャ様! あの岩板の詳細を教えて頂けますか?」

「え、ええ、ですけど貴女(あなた)たちは直接板を操作できるから、あまり意味を為さないのでは?」

「動きにキレが出るのは事実です!」

「ええ、そうね……」


---


 その日の夕食でチェロルがメルペイクと一緒に寝て良いか()いてきた。よくある事なのでリーシャは快く了承した。

 次の日の朝、侍女のアイラが半泣きでチェロル様を見かけなかったかと(うった)えてきた。()()()いてみると、アイラの目を盗んでは集めていたり(つく)ったりしていた砂鉄の樽も見当たらないという。

 本人は隠している(つも)りでも、ちゃんと知っているのですと鼻息荒い。取り急ぎ手分けして探すことにした。

 チェロルは直ぐ見つけることができた。女子寮棟の間にある空き地で鉄の骨組みを組み立てていた。骨組み一つ一つは丸い穴が開けられ軽量化を(ほどこ)されている。

 チェロルは右手に定規、左手にはメルペイクを抱え、追加する骨組みの形を砂鉄で描き定規で補正して、メルペイクがその上に鉄を上書きする。只管(ひたすら)この作業の繰り返しをしている。

 傍らにはアリア殿下とエミリア様がいらっしゃると気付き、リーシャは慌てて駆け寄る。


「アリア殿下、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「ごきげんようリーシャ様、迷惑はかかっていませんよ。散歩をしていたら面白いものが見えたので助言をしていたのですわ」

「お早う御座(ござ)います。助言ですか?」

「ええ、何でも空へ飛ばすための道具なのだとか。最後は鉄の薄い板を被せるそうなので、強度が足りない所とか過剰な所とかを指摘してますのよ。あと、重心の配分も大事ですからね。

 それにしても、随分(ずいぶん)とメルペイクちゃんの連携が良いですね。本来は他人の気力が充填した対象の上に、御業の顕現なんて難しいでしょ? チェロル様が一旦気力を薄くして、メルペイクちゃんが砂鉄の維持を担ってから、鉄を生成しているのよね」

「はあ……」

「うん、骨組みはこれで完成で、あっ……」


 チェロルがアイラに抱えられ女子寮へ戻っていった。




 幼少期のタリス皇女殿下が帝都の空を【瞬間転移】と【大気】の御業を駆使して飛び回り、【飛翔】の後天御業を授かったのは密かに有名な話である。


---

修正記録 2017-04-22 08:49


幾つかのルビを追加


「[海水よそに在れ]」 → 「[海水よ()()れ]


成功と仕舞(しま)いましょう → 成功としまいましょう


水晶板飛翔に参加していた → 水晶で(つく)った飛翔板で飛翔に参加していた


(うった)えてきた(ため)、急ぎ手分けして探すことにした。

(うった)えてきた。()()()いてみると、アイラの目を盗んでは集めていたり(つく)ったりしていた砂鉄の樽も見当たらないという。

 本人は隠している(つも)りでも、ちゃんと知っているのですと鼻息荒い。取り急ぎ手分けして探すことにした。



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