20夢中になる
ベイミィとチェロルはアリア殿下に乞われて、ルトアニア領の令嬢たちに【剣舞】の指導を行っている。アリア殿下は一体何を目指しているのか少々疑問である。
ティロットは目下のところ会得した【剣技】を体に馴染ませる作業を行っている。ちなみに刃引きされた武器では気の通った物体は切れないそうだ。つまり人に当たっても怪我ぐらいで済むらしい。
リーシャはルトアニア領の【木】の飛行業が余程印象的だったのか、端を丸く加工した縦長の木の板を用意して池に浮かべる。
そして【水】の御業を板周辺に集中させてからぽんと飛び乗った。普通なら板が沈むか滑って水しぶきを上げながらひっくり返る様が想像付くだろう。
だが御業を制御して沈まないように、そして重心を取れるように調整する。後は後ろ側の水を少し持ち上げればすーっと前に進み出す。最初はぎこちない動きだったが、慣れてくれば体の動かし方や重心の取り方、水流の調整が上手くなり速度も上がる。
リーシャは次第に楽しさに魅入られ夢中になって色々試していく。波を作り重心を取っていればある程度は板の上を移動できるし、板の方向も重心移動で変えられる事がわかった。波を思い通りに作れるから、それに板を滑らせて立体的な動きさえできる。
池は嵐となった。庭を管理している庭師? の方が教諭と一緒に立っていた。
「ここは中央に古書を置いた図書館があるから無茶は遣って欲しくない。
遣るなら奥の池を使いなさい」
「はい。ご迷惑を掛けてしまい済みませんでした」
つい夢中になってしまったと反省しつつリーシャは考える。木は船にも使われる材料だ水に浮く性質を持っている。だがリーシャの持つ固形物質として当てはまる御業は【岩】と【土】であり、どれも重く水にすら沈む。空を浮かすなんてとんでもない事だ。
ふと先程の言葉が流れる「古書」……池の中央にある建物は図書館だったのか。手前の図書館は学園の手引き書にも載っており何度も使っている。
こう見えてもリーシャは文官派閥の令嬢だ。子供の頃から即読みの技法は鍛えられている為、手前の図書館は殆ど制覇している。行ってみるかと板を使おうとしたが、後ろの視線が気になり正規の道を使った。
島の図書館の入館は少々手続きに手間取ったが入ることはできた。まあ、埃を叩かれたり注意事項を聞いたり学徒証の確認と写しを取ったり色々だ。
リーシャは棚に並ぶ本の背文字を瞬時に見取り判断していく。その中で浮力構造に関する書物に目が留まり読み進めていく。ルトアニア王国から持ち込まれたもので船が荷を載せても水に浮かぶ仕組みや木や軽石の構造から多孔質のものが水に浮かぶ事を説明したりと納得させられる。
そして鳥が飛ぶのは体組織が軽く作られている事もあるが、揚力という力の働きを翼の形より作りだし浮き上がっているのだという。
先程の水遊……げふん水上波走が上下自由に移動できた事と似たような原理だ。空気の塊を翼で受けると上へ押し上げる力が加わる。羽ばたく時はこの力を受けながら空へ舞い上がる訳だ。
ああ、メルペイクは半分【浮遊】と【豪腕】だからね。
リーシャはこの仕組みを利用すれば選抜仕合の2人の様に自由に飛べるのではと期待が膨らむ。試してみたいと思いながら顔を上げると、陶磁器に関する書物が目の前にある。
これは岩なのか土なのかという疑問から手に取る。これまたルトアニア王国と伊達に歴史が古い訳ではないようだ。陶磁器の研究から自然の土以外に粉末原料を使って各種合成したものを焼成して作る方法が記載されている。材料によって性質が違うようだ。
現物があれば気を通して作れるかも知れない。岩は単一のものもあれば不純物が多いものもあるから、どれも気を通せば大体再現できる。後でアリア殿下に現物が在れば見せて頂けるか聞いてみるのも悪くない。
外に出て此処で実験……は不味いと思い直したのか、一瞬動きがぎこちなくなり方向転換した。リーシャは”失敗してもその反省を次に活かせる”子なのである。
奥の池まで足を運び先程の水……上波走で使った加工済みの板を見やり、心の奥に心象を焼き付けて岩を生成する。中は空洞だが多孔質ほど細かくなく強度を保つ為に蜂の巣構造である。
「[岩よそに在れ]」
リーシャはじっくり心象したので時間は掛かったが良いものができたのではと見やる。このあたりは普段から行っている水の掌握圏制御の訓練で鍛えているから、繊細に行えただろう。
早速浮かして徐に近付いて蹴りを入れる。「ゴッ」と音を立てて吹き飛んでいくが割れていないようだ。加工した板ぐらいの強度は在りそうである。
「リーシャ様、皆様の自主訓練が終わりました」
「マギー何時も有難う。よく居場所がわかったね」
「あれだけお暴れになられていればそれなりに噂は立ちますし、先程大きな音が聞こえました」
「ああ……そうだねぇ」
「何をなされているのですか?」
「今から実験だよ! 上手くいったらお慰み」
そう言ってリーシャは少し浮かした平べったい岩の板に飛び乗る。岩を御業で制御して転ばないように重心を取る。水上の木板では水を操ったが今度は板状の岩の方だから、感覚を掴むのに少し時間は掛かるが浮いている。
「おー!」
「成功でしょうか?」
「多分成功だよ! 気力もそんなに消費してない」
「おめでとう御座います。リーシャ様」
「有難う。じゃあ本番行ってみる」
そう言うと此間の選抜戦を思い出しながら、リーシャは岩板を少し上目に傾けて進め始めた。岩板は風を受け浮力が付くから、その分気力の消費が抑えられる。
実際に体で感じるから納得させられる。左右に板を動かしていたのも回避運動以外に重心を取る為だ。板へ余計な制御を行わせない為だろう。上下に移動していたのは大気の波、風だ。前もって水の掌握圏を展開していればある程度はわかる。風の壁を登って一回転させる。楽しさに魅入られ……。リーシャはできる子だった。はたりと止まり気まずそうに降りてきた。
「マギー呼びに来てくれたんだよね」
「まだ少し時間はありますけれど……遅れますと皆様の夕食が遅くなりますから、早めに切り上げましょうか」
「そうします」
リーシャは岩板から降り立ちそのまま岩板を手元まで浮かして持ち上げる。
「え?」
軽く持ったつもりの腕が行きすぎる。いや軽すぎるのだ。そのまま上下に振ってみると平らな部分の表面積が大きいのでその分風の抵抗を感じる。二枚あれば腕力だけで浮ける気がするほどである。
手を離してみるとふわりふわり羽根の様に右左に揺れながら降りていく。リーシャはマギーを見やるが首を振る。「ぬぬぬ」と考え込むリーシャであった。
チェックが遅れました。投稿がいつもより9分ぐらい遅くなったかな




