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アリアは知らない  作者: taru
一章
3/345

02私って幽霊?

 ()のくらい()っただろう。

 涙は出ないし、お腹が()く気配も無く、寝ることも無い。

 体も声も、ああ、駄目駄目。

 (また)、同じ繰り返しを何度した事か。

 泣きじゃくり離して()れなかった妹テリシアの顔を、幾度(いくたび)思い出しただろうか。


『泣くことは救いでも()るのね』


 ()の崩落した現場周辺には多数の足跡が残されて()り、()れを辿(たど)って()ると(いく)つもの強い思いが残されて()た。

 彼女たちの悲しみ、絶望、望み、様様な強い気持ちを、アリアが持つ御業(みわざ)の一つ【残留思念】から得る事ができた。

 彼女たちは泣き崩れるような事はしない、()(よう)な時でも冷静に淡淡と職務を実行して()る姿が容易に想像できる。


何時(いつ)(まで)もくよくよしてては駄目よね、と自分に()い聞かせて、……()ずは現状の認識よね。()う! 御業(みわざ)は使えてるわよね。【残留思念】、それと……聖光出しっ(ぱな)し? ()れって現実だと目に(つら)かったのよね。無駄にきらきらした派手な感じでさ。あら、光の届かない範囲も見えてる感じかしら。そして、()のふよふよ浮いてるのって』


 アリアは、すすすっと上へ下へと移動するのを確認する。


『【浮遊】、【暗見】の後天御業(みわざ)を授かった……という事かしら。後は声が出せなくて』


 はたはたと石塊(いしころ)を手で(はた)いて()るが、すかすかと素通りして仕舞(しま)う。


『うぬぬ、物質では無い気や精神的な存在?……って()うか、()れって幽霊? (たま)に壁とか天井で手を叩く(やから)よね』


 アリアは早速、自身の素晴らしい思い付きを試して()るべく、『むむむ』と石塊(いしころ)辺りに音を鳴らすよう意識を傾けるが全く鳴る気配は無い。


『ふむ、幽霊さんたちが鳴らして()りました訳では()りません(よう)ですわ』


 嫌疑を掛けた事を心の中で謝りつつ、何気(なにげ)石塊(いしころ)を押して()る思いを傾けると、ころりと転がった。


『【岩】属性?』


 アリアが先天で授かって()る言霊属性の御業(みわざ)は、【熱】【大気】【聖】【砂】で()って【岩】は存在して()なかった。

 (ちな)みに【熱】【大気】は母親タリスから引き継いだ、希少とされる御業(みわざ)である。(これ)は稀に起きる事で()るが、必ずしも引き継ぐものでは無い。


 声が出せない(ため)、言霊の強化は使えないが強い意志を込めれば石くらいは消せる(はず)、と念じて()るが反応は見当たらない。


 押して()る。

「ころり」

『ふむ』


 上げて()る。

「すうっ」


 魔動車から散らばったとみられる周囲の残骸へ意識を傾けると……。

「すうっ」

 浮き上がったのだ。


『【念動】の御業(みわざ)……って事ですわね』


 ()の一言を皮切りにアリアは、と()っても終始【念話】だが、(なに)やら(つぶや)き始めるのである。



『目は暗い所(まで)見えて()りますのよね。体は無いし触れられない。透けてる上、微妙に光ってる。勿論(もちろん)服は着てますけれど、脱ぎ方は(わか)らない。鼻は多分効かない、声は出ない、呼吸は多分してない、食事は多分要らない、睡眠は今の(ところ)は……眠く無いですわね』


 ふむ、と()(まで)(つぶや)きで(なに)か納得したのか、一つ(うなず)くと今度は自説を論じ、(いや)、推察し始めた(よう)だ。


『予想では【浮遊】【暗見】【念動】の後天御業(みわざ)を新たに神から授かったと()(ところ)でしょうか。魔に落ちた……確かニコライ先生の話では魔窟(まくつ)の中や気の(よど)んだ魔気()まりの場所で、年月を()て死者や動物が変じる現象……』


 (うつむ)(よう)にして首を振るのは考えを正すものか、それとも自身に再び訪れる暗い気持ちを振り払いたいのか。


『死者ですと意思の強いものや資質の高いものは生前の心を残し(やす)いが、弱いものだと見境なく暴力を振るう悪鬼と()るのでしたっけ。でも、長い年月なんて()って()いし、(なん)身体(からだ)が無いのよ! あっ、親衛隊が運び去って仕舞(しま)った可能性は()るのよね……。幽霊? ()の世に未練、心残りが()るものや死した時が事故などで自分が死んだと気付かない場合、死を受け入れる事ができなかった人たちは幽霊と()るんだったよね』


 うんうんと(うなず)くのは持論に陶酔して自画自賛気味なのでは無く、一つ一つの事柄に注意深く検証して()の都度判定を下して()るからである。


『後、自殺は身を犠牲にした場合は許されて、人柱の場合は(とら)われて、生の放棄は輪廻(りんね)剥奪(はくだつ)だっけ、前読んだ怪しい本に書いて()りましたわ! だとしましたら私は死んだと気付けなかったから“旅立ちの園”……じゃなくて輪廻(りんね)の環へ行けず幽霊に()った。輪廻(りんね)から外れた……』


 アリアは自身の現状に結論付き掛けたかと思われた瞬間、はたと気付き口を()いて出る。

 (いや)勿論(もちろん)【念話】なので、口からは出て()いのだけれど。


『んんっ、別の本だと解放は解脱(げだつ)御業(みわざ)(もっ)(おこな)うは善悪問わず(ごう)が永遠に続く云云(うんぬん)()う、()れを利用して自殺は解脱だーと唱えた人たちが此間(こないだ)騒ぎを起こしてたよね?』


 普段で()れば常に周りに人が付いて()り、誰かしら答えて()れそうな状況だけれど、辺りはしいんと静まり帰って実に寂しいものである。


(なん)だか話が脇道に()れましたわね』


 つい、一息吐く動作を入れても感覚が無いものだから、(さま)にならず(むな)しい(ばか)りだ。


『幽霊は身体(からだ)が死んだ時に(こぼ)れ落ちた心なのかな。からだ……身体(からだ)は既に運ばれて()りますなら、今頃は葬礼でも()ってるのかな。私が死を認識しても(いま)だに心が此処(ここ)()るのは意味が()ることなのかな』


 気持ちが負に傾くと、考えも()ぐ暗く(うつ)めいて()る。


『駄目駄目、御業(みわざ)も増えてるみたいだし……物語では未練を残した幽霊は願いを(かな)えて(もら)い旅立ちの園に召される。……後、聖光を浴びると……浄化される!? 本来の浄化は聖堂の(すみ)に置いて()(たる)の水を使うのよね? と()うか、(さっき)から無駄に垂れ流してる光は聖光なのですわよね。ううん、今は()れ以上考えても無駄ですわ』


 まあ、アリアの()(ところ)の、聖堂の隅に置いて()(たる)の水とやらは聖水として祀る(ため)のものだ。

 そして、御業(みわざ)は人人の願いや思い、()まり強い意志を神が()んで与えられると()うのが現状の定説である。

 (また)御業(みわざ)の言霊属性は人人の周りに実在する物質や現象、生物系が確認されて()り、ルトアニアは()れを国を挙げて研究する事で現在大きな成果を上げて()る。



 アリアはふよふよと、其処(そこ)らに散らばる足跡を確認して()く。


()れも私を探す強い思い(ばか)りね……私の身体(からだ)を見付けたと喜ぶ……訳は無いから、()ったとしたら強い消失感()しくは(なに)も考えられないか……』


 散らばる足跡には、左右へ向かうものが()る。

 何方(どちら)かへ向かったのでは()ろうが、足跡は泥が固まった所と()の汚れが残る(まで)()った。


 取り()えず彼女たちは、何方(どちら)かへ向かった(はず)である。

 追うか、追って如何(どう)する。

 死した事を告げて最後の別れを伝える?

 (いや)()の状態で別れを告げるのもおかしいか、()ぐに旅立ちの園へ向かう訳でも無さそうである。

 進もう。

 ()の場は、アリアを思う残留思念が強過ぎて何方(どちら)へ向かったかは(わか)らないのか、それとも近衛(このえ)騎士の中でも精鋭で()る親衛隊が、目的地を示す残留思念を残す(はず)も無いのか。

 ともかく、彼女たちに会って()れからの話しを相談しよう。

 アリアだけでは、こんな混乱した状態なのだから真面(まとも)な思考などできやしない。


 アリアは、ふよふよと洞窟の奥へと進んで()った。



---

修正記録 2017-12-24 12:04


ふむ、幽霊さんたちが鳴らして()た訳では無い(よう)だ。

『ふむ、幽霊さんたちが鳴らして()りました訳では()りません(よう)ですわ』


改行を追加


ルビの追加・修正


読点の追加・変更


「私の身体(からだ)を」追加


---

修正記録 2017-12-24 00:51


一部漢字を平仮名に変更


一部平仮名を漢字に変更


改行と読点を追加


ルビを追加


説明や表現が足りない所へ追加


語尾、言葉遣いを変更


アリアの長台詞となっていた場所に説明を加えて分割


誤字の修正


---

修正記録 2017-05-28 09:25


幾つかの平仮名を漢字に変更


位経(くらいた)っただのろう → 位経(くらいた)っただろう


崩落現場の周辺 → 崩落した現場周辺


幾つかの仮名を平仮名に変更


幾つかの改行、句読点を変更


やな → 派手な


すすすっと上へ下へと移動するのを確認して → アリアはすすすっと上へ下へと移動するのを確認する。


てか、 → って言うか、


アリアの言霊属性の御業は → アリアが先天で授かっている言霊属性の御業は


幾つかのルビを追加


目は暗所まで見える → 目は暗い所(まで)見えている


「死者ですと」追加


となるんでしたっけ。 → となるのでしたっけ。


てかさ → と()うか、


聖光よね。 → 聖光なのよね。


聖堂の隅に → まあ、聖堂の隅に


御業は人々 → そして、御業は人々


思い強い意志から → 思い、詰まり強い意志を


御業の言霊属性は → (また)、御業の言霊属性は


園へ向かうわけでも無い → 園へ向かう訳でもなさそうである


私 → アリア


こんな状態 → こんな混乱した状態


出来ない。 → 出来そうにない。


---

修正記録 2017-03-05 05:27


一部句読点を修正


幾つかの改行追加


幾つかの語尾を変更


---

修正記録 2017-02-20 15:29



「!」「?」の後ろにスペース抜けを確認 → スペース「 」追加


後天御業が手に入った → 後天御業を授かった


石ころを押して見る → 石ころを押して見る思いを傾ける


思考が暗くなる部分で「だめだめ」を追加


ルトアニアはこれを研究して現在、 → ルトアニアはこれを国を挙げて研究し、現在


散らばる足跡に左右の向かう → 散らばる足跡に左右へ向かう


幾つかの語尾や句読点を追加・変更しました。

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