13模擬試合
一日に予定されていた全ての講義が終わった。闘技実習は演武だけだったのかと問われれば実力者同士の模擬試合も少し時間を取って行われた。
ルグス殿下とティロットの試合? これは無い。残念ながら実力が僅かにティロットが上であり先天御業に【強肩】を持つためルグス殿下の負けが確実であった。
ただ普通の状態であれば戦わせたかも知れないが、様子が少しおかしいからそれとなく周りから訊いてみると、昨日の立食会でやらかして滅入っているらしい。そうとわかれば負け試合をさせる訳にはいかなかった。
だが他は運次第という事でリーシャ対ルグスの模擬試合が行われた。
リーシャは長い棒、ルグス殿下は短い棒である。
実力が近い者同士で戦えば得物が長い方が有利である。だが今日のルグスは一味違った。
ルグスは只管基本を忠実に体幹を崩さず防御に徹した。だがリーシャも落ち着き長柄を活かしながら深入りを避ける戦いに切り替える。
一進一退が続いた。そしてリーシャが長期戦を嫌いついに踏み込んだ。
ルグスはこの時を待っていた。突き放たれた棍棒をギリギリで受けそして流す。
リーシャは僅かに体が流れる。ルグスは勝利を確信したが足が動かなかった。
「止め!」
リーファ教導官から制止の声が掛かった。これ以上は無用と判断されたのだろう。
ルグスは確実に普段より動けていた。リーシャが長期戦を嫌うほどに消耗する戦いだった。
お互いにと付け加えれば制止の掛かった理由もわかる。
実力者を態態選んで対戦させているのだ。泥仕合を長々とする必要も無い。
いやルグスの健闘をたたえて動けなくなった処で止めさせたのだ。
「はぁはぁ」
「良い試合を有難う。強いですね名前を尋ねさせて貰っても良いかな?」
「あっ、はい、お初にお目に掛かります。私グラダード男爵家が第一女子リーシャ・グラダードと申します」
「初めまして、リーシャ様。私はトロスト・ラギストア皇子が第二男子ルグス・ラギストアです。
以後宜しく」
「ありがたきお言葉頂戴致しました。此方こそ宜しくお願い致します」
「公式な場ではないから、堅苦しい言葉は無しで頼むよ」
「はい」
「では次の対戦機会があればまた全力を尽くして戦おう」
「此方こそ」
リーシャは礼を執って辞した。
他に面白い戦いといえば特に無いだろう。ティロットとアリア殿下が対戦したがティロットの方が格段に強かった。
剣技の型でいえば2人とも並び甲乙付け難い。だが同年代の実力者と行う実戦経験の差が大きかった。これは慣れの問題だから数回の模擬試合があれば埋まるだろう。
と落ち込むアリア殿下に誰か諭したのだろうか。
「待っていましたよティロット様。軽く準備運動をしてから打ち合いの練習に付き合ってくださいませ。
リーシャ様この子、借りていきますわね」
「ご存分に」
リーシャたちは演習場で木剣を持った並み居るルトアニア領の令嬢たちの間に入り込み、アリア殿下に挨拶をしようとした矢先に、先程の言葉と共にティロットが連れ去られたのだ。
傍らにエミリア様が付いていたのでティロットは満足だろう。とアリア殿下御一行が移動しかかったのだがアリア殿下は振り向き首を傾ける。
「その鳥は?」
「メルペイクという名前です。アリア殿下。
私の”従魔”として雛から育てましたからよく懐いてます。
たまには運動がてらに空も飛ばしたいので丁度良い機会と思い、この度紹介しようと連れて参りました」
「雀の変異でしょうかしら大きくなっても可愛いですわね。
従魔の印も付いていますし問題ありませんわ。
そちらは先程護衛に来られていた侍女の方ですね。闘技服ならば指導も手伝って貰えるのですね」
マギーはメルペイクを抱きかかえていた。闘技服は羽根だらけになる事を予想してだろうか。
「はいマギーは【武技】を使えます。
メルペイクを連れてくる事もあったので来て貰いました」
「メアリー此方へ、彼女も【武技】を使えます。
マギーさん宜しければメアリーと協力して彼女たちにも指導して貰えるかしら」
「お任せあれ」
マギーが礼を執るとアリア殿下御一行は少し離れたところへ移動していった。あの集団が剣技を習っている子たちなのだろう。
リーシャたちは、それなりにルトアニア領の武技を習う子たちと挨拶を交わし準備運動と自主訓練を始めた。
対するはメルペイクである。リーシャは腕と足を保護する形で武装している。
メルペイクは地に降り拳のように翼を嘴の先、少し下で「シュッシュッ」と前後に折りたたむ。器用な……。
リーシャは左足を深く前へ踏み込み右手を地面すれすれで抉るように振る。メルペイクの位置に合わせたやむを得ない姿勢だ。
つぶらな瞳でメルペイクは拳を「ぺしっ」と叩く。同時に風が巻き起こる。
姿勢を崩された上に突風で「コロコロ」と転がってしまう。
メルペイクは『次っ!』とばかりに翼を手前に押し出し羽の先端を立て「ぺこぺこ」と前後に動かす。
そこでリーシャはふと気づく。
「あれ? ベイミィとチェロルは居ましたか? あっ! 居た」
意識すると気がつくベイミィとチェロルの姿に。そうチェロルは【気隠】の片鱗を既に見せ始めていた。ベイミィはそれを必死に真似しているらしい。
ベイミィが居なければ気づけなかっただろう。てか誰だチェロルに気隠教えたの!




