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アリアは知らない  作者: taru
四章 リーシャ編
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17山歩き

 騎士を目指す学徒の場合、講義は少なくなり実地演習が増えてくる。今日は山歩きである。学園の裏山を登って下りてくるだけだ。

 ()うは(やす)(おこな)うは(かた)しである。リーシャは新調したばかりの一度も使っていない長刀を右手に持ち、ルグス殿下から下賜(かし)された短剣を右の腰に差す。

 聞いただけで右に傾きそうであるが大丈夫、左には課せられた荷物がある。

 3~6人で班に分けて行動するのだが、これに専属の護衛が加わる。リーシャたちはマギー1人……あ、と1匹のようだ。

 さて、気を取り直してミルストイ山は全土地図に載るほど大きく、一日で廻りきれるものでは無い。という訳で学園周辺となる。

 学園周りの山は管理する為に女子寮裏、男子寮裏、最北演習場奥、池西側の4箇所に入山道が作られており、それぞれ途中で何度か繋がっている。地図を見ている限りでは中々の複雑さだ。

 この入山道を何班かに分かれてそれぞれ別の入り口から山に入り行きとは違う道を辿って戻る。

 ああややこしい! 要はリーシャたちは女子寮裏から入山して途中の場所で札を受け取り最北演習場奥に出てくる道順を課せられたのだ。


 何はともあれ出発した。リーシャの見るからに大変そうな()で立ちに周りは同情の目を向けているが、気にしてはいけない。真新しい長刀を杖や草木避けとしては決して使いたくないのは(わか)るが抱え込むのはどうかと思うぞ。前途多難だ。

 班(ごと)の出発は前が見えなくなる(まで)()を置いてからだ。チラリと後ろの班を見やると数班後に待機しているアリア殿下の班が見える。彼方(あちら)は護衛と侍女がごった返している。どちらかというと護衛の配置訓練をしている感じである。


 山道は幅が1mと少しぐらいしかなく枝が長刀に当たらないよう気に掛けているがどうしても当たるようでリーシャの顔は曇りがちだ。まあ暗い顔には他にも理由があるのだが。

 寮に戻ってから4人で話をした。何時(いつ)も話しているが今回は真剣な話の方だ。ベイミィ、チェロル、ティロット(おのおの)の両親から学園を卒業したら騎士となる志はわかった支援もすると、ただ(いず)れ時が来ればベイミィたち3人はリーシャに付く、腹心の部下として。

 3人に課せられたのはそういった心積もりを騎士になるまでに収めておきなさいと。ベイミィたち3人は元々親にその様な考え方で育てられてきたから何となく察していた。特に気負うものも無い。リーシャの為に人生を(ささ)げるのは嬉しい限りだと。

 だがリーシャは複雑だ。友達として接してきた。今更部下と言われても困惑する。どう接して良いのか戸惑う。


 山道の勾配の厳しいところは階段が焼き目を入れた細い丸太で整えられていた。学園の広大な庭といいこの階段といい誰が管理しているのやら。


「リーシャ様、その木は(うるし)ですね。かぶれると不味いので近付かないで下さいませ」

「ええ、わかりました」


 ベイミィの言葉が以前より堅く感じる。いつまでも子供のままでは居られない、騎士として貴族として自覚を持たなければならない時期なのかもしれない。



 中腹ぐらいなのだろうか、木の生い茂る山の中では位置が全くつかめない。磁石版(じしゃくばん)と地図便りに前へ進むと3つ目の分かれ道が現れた。横へ伸びる道と上へ向かう道、この上へ向かう道を進めば中腹の台地へと出られる(はず)だ。この台地の真ん中あたりに札を受け取る場所があると地図ではなっている。

 学園に近い道に比べると無理矢理通したと感じる場所が多くなってきた。今も大きな根っこを飛び越えたところだ。

 少し急勾配な坂を何とか登りきると、道がなだらかになってきた。チェロルがメルペイクに手伝って貰い登っていたのは見なかった事にして、此処が地図に載る台地かなと進むと木々が無くなり開けた広場へと出た。中央には東屋(あずまや)が建っており其処(そこ)に仮設の札渡し場が(こしら)えてある。

 此処では最初の班が休憩を取っている様で他の班も(なら)って休憩している。どちらにせよ前が出発しないと此方も出られないと休憩をすることになった。まあお昼だから食事を取れば丁度良い。

 美味しいとは言えない携帯食を水で流し込んで早々に食べ終えたティロットはメルペイクを誘って広場で駆け回る。


「メルペイク行くよー、よーいドン!」


 場所は(たが)えどすることは同じ元気いっぱいだ。重い荷物を引っ()げて(ようや)く台地に辿(たど)り着いた面々は信じられないものを見る目であった。


 帰り道は更に入り組んだ道を進むが、半ばよじ登る道を進んだことに比べれば楽なものだ。急勾配の坂道も皆わざと足を滑らしながら降りる。マギーはまだまだ子供ねと感じている事だろう。着地点を瞬時に判断して軽やかに数歩飛んで降り立つ。4人一斉に「おー」と感嘆(かんたん)の声をあげる。


 最北演習場の前に着いたのは何時(いつ)もの闘技実習が終わる時間と大体同じくらい。登りに比べて大分(だいぶ)早く降りてきた。

 疲れてはいるが毎日の習慣で変わらず自主訓練は済ませたい。皆、(おの)ずと足は何時(いつ)もの演習場へと向かう。



 長刀には何度も枝が当たる感触があった。リーシャは内心泣きたくなる気持ちである。部屋に戻って丁寧に(つか)(さや)を布で()き取っていく。

 (ぬぐ)うと少し汚れていた表面が元通り綺麗に輝き始めた。ああまだ大丈夫なんだと嬉しく思うと同時に考えが降りてくる。自分も今まで通り変わらず心許せる友達として思えば良い。例え傷つこうとこの長刀は変わらず大切なものだし自分も変わらないのだと。

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