177気後れ
皆の一致団結した連携は、物事の解決を加速する。
入り江を完全に封鎖して居た2つの氷塊は、見る間に解体されて新設した収納場所へと運び込まれたのだから。
其の御蔭かは判らぬが、メイリア神官長の顔も幾分晴れやかに為っただろうか。
バルパルはチェロルの遊び相手にされない為にも、早々に前回運び込んだ部屋へと移動済みである。
但、矢張り彼の4分の1巨大貝だと食べ過ぎで、昨日は2回に分けて食べさせたとの事。
勿論、今回は小さめに切り分けたので、多分、次からは食べ過ぎで寝込む事は無いだろう。
メイリア神官長は礼を執って微動だにしない。
皆は帰投の準備に入って居り、アリア殿下は聴音用耳当てをタリス皇帝陛下に渡して、足取り軽く潜泳機へと乗り込む処である。
「お母様が潜泳機と共に水上を滑走して後行するなら、別れて移動するのは護衛の都合だけでしたのね」
アリア殿下がぽつりと漏らす不平に、リーファ様は臆面もなく応えるのだ。
「今後、近衛騎士たちに配備予定の聴音用耳当てを、陛下や殿下に確りと御確認して頂ければと、機会を設けたに過ぎませぬ故、御理解を賜りとう存じます」
アリア殿下としても聴音用耳当てを前にして、興味を惹かれうずうずして居たのは間違いないのである。
優先順位を決められない中で、自分から口に出さずとも切っ掛けを貰えたのだから、文句は無いのだが、若干悔しいので口に出した迄なのだろう。
「仕方ありませんわね。彼は革新的に世の中の有り様を変えて仕舞うでしょう。後程、エミリアたちにも確認させねば為りませんわ」
其の事は、リーファ様も薄々気付いて居る。
何しろ潜泳機で作業して居たリーシャたちの会話が、多少とも離れたラクス様の許へ、否、蓄音魔器の許へ全て届いて詳らかに声を聴かせたのだから。
彼の様な器具が持ち歩ける大きさで存在すれば、利用も対策も課題が山積みと為るくらいは直ぐに想像できる。
前方部の扉から降り立ち操舵席へ向かおうとするリーファ様をベイミィが呼び止める。
「リーファ様、此方が声を増幅する魔石ですの。他の魔石は未確認のものと別にして後部の部屋に置いて居りますわ」
「ああ、回収して置いて呉れたのだな。チェロル、先は悪かったから避けないで居て呉れると嬉しいのだが……」
「……うん!」
「リーファ様、其れはメアリーに宮殿へ転送させましょう」
アリア殿下が横から声を掛けると更に上から、マリオン先生の声が掛かる。
「タリス皇帝陛下が親書を添えるそうです。暫しお待ち頂きとう御座います」
続いてメアリーがするりと降り立ち此れで、予定して居た全員が搭乗した事に為る。
エミリア様とミーア様の2人がアリア殿下の護衛を努め、イザベラ様とラクス様は既に邪魔に為らないよう中央の部屋へ移動済みである。
「分かりましたわ。リザエルさんの役職でも増やされるのでしょう」
勿論、そんな事は無いのだが、不思議と冗談には聴こえない。
「では、此れを、皇太后陛下宛の親書と為って居ります」
届けに来たのはハンナ様直々にであるが、皇太后陛下と聞けば自ら進んで運ぶのも吝かで無い。部下たちとしては困った話なのだが。
「確かに、それでは離宮経由と為りますが、届けさせて頂きます」
メアリーが受け取った親書と魔石の入った袋を、通い箱に入れると【瞬間転送】の御業が発動する。
「はい、確かに親書の転送を確認致しました」
ハンナ様は確りと転送が終わるのを見届けてから、漸く扉を閉めて潜泳機を後にする。
「では、出発します。リーシャは入り江を出てから、潜行手順を開始して呉れ」
「=了解しました=」
潜泳機の出発に気付いたハンナ様が、慌てて先行して居る自分の部隊へと戻って往く。
律儀にタリス皇帝陛下へ親書の転送が完了した事を、報告しに行って居たのだから仕方無い。
続いてタリス皇帝陛下の一団も潜泳機の後ろへ、ゆっくりと付いて往く。
勿論、陛下の耳は聴音用耳当てを被せ聞き耳を立て乍らの水上滑走である。陛下で無ければ【念話】の御業持ちと云われるものたちは、此の聴音用耳当てとは最高の組み合わせかも知れない。
入り江を賑わせて居た一団が去ると辺りが急に暗くなり、礼を執り続けて居たメイリア神官長は其の場にへなへなと力無く座り込む。
「はあ、彼の方たち矢っ張り3女傑ですよね。本当にびっくりしましたよ。朧げな記憶を頼りに思い出そうとして居たら、陛下が現れて更にびっくりしましたけれどね。マリオン様に慣れて居たのも有りますけれど、どうやら3女傑の方たちは噂程恐ろしい方たちでは無い様ですのね」
メイリア神官長は安心したのか、気が抜けてつい口に出して呟いて仕舞う。
『成る程ー、当たらずも遠からずで一番の原因は3人に気後れして仕舞ったと云う処かなー。そうだよー、3人は噂程は遣らかして無いよー。半分以上は私が押し付けた後始末だからね!』
メイリア神官長が、ほんのり涙目なのは気の所為だろう。
聴音用耳当ては、正に最悪の組み合わせである。
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修正記録 2017-08-25 09:12
滑走する → 滑走して後行する
近衛騎 → 近衛騎士たち
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修正記録 2017-08-25 08:53
報告しに行って居たのだ。 → 報告しに行って居たのだから仕方無い。
聴音用耳当を被せ → 聴音用耳当てを被せ
「 聴音用耳当ては、正に最悪の組み合わせである。」追加