178詳らか
輝く金剛石の六角多孔飛翔板を駆り、水上を颯爽と滑り往く。
其の威厳に満ちた姿を見遣れば、誰しも頭を垂れて跪くだろう。
惜しむらくは此の地底湖に、他のものなど居やしない。
タリス皇帝陛下は聴音用耳当てを以て、周囲の状況を悉に精査する。
其の媒体は、飛翔板の【炭】でも周りを取り囲む【大気】でも無く、此の地底湖の大半を占める【水】の御業に依る音の聴音である。
幾つもの水に繋いだ気の線が、音を伝え耳許の増幅魔石へと運び聴かせるのだ。
矢張り音を伝え運びたる張本の水だけ在ってか、其の音は極めて良好と容易に受け取れる。
「あっ、ラクス様は、矢っ張り登って来られるのですね。けれど今回は体が椅子に埋もれて仕舞うので、迚も助かりますよ」
「リーシャは未だ体が小さいのですから、仕方ありませんわ」
どうやらラクス様とリーシャの会話が聴こえて来て居る様である。内容はラクス様がお姉さん風を吹かして居る処だろうか。
「今回は余り空気の循環作業は行わないのですわね」
「はい、マギーが植物の管理を遣って居て呉れるので、先ず問題はありませんよ」
「それで、今は何を先程から熱心に為さって居られるのですか?」
「未だ水深が浅くて遠いのですけれど、水底に在るかも知れない魔石を探ってます。気になる所は此の地形絵図に印して居るのですよ」
「噫、然う云えば、今回の希少魔石は元々リーシャが探り当てたのでしたわね。あらましは実際に全て聴いて居りましたから解りますわよ。聴こえて居ても見えないのが残念ですわね」
「……はい、あっ、若しかして……」
『ええー、リーシャちゃんたちの会話は、確り聴いて居りますよー。急いで帰っても執務が待ってるだけですから、リーシャちゃんの印した絵図の場所を確認して行きましょう! 絵図を一旦イザベラに渡し為さい。リーファの持つ絵図に印を写して貰うからー』
若干の本音を漏らしつつも、タリス皇帝陛下は【念話】でリーシャに指示を出す。
「はっ、畏まりました!」
「え、え、何?」
「はい、確かに預かりました」
突然の事態に戸惑うラクス様を放置すると決め込んで、イザベラ様は絵図を持って前方部の部屋へ向かった様である。
「ベイミィちゃん、聴こえて居りますね! 今からイザベラが持って来る絵図に、リーシャちゃんが魔石の在りそうな場所へ印を付けて有りますから、リーファの絵図に其れを描き加えて帰投序でに魔石探索をするよう伝えて貰えるかなー」
「畏まりました。リーファ様、タリス皇帝陛下から……」
タリス皇帝陛下が声に出してベイミィに伝えたのは、先行し周辺の音を悉に精査して居るハンナ様や周りの近衛騎士たちへ、行動予定の変更を伝える為である。
決してリーファに直接伝えたら、執務が待って居りまする故、承諾し兼ねますとでも反対される危険性を未然に防いだ訳ではない筈である。
「判った。ベイミィは引き続き聴音を。ああ、来たね。イザベラ、此の絵図に印を写して呉れ。我々もベイミィの使ってる聴音器具程、大掛かりなものではなくても、陛下やハンナ様が使って居られる様な器具で音だけでも得られれば、便利に為るかも知れないな」
ベイミィからタリス皇帝陛下の言伝を確認したリーファ様は、発せられた勅令を受け入れるしか無い為、早々に考えを切り替えて取り敢えず気掛かりな問題の定義だけに止めた様である。
【念話】の御業では接続する相手を一々指定する必要が有るのだけれど、先程の声を発する言伝の場合は、ハンナ様とベイミィ、若しかしたらラクス様も同時に聴けるのだから、リーファ様自身も聞ければ何かと手間が省けるだろうと。
「集約するにしても普通のものですと、ベイミィの様な音の取捨選択が難しいですし、一部の集音装置? ……ですか、此れに限定して分岐を追加して遣れば事足りるのではありませんか?」
アリア殿下は良案と認識するや否や、早速と具体的なものへと昇華に掛かる。
「うーん! 其の辺りはリーシャ様と相談して見るよ!」
「ああ、チェロル、其れは任せて置くが、無理ならそれでも構わないからな。ん、イザベラ、有難う。ベイミィ、此の絵図で案内を頼む」
リーファ様は操舵を担当する自分が持つよりも、聴音で常に地形を把握して絵図と睨めっこして居るベイミィに渡す方が、元々進路補正も担って居るのだから何かと都合が良い。
徒、最初から指示内容に変更を加える発言をし、場を混乱させても意味が無い。絵図をベイミィと交換すれば済む話なのだから。
「あ、はい、承知致しましたわ。では、先ず北東へ向かって下さいませ」
ベイミィは自分の絵図を印の描かれたものと交換してから、自身の頭に描かれた位置情報と照らし合わせて目的地を示すのだ。
「うん、判りましたわ。北東へ向かうそうですのよ」
どうやらラクス様の所でも、聴音が開始された模様である。
「北東……あっ、イザベラ様、有難う御座います。……噫、此処か、確かライリッテ様が怪しいと仰られて居た場所です……」
「「怪しいですか……」」
『怪しい?』
「リーファ様! 今、目指す場所はライリッテ様が怪しいと仰られた場所だそうですの!」
イザベラ様とラクス様が同時に声を重ね、タリス皇帝陛下が思わず【念話】を放ち、ベイミィが前方部の部屋で報告したのである。
リーファ様は手で額を押さえつつも、口を開く。
「……なら止めて置こう」
だが、其れを遮る様にアリア殿下が宣われるのである。
「いえ、私の事なら構いませんのよ。此れを行かずして私が此処へ来た甲斐が無いと云うものですわ!」
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修正記録 2017-08-26 10:48
若干を本音を → 若干の本音を
句読点を追加
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修正記録 2017-08-26 07:36
其れは、飛翔板でも【大気】でも無く、【水】の御業に依る音の聴音である。
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其の媒体は、飛翔板の【炭】でも周りを取り囲む【大気】でも無く、此の地底湖の大半を占める【水】の御業に依る音の聴音である。
行って → 遣って
リーシャが探り当てて居りました様ですわね。
↓
今回の希少魔石は元々リーシャが探り当てたのでしたわね。
ルビを追加
「突然の事態に戸惑うラクス様を放置すると決め込んで、」追加
イザベラ → イザベラ様
部屋に → 部屋へ
、ああ、イザベラ、 → 。ああ、来たね。イザベラ、
句読点を追加
省けるだろう。 → 省けるだろうと。
「声を発する」追加
自分も → リーファ様自身も
「 リーファ様は操舵を担当する自分が持つよりも、聴音で常に地形を把握して絵図と睨めっこして居るベイミィに渡す方が、元々進路補正も担って居るのだから何かと都合が良い。
徒、最初から指示内容に変更を加える発言をし場を混乱させても意味が無い。絵図をベイミィと交換すれば済む話なのだから。」追加
自分の頭 → 自身の頭
此処か確か → 此処か、確か